第20話 逆茂木
ギイ商会の看板にも描かれており、もはやギイ商会の代名詞とも言うべき「逆茂木」。
5年前も、そして昨日もその効果には疑いの余地はない。その逆茂木についての話が遂に聞けるという事もあり、ケンはニコニコしながら昼食をとっていた。
ちなみに同じテーブルでハナも昼食を食べているがこちらは少し気難しい顔だ。ギイ商会と言えば逆茂木、逆茂木と言えばギイ商会と言われるくらいに有名な行商人ギイの逆茂木ではあるが、正直ハナにはアイテムボックスの枠一つを埋めてまで持ち運ぶ必要があるとは思えなかった。
昨日の昼に商会前で逆茂木を馬鹿にした冒険者とケンとヘイさんが喧嘩をしたという話も小耳に挟んでいる。城中でもギイの行商人としての力量を疑っているものはいないものの、「あの逆茂木はどうか?」と考える者も多い。実際の所昨日の冒険者の意見は大多数の考えであるのである。
しかしハナは知らないのだ。この世界において逆茂木という「木を組み合わせて先を尖らせたバリケード」がどれほどの力を持ち、どれほどに有効的なのかという事を。
「では午後は逆茂木についての授業から始める。正直これが最も重要だと言っても過言ではないので2人共しっかりと聞くように」
「「はい!」」
「ではヘイもう一度お前の逆茂木を出せ」
「了解です、師匠」
そう言ってヘイは逆茂木を出現させる。
材料は木製で交差部分を針金で縛っており、縦に2m横に3mもある。下は平坦で倒れないようにつっかえ棒があるが、前方斜め方向と上と横はそれぞれ木を削って尖らせてある。見た目には非常に凶悪な外観だ。
よく見ると先の方が薄っすらと黒みがかっている。良く見なくても血の跡であると認識して新米2人の血の気が引いていった。
「まず重さは自分で持ち上げられる程度、つまりアイテムボックスに入れられる重さに収めること。」
「次に大きさは自分の体が隠れる程度、そして組み合わせた時に出来る隙間は槍を出し入れするのに不便にならない程度にすること。」
「そして地面に触れる部分以外は尖らせておくこと。使用した後は毎回グラつきや傾きが無いかの確認をしておけ。以上、何か質問はあるかね?」
矢継ぎ早に説明をしていくが、肝心の「何故これを使っているのか」が抜けていたのでハナは挙手をして質問をした。
「申し訳ありませんお師匠様。私にはいまいちこの逆茂木を使う必要性が感じられません。しかしギイ商会の行商人達は皆これを使って利益を挙げていることは知っています。何故逆茂木が有効なのかをご説明下さい」
ヘイは5年前に自分も同じ説明を師匠に求めた事を思い出してニヤニヤしていた。当時の自分も疑っていたが、今では一時たりとも手放せない存在だ。さて新米はこれの凄さに気づくだろうか?
「理由は簡単だ。「アイテムボックスの枠を一つ潰してもお釣りが来る程に役に立つから」だ。では質問だ、ケンとハナお前達はこの逆茂木をどのような場面で使用するかね?」
2人共少し考え全く同じタイミングで発言した。
「「戦闘の時です(ね)」」
「その通り。逆茂木は普段の生活や商売では全く使う機会がない。しかし戦闘時にはこれほどに役立つ物は他にないと私は考えている。城や砦を攻める時に最も被害が出るのはその城や砦を囲む壁や柵を乗り越える場面だ。何故なら守る方は安全な場所から攻撃が出来るのに対し、攻める方は障害物に動きを阻害されながら攻撃を仕掛けなければならないからだ」
「そして逆茂木とはその状況を場所を問わずに作り出すことの出来るアイテムだ。モンスターだろうが野盗だろうがこれを出せばまず足が止まる。そしてこちらから一方的に攻撃が出来るのだ。攻撃をしてきたとしても目の前に障害物があるだけで相手の動きを阻害できる。」
「行商をしていると戦闘はまず避けられない事態だ。そして行商人から攻める事は殆ど無い、基本的に専守防衛しかしないし、可能ならば戦闘は避けて逃げる。しかしイザ戦う場合は自分の体だけではなく運んでいる荷物も守らなければならない。だから行商人は行商の際に必ずと言っていい程に冒険者を護衛に雇うがそれだって絶対ではない。どうにかして旅の安全度を上げられないかと試行錯誤して辿り着いたのがこの逆茂木と言う訳だ」
では実際に試してみようとギイは言い、馬車置き場へ移動することになった。
「ケン、ヘイ、2人で模擬戦だ。ヘイ怪我はさせないようにな」
「了解です師匠!」
「宜しくお願いしますアニキ!」
そうして模擬戦が始まった。
ケンはまずヘイの元へ真っ直ぐに向かうが目の前に逆茂木を出されて足を止める。そのスキにヘイが槍を突き出して牽制するのでたまらず近づくのをやめて回り込んだ。
しかしヘイはケンが回り込むや否や逆茂木をアイテムボックスに収納して移動。近づこうとすれば逆茂木を出して足を止め、離れれば逆茂木を収納して身軽に動き回る。
ケンは兄弟とハナは王族として騎士団と戦闘訓練をしてきたが、なるほどこれはやり辛いと感じた。突然目の前に凶悪な壁が現れて行動を阻害され攻撃を止められる。何よりも足を止められてしまうのが非常に痛い。文字通りに「勢いが殺される」のである。
しかもこれはあくまでも訓練だ。実戦ではもっとシビアなタイミングで出すだろう。それこそ串刺しになった5年前のゴブリンの様に、頭の悪いモンスターならこれだけで圧倒出来るのではないかとケンは感じたのだった。
ハナとしても話を聞くのと実際に使用している場面を間近で見るのは雲泥の差だと実感していた。騎士団や兵士や冒険者は真っ向勝負を心情としている物も多く、逆茂木を卑怯者の道具だと蔑む者もいた。しかし先程ギイが言っていた通り、城や砦には侵入者防止用の柵や壁があって当たり前だし、行商人はそもそも戦う職種ではない。
アイテムボックスの枠を一つ埋めてしまっても、これを使って自分の体と荷物を確実に運べるなら確かに利益が出るだろう。なるほど行商人というのは中々にしたたかなのだなとハナは妙な関心をしてしまった。
「それまで!2人共逆茂木の有効性は実感出来たと思う。いずれお前たちも自分の手で自分の逆茂木を作って貰うからそのつもりでな」
頷く弟子達にギイは一人満足そうな吐息を漏らす。自分が変わった事をしている自覚はあるが、同時にいくら考えてもこれ以上に有効な手段は思いつかなかった。師としては弟子に対して自らの経験に基づいて育成するしか無いのだ。
ふと外を見る。未だに雨の止む気配はない。ならば今の内に新米達のギルドへの登録を済ませてしまおうと考えた。
「これで次からは町の外に出ての修行になるが、ケンはまだGランクで、ハナは冒険者登録もしていないのだろう?とりあえず2人共これからギルドに登録に行くぞ。着いて来なさい」
「「はい!」」
新米2人は元気一杯に返事を返したのだった。




