第27話 護衛依頼
本格的な逆茂木の作成を開始し、作成中にゴブリンに襲われ初陣を飾ったケンは、商会に帰った後汗を流して飯を食い泥のように眠った。
翌日、いつもよりだいぶ早くに目が覚めたケンは昨日の自分の体たらくを猛省し、ギイ商会の中庭で一心不乱に槍の稽古をしていた。
「せい!はっ!りゃあぁ!」
突く突く薙ぐ、突く突くまた突くと繰り返し稽古を繰り返すケン。実戦では思うように体は動かないと聞いてはいたが実際に戦ったら正に聞いていた通りの状況が起きてしまった。いや、当事者としては訳も分からずに終わってしまったという印象だ。
実際に行商を初めたら何度もモンスターと戦うことになる。おまけに弟子の期間が過ぎれば師匠やアニキは居ない。モンスター相手に一人で戦わなければならない事を考えると恐怖で体が震えそうになる。そのことを考えないように一心不乱に稽古するが何せ元村人だ、そんな簡単に強くなんてなれっこない。
焦りで思考が纏まらない。そして暫くすると槍がスっぽ抜けてしまった。
「うー、うううーーー」
思わずうずくまり声にならない声を漏らす。
行商人見習いのケン、その初陣は苦い経験になったようだ。
「おはようケン、体は大丈夫・・・じゃないみたいね」
「おうケンおはよう!ははっひでーツラだなおい!」
朝の食堂、朝食を食べていたケンにハナとヘイが挨拶をしてくる。ケンとしてはいつも通りのつもりだが、やはり昨日の初陣のダメージが残っているのだろう。体ではなく心の方に。未だ15歳、精神面のダメージを見せないようにすることは出来ないようである。
「おはようございます、その、昨日のゴブリン戦のあまりの不甲斐なさに情けなくなってしまって・・・」
「気にすんな、って言っても気にするだろうけどな。でもほれ俺の時を思い出してみろよ、全く動けなかったし訳分かんねー内に終わっちまったんだぞ」
「私も同じだよ。初めてモンスターを殺したなら普通だって。泣かなかっただけ立派だよ」
「えっハナ泣いたのか?」
「だってその時まだ14歳ですもの。流石に泣きましたよ」
ハナは兵士の訓練時にモンスターとの戦いを経験している。ちなみに成人になったらすぐにお見合いの旅に出る事が決まっていたため、成人前の14歳の時に対モンスター戦の初陣を済ませていたのだ。これはこれでスパルタである。
「分かってはいるんですかね、でも行商を初めたら一人で対処しなくちゃならないでしょう?急に心配になってきちまいまして」
「だよねー。私も心配だよ。ゴブリン一匹なら何とかなるけど複数で来たら対処出来ないよね」
「何言ってんだお前ら?」
ケンとハナは実戦経験の少なさからこれからの行商人生に悲観的な観測をこぼす。しかしヘイは2人が何を言っているのか一瞬理解出来なかった。
そして気付いた、2人が何を忘れているのかを。
「あー分かった、お前ら護衛のことが頭からスっぽ抜けてやがるだろ」
「護衛?でも私行商中は王女として兵士は借りれませんよ?」
「ちげーよ、冒険者の護衛だよ。つーか行商人がソロで行商するなんて滅多にないからな。どこの行商人でも護衛を雇うか行商人同士で徒党を組んで旅するもんだろ」
この世界は物騒だ。モンスターが徘徊し、町に住めないゴロツキや犯罪者が街道に出没するなど頻繁に起こる。だから町の外に出る者達は道中の護衛を雇う、もしくは同じ目的を持った者同士で徒党を組んで旅をする。その護衛を担っているのは主に冒険者ギルドの冒険者達なのだった。
「よしちょっと待ってろ」
何か思いついたのか、そう言ってヘイが食堂から出掛けて行きすぐに戻って来た。
「師匠の許可は取れた。飯食ったら冒険者ギルドに行くぞ」
「冒険者ギルドですか?何しに?」
「お前らの行商の護衛依頼だよ」
「「えっ?」」
予想外の展開に2人は固まった。昨日ギイは「今日から本格的な逆茂木造りに入る」と言っていた。つまり行商に出るのはまだ先だと思っていたのだ。しかし行商の護衛依頼ということはつまり「行商に出る」という事に他ならない。2人は突然の展開に目を輝かせた。
「行商!行商に出るんですね!行けるんですね!」
「やったぁ、町の依頼が終わったら逆茂木ばかり作っていたから自分の職業に疑問を持ち始めていた所だったのよ。これで胸を張って行商人と言えるわ」
大張り切りの2人である。まぁ確かに行商人に弟子入りして一月以上も行商していなければこんな反応が返ってくるだろう。しかし残念ながらまだ2人は行商には行けないのだった。
「喜んでるとこ残念だが、出発は今日じゃねぇぞ。キリが良い所で来月の頭から行商を始める」
「えー」
「うそ~じゃあそれまで何するんですか~?」
ケンとハナは不満をこぼすが、ヘイはそれを一蹴した。
「馬鹿野郎、逆茂木作りも初めたばかりだし、戦闘訓練もまだまだだ。行商の荷物の選定、道具一式の整理に手入れの仕方、行商手順の説明、野営の仕方、地図の確認他にも山の様にやる事があるんだ。荷物背負って適当にほっつき歩いたって利益なんざ出ねぇからな」
「ううう分かりました。あれ?でも何でこんな早くに護衛依頼を出すんですかアニキ」
「アホか、いきなり「今日から行商に行きます。でも護衛がいないので至急準備して下さい」なんて言ってみろ、ギルドに足元見られんだろうが。こういう依頼はな、出発がいつか分かってんなら早めに頼んでおくもんなんだよ。」
「なるほど、了解です兄さん」
実際ギルドとしても早目に依頼をくれた方が余裕を持って対応出来る。即日の緊急依頼だと空いている冒険者を割り振らねばならず、専門外だったり素行の悪い者達だったりしかあてがえない事があるのだ。早めの依頼は冒険者・行商人双方にとって有利に働くのである。
「んじゃ早く飯を食え。お前らに冒険者ギルドでの依頼の仕方を教えてやるよ」
そう言ってヘイも椅子に座り、朝食を食べ始めたのだった。




