第22話 一月後
ケンとハナがギルド巡りをして行商人・商人・冒険者の見習いとなってから早一ヶ月。
2人は師匠と兄弟子に連れられて遂に町の外へと向かう事となった。
「はああぁーーー、この開放感!たまらないわねぇ!」
「おっさんくせーぞハナ、お前のお陰で俺の王女様への幻想はズタズタだよ。そんでケン、お前はそんなにビクビクすんな。ここいらのモンスターなら何の問題もねぇよ」
「分かっています。分かっています。俺はやれる俺はヤレル俺は殺れる!殺られる前に殺らねば!アニキ!敵は何処ですか!」
「駄目だこりゃ」
ヘイは首を振って呆れている。新米達は実に対象的な態度を取っている。それも無理はあるまい。ハナは王女とはいえ騎士や兵士に混ざって訓練に参加していたため、町の外でモンスターの退治を行った事もある。
一方ケンは村住まいとはいえ、モンスターの相手は基本的に大人の仕事であり、町に来る時も冒険者を雇っていた。それに幸いにも道中モンスターには襲われなかったそうだ。そして今回はモンスターに遭遇した場合まずはケンに戦って貰う事になっている。
つまり初陣前なのだ。緊張して当然なのだ。だから5年前の俺のあの初陣も当たり前の事だったのだとヘイは自分に言い聞かせた。
「しかしハナ、町の中はそんなに息苦しかったのかね?」
ギイがそんな事をハナに尋ねる。ギイは2人の登録の後は基本商会の仕事をメインに行なっており、実質的な指導はヘイに任せていた。
それはもちろん行商から帰って来たばかりで商会の仕事が溜まっていた事もあるが、加えて王女殿下の扱いを王宮や各ギルドと相談したり、弟子2人の育成と同時に一番弟子の指導者としての育成も行おうとした所以である。
「息苦しかったというよりも町の人達の善意に困ってしまったという方が正しいです。」
「くくっそうだな。あれは見ていて大変だったもんな」
あの雨の日の翌日からハナもケンと一緒に冒険者ランクを上げるために積極的に依頼をこなしていった。しかし町の人々からすれば王女殿下にどぶ掃除やゴミ拾いをさせる訳にはいかないといらぬお世話を発揮してしまい、ハナが依頼に向かうと既にチリひとつ無い場所が存在しているという状況が発生していたのだ。
しかしこれでは冒険者としてのキャリアを積む事は出来ない。故にハナは早朝にギルドへ向かい、町の人達が行動を起こす前に依頼を完遂するという早業で対応したのだ。
さらに町中での仕事の手伝いでも問題が発生した。普通に店に向かうと店員が畏まって店の方で依頼をキャンセルしてしまうという事態が発生したのだ。
そこで今度は正体を隠し服も髪型も変えてなおかつ顔を隠した状態で依頼を受けた。冒険者という仕事上「顔に傷を負った女冒険者」も珍しくはなく、素顔をわざわざ見せろと言う野暮な店主もいなかったのでどうにか外仕事が受けられるFランクまで上げる事が出来たのである。
なおハナよりも早くにFランクになったケンはハナがFランクに上がるまでの間はひたすらに戦闘訓練を続けていた。それは新人としては中々の動きだったのだが何しろ初陣前なので緊張はどうしても抜けなかったのである。
ちなみに今の2人の冒険者ギルドのギルド証はこんな感じだ。
冒険者ギルド会員証
名前:ケン
出身:マール国 ノースファースト村
特技:槍
経歴:宿屋見習い10年 冒険者0年 行商人0年 商人0年
実績:町中・単純作業 10(4.1)
町中・接客業 15(4.0)
町中・特殊作業 5(4.1 )
冒険者ランク:F
冒険者ギルド会員証
名前:ハナ=マール
出身:マール国 サウスの町
特技:剣・槍・弓・礼儀作法・高等教育
経歴:兵士見習い5年 高等教育10年 冒険者0年 行商人0年 商人0年
実績:町中・単純作業 7(4.8)
町中・接客業 20(3.6)
町中・特殊作業 3(5.0)
冒険者ランク:F
ハナは流石に王女である、経歴も特技も凄まじい。
実際5歳から王族としての教育を施され、10歳からは兵士に混じって戦闘訓練もこなしてきたのだ。とても新米冒険者のギルド証とは思えない。
実績欄の単純作業はどぶ掃除やゴミ拾いやお使い等で、接客業は文字通り町中での店番や飲食店での手伝い等を指す。特殊作業はこれ以外の物を指し、孤児院の手伝いや教師役などが含まれている。
なお最初の数は依頼の達成回数で、次の数は5点満点で採点した依頼の満足度である。
ケンはどこまでも平均的だが、ハナは単純作業や特殊作業の得点が高い。これは採点した依頼主に王女補正が働いて甘く着けられたからだとハナ自身自覚している。実際のハナの得点は顔を隠して行った接客業並であろうと考えられる。
「さて今回外に出てきた理由は分かっているな」
「敵を殺すためです!」
「ちげーよ、落ち着けバカ!今日のメインは逆茂木造りだ。気合を入れるのは結構だがモンスターが出なけりゃ戦闘は無いからな」
「行商の下準備ですよね。でも何故商会内で作らないのですか?」
「旅先で逆茂木が破損した場合は、行商の途中でも作った方がいい場合があるからな。基本は外で作る癖を着けておくんだよ」
ギイ達が使用している逆茂木は木製だ。だから加工も容易だし、大きめに作ったとしても持ち上げられる重さに収める事ができる。しかし木製だからこそ壊れる時は壊れてしまう。だから逆茂木無しという状況を減らす為に外での逆茂木の作り方をまず教わるのだ。
4人は町を出てしばらく歩き、街が見える程度の場所にある森に辿り着いた。
「では2人共、これから逆茂木作りを始める」




