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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第2章 行商人見習い
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第28話 護衛依頼2

ケンがゴブリンとの初陣を飾ってから暫く経ち、今は行商の真っ最中だ。

より具体的に言えば、朝早くにサウスの町を出て近くの村へと向かっている最中である。つまり今日はケンとハナにとって行商人デビューの日なのだ。


幸い天気も良く風も気温も穏やかで周囲は開けておりモンスターも野盗も見当たらない絶好の行商日和である。


昨夜2人は興奮して中々寝付けなかった。2ヶ月に及ぶ町での修行が終わり遂に町の外に出られるのだ。見たことのない景色、行ったことのない場所に行けるという興奮で数日前からテンションは高めであったがそれがピークに達していた。


しかし現在、2人は今すぐ帰りたい気持ちで一杯だった。その理由は今も2人の目の前で繰り広げられている。


「姫様お足元にご注意を!姫様御覧下さい花畑があんなにキレイに!姫様お疲れではございませんか?今すぐにお休みになって下男共に馬車を用意させましょう。ええそうしましょう」

「ああーうるせえウルセエ五月蝿え!このバカ女は本当に馬鹿だな。注意するような道じゃねぇし、そこら中に花畑あるし、まだ昼にもなってねぇよ疲れる訳ねぇだろ!つーかこの場に下男なんざ居やしねぇよこの没落貴族が!」


一方はヘイであった。しかしいつもの飄々とした感じは存在せず、ひたすらギスギスした空気を振りまいている。そしてもう一方は若い女性であった。年の頃はヘイと同じくらいであろう、ハナよりも年上ではあるが出発してからずっと落ち着かずに周囲に視線を振りまきながらハナにひたすらに声を掛け続けていた、


「誰が没落貴族ですかこの転落商人が!」

「転落なんざしてねぇよこの絶壁騎士!」

「誰が絶壁かー!!」


憤怒の形相で女性がヘイを追い掛けて行く。ヘイは荷物があるにも関わらず女性よりも素早く動いて捕まらない。こんなやり取りが出発してからずっと続いているのだ。まだ行商をしてもいないのに早くも2人は疲労困憊である。



「あの師匠に旦那、あの2人どうにかなりませんか?」

「どうにもならんだろう。すまないなギイ、うちの若いのが迷惑をかけてしまい」

「いやこちらこそすまない。まさかこんな展開になるとは想像もしていなかった」

「申し訳ありませんお師匠様。私の失態です」

「それは違うぞハナ。お前を預かるということの意味を私が正しく認識出来ていなかったのだ。こういう事態も予想して然るべきだったよ」



ケンとハナの師匠のギイと、旦那と呼ばれた歴戦の強者風の男が揃ってため息を吐く。

旦那と呼ばれた男は何故こんな事になったのかと、あの日ヘイが護衛依頼を出しに冒険者ギルドを訪れた日の事を思い出していた。




その日冒険者ギルドに待望の依頼が舞い込んできた。


一月程前からこの街はある噂で持ちきりだった。


「この国の王女殿下が行商人の元で修行をしている」


というものだ。聞いた当初は皆鼻で笑ったものだが、当の王女殿下が実際に冒険者ギルドに出没して依頼を受けていては笑うことも出来ない。何でも町の外の依頼を受けられるようにするためにランクを上げようとしているのだそうだ。


それは中々に困難を極めていたが無事に成し遂げられ彼女はFランクとなっていた。しかしその後は町のすぐ近くの森で同時期に入門したというガキと一緒に薬草採取の依頼を受けたり、何やら工作に励んでいたりと遠出することは無かった。


しかし遂にその日が訪れた。彼女の弟子入り先であるギイ商会からの護衛依頼が舞い込んだのだ。



「お待たせしました、次の方どうぞ」


依頼受付でギルド職員が町の人からの依頼を捌いている。彼らは町の人々から様々な依頼を受け付け、それを見合った依頼料を受け取る。そしてその依頼をこなすことの出来る人材を派遣するのだ。


それは街の清掃といった比較的簡単なものから、町の外のモンスター退治と言った難易度の高いものまで多種多様だ。当然難易度が高ければ依頼料は上がるがこなせる人材も限られてくる。どの依頼に誰を派遣するのかも冒険者ギルド職員の腕の見せ所であるのだ。


とはいえ余程のことがなければ個別に依頼をするようなことはしない。基本は冒険者ランクと実績を鑑みて依頼表に詳細を記入しておくだけだ。そうすればそれに見合った技量を持った冒険者が勝手に依頼を受けてくれるのである。最も冒険者はそんな風に区分けされている自覚はないのだが。


だから困るのである。「やたらと旨味がある」のに「誰でも出来る」様な簡単な依頼をされてしまうと。



「よう久しぶり景気はどうだい?」

「おやヘイさんお久しぶりです。そうですね最近は気候も安定しているので行商人が活発に移動していまして、護衛依頼が多くてギルドも潤っていますよ」

「そりゃぁ何よりだ。んじゃ俺達の依頼もお願いしたい」

「おや遂に先生役はお役御免なんですか?」

「何だよ先生役って」

「王女殿下ともう一人の育成をギイ会頭と行っているでしょう。町の人達は皆さんご存知ですよ。いつ首になって行商人に戻るのかって話の種になっていますからね」

「そいつぁ当分先の話だな、なぁ2人共」


そう言ってヘイは後ろの2人へ視線を向ける。ギルド職員は最初他の行商人だと思っていたが、それは今話しに出てきたヘイの弟弟子のケンとハナだった。2人はギルドで騒ぎになるといけないからとフード付きの外套を被って来ていたのだ。



「今回はこいつらの行商の護衛依頼でね、来月の頭からお願いしたい」

「あのアニキ僕・・・俺達は何処へ行商に行くのですか?」

「あれ~ケン、俺とか言っちゃってどうしたの?」

「いや初陣も済ませたし、いつまでも僕じゃカッコつかないじゃんか」

「あははっ、男の子だねぇ」

「ははっいいじゃねぇの。男ってのはカッコつけるもんなんだよハナ」

「あのヘイさん詳細をお願いします」


いきなり話が脱線し初めたのでギルド職員はやんわりと戻そうとする。まだ昼前とは言え多くの冒険者がギルドの中には居座っている。ハナ様絡みの案件は混乱を避けるために速やかに処理するようにとギルドマスターから通達を受けているのだ。迅速に処理をしたい。


「こいつらの初めての行商はこのサウスの町周辺の村を巡ることから始める。期間は10日、護衛対象は4人だ」

「食事、宿代、その他諸経費は?」

「今回は全てこちらで持つ。初めての行商なんでな、近場のみで野宿もなるべく避ける予定だ」

「4人ということはギイ会頭と3人のお弟子さんが行商に回るという事ですね」

「そうだ。今回は直々に師匠が監督をしてくれる事になってる。実際に行商するのはこの2人だけだけどな」

「という事は移動手段は徒歩ですか?」

「ああ今回は馬車は使わない。自力で移動して自力で戻って来させる」

「なるほど、それならば危険度も余りありませんし、荷物も少ないですから護衛人数は2人で十分ですね。料金は1人が1日当たり銀貨30枚、2人で10日間なら丁度金貨6枚となります」


食事・宿代が込みとは言え護衛の日当が銀貨30枚とはかなり安い。ケンとハナは驚いたが、ヘイが言うにはこの付近は治安もよく、モンスターも殆ど出ないので実質一緒に歩いて帰ってくるだけの展開になることが殆どだ。食事代や宿代も込みなら正当な報酬だという。


「実を言えばこの内容なら護衛は雇わなくてもいいんだけどな。俺と師匠なら余裕で守れるからよ。でも今回はお前らに護衛付きの行商を学んで貰うための依頼だ。今回だけは依頼料も掛かる経費も師匠が出してくれることになっているが、次回からは全額お前らの自腹だ。何にどれ位の料金が掛かるのかしっかり勉強して覚えておけよ」


そう言ってヘイは依頼料を支払ってギルドを後にし2人もその後に続いて行く。ちなみに依頼が失敗したり、頼んだ期間が過ぎても依頼が達成出来なかった場合は全額返金される仕組みだ。依頼人に損が無い様な仕組みになっているので、ギルドとしてはなるべく全ての依頼を捌く様にしていた。



それを見送った後、職員は依頼内容を記入した書類を作成しギルドマスターへ報告しようと席を立った。全職員はギルドマスターからハナ様絡みの依頼は依頼表に出す前に一度自分の所に持ってくるようにとの辞令が下っているのだ。


しかし結果としてそれは叶わなかった。席を立つのと同じくして多くの冒険者が依頼受付に群がってきたのである。


「ようよう兄ちゃん、今の依頼俺が受けるからさ、その紙くれよ」

「何言ってんだてめぇ、この依頼は俺が受けるんだよ」

「はっ間抜けが、この依頼はこの私こそが受けるべきなのだよ」



突然やってきた冒険者達は職員の前で依頼の争奪戦を初めてしまう。それもよく見るとこの国では珍しいDランクの冒険者も混じっていた。


「あの今回の依頼はFランクの新人が受けるような簡単なものですよ。皆さんはもっと依頼料の高い依頼を受けた方が稼げますよ」


職員は親切でそう言ったつもりだった。しかし職員は勘違いをしていたのだ。彼らの目的は依頼料なんかではなかった。


「いいかこの依頼は俺が受けるんだよ。分かったらとっとと失せろ」

「受けるのは俺だ。オイ金なんかいらねぇからとっとと寄越せよ」

「ざけんなよ!そこまでして王女殿下とお近づきになりてぇか!」


その一言で遠巻きに見ていた他の冒険者達も争奪戦に加わってしまう。彼らの目的は依頼を受けて金を稼ぐことではなく、「依頼の最中に王女殿下とお近づきになること」だったのだ。


考えてみれば当たり前である、かつてヘイもこの冒険者ギルドで言っていたのだ「普通に生きてりゃ王族と知り合うなんてありえねぇんだ」と。その機会が目の前にあればそれは飛びつきたいだろう。


何しろ相手は王族で未婚の女性で健康的な美人なのだ。冒険者で無くても男なら同じことを考える筈だ。幻想をズタズタにされたヘイや、実は王家の家計が火の車であることを知っているギルド職員は別にして。


そんな邪な考えを持つ冒険者達が起こす喧騒でギルド内がパニックに陥っていた時、突然全員に強烈な殺気が叩き込まれてきた。


「何の騒ぎだ?」


ドスの利いた声に皆しんと静まり返る。こんな辺境の地でこれほどの殺気を放てる人物は限られている。ギルドマスター、この国最強の男がギルド内に登場した。

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