第9話 ギイ商会2
「そりゃ坊主が悪い」
「そうだねケン君が悪いね」
「お前が悪いな」
「ケン殿の不手際ですね」
ギイ商会でケンが5年ぶりにヘイと再開した後に、何故急に弟子入りに来たのかという話になった。そこでケンが自分の誕生日や街に到着する日取りを伝えていなかったことを伝えると集中砲火を浴びてしまった。
「確かにあれから俺らはお前の住む村に行かなかったけどな、それなら手紙を出せば良かったんだよ。行商人でも冒険者でも選り取りみどりだっただろ」
「ううう・・すいません。15歳になったら弟子入りに行きますって約束しか頭になくて。村だと皆の誕生日は知ってて当たり前だから気づきませんでした」
ケンの住んでいた村は建物が十数件しかない小さな村だ。住民の数は50人にも満たない。だからどこに誰が住んでいるかはおろか、一人ひとりの詳細なプロフィールまで全員が知っている。その感覚が当たり前であったケンは、自分がいつ成人するかをギイに伝え忘れていたのだ。
「おそらく師匠は事前に連絡があったなら迎えに行ってくれたと思うぞ。まぁもう過ぎたことだけどな」
「おう、そう考えると坊主のうっかりのお陰で俺らは儲かったってこったな」
「ありがとーケン君。あっじゃあこれで依頼達成だからここにサイン貰えるかな。」
冒険者二人組の女性の方がギルドの依頼書をケンに見せる。この2人が受けた護衛の依頼は昨年父が村の仕事でこの街に訪れた時にあらかじめ冒険者ギルドに頼んでおいたものだ。
それは村の宿屋としては決して少なくない額だったろう事を思い、ケンは申し訳ない気持ちになった。
依頼書にサインをした後、冒険者の二人組は別れの挨拶をして店を出て行く。彼らはこれからギルドで依頼達成の報告をして宿に帰るという。その後姿を若干しょんぼりした気持ちで見送った後ケンは店の中に入っていった。
「まぁこれも勉強ということで、とにかく無事に到着して何よりでした。」
「だよな、改めてよろしくな!ギイ師匠の一番弟子で絶賛売り出し中の行商人ヘイだ。困ったことがあれば俺に相談しろよ」
「ギイ商会で会計を担当しております「モウ」と言います。以後お見知りおきを」
「はいお二人とも宜しくお願いします!」
ケンは元気よく返事をしてペコリと頭を下げる。これからこの2人には教わることが目白押しなのだ。「最初の挨拶が肝心よ!肝心なのよ!」と母に念を押されていたのもあるが。
「それでギイさんはどちらにいらっしゃるのですか?ご挨拶をしたいのですが」
「あーそれなんだけどよ、師匠は今居ないんだわ」
「はい?」
何とギイは今隣の国まで行商に出かけていて店どころかこの国にすら居ないという。
まぁ当たり前といえば当たり前である。何しろ職業が「行商人」なのだ、連絡も入れずに訪れてそんな簡単に会える訳がない。
「まっ安心しろよ、今回はそんなに長くかかる予定は無いから近い内に戻って来る筈だ。しばらくここで待ってりゃいい」
「そうですね、ではケン殿はその間店の空き部屋で寝泊まりしたら良いでしょう。幸い部屋は空いています。ヘイ、会頭が戻るまでのケン君の世話は任せましたよ」
「了解了解、んじゃ来いよ取り敢えず部屋へ行こうぜ」
「ありがとう御座います!お世話になります!」
荷物を背負ってヘイの後ろについていくケン。ギイが不在と聞いた時は宿の心配をしたが泊めてくれるなら大助かりだ。元々ここで寝泊まりする予定だったので予定通りといえば予定通りなのだが。
そして前を行くヘイはケンから見えないがニヤニヤしながら歩いていた。5年も経って成長したのですぐには分からなかったがこの少年のことはよく覚えていた。何しろ初めての行商で初陣を飾った村の出来事だ忘れるわけがない。あの時の弟弟子候補が本当に弟子入りしてくるなんて感無量だ。こいつは兄弟子として面倒を見てやろうとヘイは勝手に心に誓っていた。
店の奥、渡り廊下でつながっている宿舎の中の部屋は少々手狭だが一人部屋で机もベッドもあった。ケンは実家では兄弟3人同じ部屋で過ごしていたので初めての一人部屋に感動している。
ヘイからはさらに食堂・トイレ・風呂の説明があった。儲かっている大商会なので下手な宿よりも設備が整っているのである。
「取り敢えずこんな所だな。分かんねー事があるならその都度誰かに聞きな。あとで紹介してやるからさ」
「はい、ありがとうございます。あのヘイさんは今日はお休みなんですか?」
「ああ、俺は一昨日行商から帰って来たばっかりでな。まだ次に何処に行くかも何を売るかも決めてねーんだよ。師匠が帰って来るまで店にいるつもりだったからな、その間に色々教えてやるよ」
「宜しくお願いします!あっ、つまりもう見習いは卒業したのですね?」
「おうっ!3年前にな、ギイ商会では見習いは2年で卒業だ。今は独力で色んな場所を巡っているのさ。」
「うわー凄い!ぜひ話を聞かせて下さい!」
「ははっ相変わらず旅の話が好きなんだな。んじゃ早速「ぐ~」・・・」
ここでケンの腹の虫が鳴った。よく考えてみれば昼時に城門を潜ったのだ。腹が減って当然である。
「・・・早速昼飯だな。つか坊主はこの街に来たのも初めてだったよな。飯食いがてらまずはこの町の案内をしてやるよ」




