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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第1章 幼少期
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第2話 行商人来る

ガタゴトガタゴト荷馬車が揺れる。よく聞くフレーズだがそうとしか言いようがない。積荷はしっかりと固定してあるがそれでも速度を出せば傷つくこともあるし、馬だって疲れる。先は長いのだし急ぐ理由もない。この先の村には宿屋がある。御者は晩飯に何が出るかと考えながら村の入口へと向かっていた。



「見えてきた今日はあの村に泊まるぞ」

「マジっすか師匠!く~2日ぶりの宿屋だ。晩飯は何ですかね?」

「これだから若いもんは・・・1日2日で音を上げおって。行商人なんてやっていたら野宿なぞ当たり前だぞ」

「そりゃ分かってますがね番頭、でもやっぱ屋根のある場所で寝たいじゃないですか。俺昨日はろくに寝てねーんですよ」

「睡眠不足は行商人にも大敵じゃぞ、どんな場所でも寝れるようになって初めて本物じゃわい」

「しかたねーって爺さん、こいつ今回が初めての行商なんだぜ。街から出たことのない奴が野宿なんかしたらそりゃあ宿屋の良さが身にしみるってもんよ。」

「・・・皆一度は通る道。問題はない」

「そうじゃなぁ、お前さん達も初めはブルブル震えとったもんなぁ」

「何言ってんだよ!あれは・・・そう!寒さ!寒くて震えていたんだよ!」

「・・・私は武者震い。強敵を前にしたこの身に宿る暴虐の血の叫びが震えとなって顕現しただけ・・・」

「二人共最初の旅は温かい季節だったし、モンスターも野うさぎやゴブリン程度しか出んかったじゃろうが・・・」

「お前らそろそろ到着するぞ。万が一を考えて準備を怠るな。」

「うむ」「うっす!」「了解!」「・・・OK」



先頭の馬車からはワイワイと楽しげな声が聞こえてくる。老人が一人に中年が一人、青年と女性が一人ずつで、最後の一人は成人したばかりの少年のようだ。彼らの中の一人中年の男性が村の入口まで来て馬車を降りてきた。


「んっ?あんた初めて見る顔だな」

「行商人のギイだ。この村の宿での休憩をお願いする。」



村の入口で見張りをしていた若い男が行商人組合所属を記すバッジを確認しながら訝しげな声を上げる。この村に来る者もこの先へ行く者も大抵顔ぶれは一緒だ。だから新顔は珍しかったし、それが荷物を沢山積み込んだ行商人というのもまた珍しかったのだ。


「それはもちろん構わないが・・・この荷物の量だとまさか最奥の村まで行くつもりなのか?」



一応聞いては見たが青年は「まさかなぁ」と考えていた。正直そこまで行ったところで対して利益など望めないし、商人とは利益を優先するものだからだ。だからその返答には少なからず驚かされることになったのだった。


「ああそのつもりだ。最奥の村まで行ってそして帰ってくる。ここは一本道で他に行く場所もないから、帰りにまた寄ることになるだろう」

「えっ・・・ああ了解した。宿屋はこの先にあるあの三角屋根の建物だ。」



そんな所まで行ってどうするつもりなんだ?とか、そのための食料はどうするつもりなんだ?とか聞きたいことは山ほどあったが門番の青年はあえて聞かなかった。あの宿屋に泊まれば必ずそれを聞き出してかつ村中に広げる「2番目」がいると分かっていたためである。



「うちらの村には宿屋が1軒しかないが、街の変な宿屋よりも余程快適に過ごせるはずだ。せっかくならゆっくりしていってくれ。」

「分かっている、ありがとう」

「分かっている?」

「随分前になるがこの村には来たことがある。その時にも同じ宿に泊まったのさ」


礼を言って行商人は馬車ごと村へと入っていく。この村の住民も慣れたもので遠巻きに見ているがこれと言って近づいてくる者もいない。そして教えられた宿屋へ到着した時に小さな人影が文字通り「飛び出して」きた。





「いらっしゃいませ!行商人さん!うわーすごい荷物ですねぇ!どこまで行くんですか?どんな所に行きましたか?是非旅のお話を聞かせてください!」

「ちょっとケン兄落ち着いて。こんにちは、宿泊は5名ですね、食事は付けますか?」

「いーらっしゃい。俺の宿にようこそ」

「カク兄!まだカク兄の宿じゃないよ!父さんの宿だよ」

「そーうだった。将来の俺の宿にようこそ」

「いやそこは宿屋にようこそで良いんじゃないかな?」



宿に到着した途端にものすごい勢いで何かが出てきたと思ったら唐突にマシンガントークが叩き込まれてきた。少年はポカーンとしているが他の4人は慣れたものである。年季の差か。



「宿泊は5人だ。食事は付けてくれ。全員同じ部屋で構わないが出来れば2対3で分けてもらいたい。旅の話は食事の後で良いかな?まずは馬を休ませてやりたいし私達も休みたいのでね」

「・・・はっ!スマート!師匠スマートっす!」

「くっ会頭!そんなっ、確かに俺たちは新婚で2人っきりになりたいけど!蜜月が欲しいっすけど!」

「・・・良いの父さん?今夜荒ぶる獣が我が肢体を蹂躙し新たなる命がこの身に宿るというの?」

「お主ら落ち着かんか・・・ふむ坊主どもはこの宿の子供かね?」



「はい!」と元気よく返事をして少年達は建物に入っていく。親を呼びに行ったのだろう。すぐに父親らしき人物が現れ軽い挨拶の後に馬を隣の馬小屋へ。屋根もあるので雨の心配はなさそうだということで彼らはようやくひと心地付けたのだった。



行商人ギイ一行と3兄弟の出会いがこの世界に何をもたらすか・・・それはこれから語っていこう。

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