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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第2章 行商人見習い
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第24話 師匠は資金を出してはくれない

ケンとハナが町の外で逆茂木作りを開始してから数日が過ぎた。


この間晴れた日は朝から晩まで外の森で逆茂木を作り続け、雨の日は町の中で草花の勉強を行っていた。


お陰で今では金になる薬草を確保しながら、それなりに形になった逆茂木を作れるようになってきたのだった。


それを見たギイは次の段階へ移行する事に決めたのだった。



「今日から本格的な逆茂木作りに入る。ヘイと共に必要な物を買ってからいつもの岩場に来るように」


朝の食堂で2人はギイに突然宣告を受けた。急いで食べていたパンを咀嚼した2人は揃ってギイに向かって顔を向ける。


「本格的というと師匠やアニキの様な丸太製の逆茂木ですか?」

「そうだ。今日までの逆茂木作りは練習兼緊急時用の逆茂木作りだ。これからは通常使用の逆茂木を作って貰う」

「分かりましたお師匠様。それで私達は何を買えばよいのでしょうか?」

「それはヘイが知っている。お前達も買いに行く前に何が必要なのか自分で考えておけ」

「了解しました」


そして2人は急いで朝食を掻き込んでいく。ようやく本命に移れるので嬉しいのだろう。実際の本命である行商はまだ初めてもいないのだが。


「アニキおはよう御座います」

「兄さんおはようございます」


遅れてきたヘイに向かって2人が挨拶をする。ちなみにハナは兄弟子にいつまでもさん付けだと変だからという理由でヘイの事を「兄さん」と呼び始めた。ヘイとしても満更ではない。可愛い女の子に兄さんと呼ばれて鼻の下を伸ばさない男などいないのだ。



「おう2人共おはよう。師匠から話は聞いたか?」

「はい今日から本格的な逆茂木作りに入ると」

「兄さんと買い物に行けと言われました」

「よし、店を9時に出るからそのつもりでいろよ。ちなみに今回の買い物はお前らの金を使うから準備するように。んじゃ解散」


言われた2人は準備のために部屋に戻る。ちなみにハナはギイ商会の宿舎の一室を与えられそこで寝起きをしている。ケンの部屋よりも多少大きめだが王女としては問題外の部屋だ。「女の子だから少しだけ優遇したけど基本的に同列に扱う」というギイの心情が良く表れている。


なおこの世界にも時間の概念はあり、一年は360日で24時間だ。これも元は勇者様の世界から持ち込まれた概念らしく、勇者様の世界では一年は365日であり、4年に一度は一日増えていたらしいのだが、この世界では5日短くうるう年も存在しない。


季節も大雑把に春夏秋冬が90日単位で変わると考えられている。ちなみに時間は町の教会が鳴らす鐘で分かるようになっているが、王宮や貴族の館、大商人の家等には時計がある場所もあった。そうギイ商会は大商会なので建物内に時計が完備されていたのだ。


9時少し前、店の前にはケンとハナが待機している。相手を待たせる位なら自分が待てというのがギイの教えだ。ヘイは9時直前に到着し、そのまま2人を連れて工具屋へと向かって行った。


工具屋は通用門よりも中心部方面に存在した。これらはあくまでも町の外で使うものという事だろう。店の中では中年のおっさんが一人で店番をしていた。どうやら店主らしい。


「さて2人共ここで何を買うか分かるか?」

「はい、まずは木を切るための斧とノコギリですよね。それから逆茂木を固定するための針金です」

「後は枝打ちのための鉈ですかね。釘も必要でしょうか?必要なら更に金槌も買わなくちゃなりません」


「2人共正解だ。欲を言えば更にノミとヤスリが欲しいかな。ノコギリだけだと先を尖らす時の細かい作業が厳しいからな。後は作業用の手袋があると便利だ。今まではいざという時も想定して森にあるものだけで作っていたが、普段から怪我防止も考えれば手袋があった方が良い。親父そういう訳だ、こいつらに今言った工具を見繕ってやってくれ」


店主は「はいよ」と返事をして幾つかの工具を並べていく。ギイ商会に新弟子が2人出来て内一人は王女殿下であることは店主ももちろん知っていた。しかし既に一月以上も弟子のままであることを考えてもどうやら国王陛下は王女殿下を本気で行商人にするつもりらしい。商人ギルドからも「通常の行商人と同じ扱いをするべし」と通達が来ているため、店主はいつもの如く真面目に仕事をこなすことにしたのだった。



そしてケンとハナの前には多くの道具が並べられていった。しかしノコギリ一つとっても5つもある。2人が困っているとヘイが助け舟を出した。


「お前らまずはこれらの中から「行商時に持っていける物」を選び出せ。そんでその中から自分の手に馴染む物を選べば間違いない」


「つまり軽くて丈夫で使いやすい物ということですね」

「えーとじゃあこれとこれかな」


町の人間が町中で使用する道具と、行商人が持ち歩いて使う道具は求められている性能が違う。それを弟子入りしてから教えられてきた2人は即座に理解して必要な道具を見繕っていった。


「値段は一人当たり金貨2枚だ。工具を入れる袋はおまけで付けといてやる。今後共ご贔屓にな」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」


2人は自分の財布から現金を支払って店を出た。そしてしばらくするとヘイはこう伝えた。


「お前ら2人共今工具を自分の金で買っただろ?これはお前達が行商に必要な物を初めて自分で買ったって事だ。今まで冒険者ギルドで依頼を受けさせていた理由は、町に慣れさせたり外仕事を受けられる様にするためだけじゃない、「自分の行商の資金は自分で貯める様にするため」だ。」


「お前らは行商人だ。だからやっぱ行商で稼ぐのがメインになる。師匠は行商の仕方は教えちゃくれるが行商の資金はくれたりしねぇ。だからいざ行商に行く時はお前らが稼いだ金で商品や必要な物資を買うことになる。2人共無駄遣いはしちゃいないようだが、これからは先の事も考えて資金を貯めるようにしておけよ」


それだけ伝えるとヘイは弟弟子達を連れて森の前の岩場へと向かうのだった。

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