第8話 ギイ商会
その美しさは一見の価値がある。
周囲を小高い丘に囲まれ遙か彼方には雪をいただく山々が広がり町の北には青く煌めく大きな湖がある。そしてその湖の南側のふちをぐるっと半周するように街並が広がっていた。中心部には大きな城があり旗がいくつもはためいている。
山と森と湖の国「マール国」の首都「サウス」
この城下町に今一人の少年が到着したのだった。
「よっしゃーようやく到着したー!」
「おつかれさまー!」
「坊主ともこれでお別れか、寂しくなるなぁ」
「お二人ともありがとうございました!」
町の外周門を潜り抜け、冒険者達がお互いの労を労い合う。
そこには一人の村人が同行していた、ケンである。
つい先日、村の宿屋の次男坊だったケンは15歳となり成人となった。ゴブリンの群れに襲われ、行商人のギイに弟子入りが認めれたあの夜から早5年の月日が経っていた。
そして家族に別れを告げケンは首都に辿り着く。村を出るのも初めてであり最初は緊張の連続であったが、両親が護衛として雇ってくれた冒険者達に助けられ無事に到着したのだった。
「気にすんなこれは仕事だ。さぁ取り敢えず店に向かうぞ」
「え~もうお昼の時間だよ。ちょっと休ませてよー」
「何言ってんだ、依頼内容は「この坊主を村からギイ商会へ無事に送り届ける事」だぞ。最後の詰めがまだ残ってんだ。半端な仕事はすんじゃねぇ」
「ちぇーりょーかーい」
護衛の2人はズンズン歩いて先に進んでいく。ケンは遅れない様に後を追うがキョロキョロと街並みを見回してしまう。故郷の村とは比べ物にならない数の人、沢山の建物で見たこともない品物が売り買いされている。村の暮らしは満ち足りていたが必要最低限の物しか無かったため、常に目移りしてしまう有様だ。
そんな様子を冒険者の2人は微笑ましく見つめていた。今のケンはオノボリさん全開だが、自分たちも故郷から出て来た時はあんな感じだった。しばらく黙っていたが一応護衛対象だ。最低限の注意はしておこうと口を開く。
「おい坊主、気持ちは分かるがあんまりキョロキョロすんな。町に来たばかりの田舎者だってバレちまうぞ」
「えっはい田舎者ですけど」
「そうじゃねぇよ、町の中には町の中の危険ってもんがあるんだ。スキを見せるとすぐに喰われちまうぞ」
「えっ?町の中にもモンスターが出るのですか?」
「ちげぇよ喰われるのは肉じゃなくて財産、お前さんが持っているなけなしの金だよ。詳しいことは修行先で教えてもらえ。とにかく今はキョロキョロせずに俺達について来い。ギイ商会はもうすぐそこだ」
そして道の先に周囲の店よりも一回り大きな店が現れた。丸印の中にトゲ付きの柵がある紋章が掲げられており、看板には「ギイ商会」と記されている。予想よりも大きな店構えにケンはびっくりして立ち止まった。
「あの本当にここなんですか?」
「あん?ああ間違いねぇよ、この街のギイ商会は間違いなくこの店だ。坊主字は読めるんだよな。ちゃんと書いてあるじゃねぇか」
「えっでも行商人さんなんですよね?」
「ケン君自分の弟子入り先の事も知らないの?ギイ商会って言えば世界中に商売の販路を持つ大商会だよ。一応ここが本部だけど支部が世界各国にあって珍しい物を沢山扱ってる名店だよ」
どうやらギイは商人として相当な実力者だったようだ。予想を超える事態であるがやることは変わらない事を思い出しケンは店に向かって一歩踏み出していった。
「えっと、ごめんくださーい。失礼しまーす」
「失礼するぜ」「こんにちはー」
「いらっしゃいませギイ商会へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
ケン達が店に入ると店の従業員がすぐさま対応してきた。年の頃は中年から老人の間といったところか、多分今のギイさんと同じくらいかなとケンは思った。
「ああ俺達は客じゃねぇよ。この坊主をこの店まで護衛するって依頼を受けたんで連れてきたんだ」
「こちらの少年をですか?ではお客様はギイ商会にどのようなご用件でしょうか?」
「はい、僕はケンと言います。ギイさんに弟子入りするためにやって来ました。これから宜しくお願いします!」
ケンは勢い良く頭を下げる。そして頭を元に戻した時に目の前にあったのは困惑した顔をした従業員だった。
「弟子入りですか?会頭からは何も聞かされておりませんが・・・」
「ええっ!でもえっとちょっと待って下さい。・・・っとあったはいこれ、ギイさんに書いていただいた紹介状です」
「拝見させていただきます。・・・ふむこれは確かに会頭の筆跡、日付は・・・5年前?」
「はいギイさんが5年前に村に宿泊した際に成人になったら弟子にしてくれるって言ってくれてこの紹介状を書いて下さったのです。」
「・・・ああっ思い出しました確かそのような話を聞いたような気がします。失礼ですがその際に会頭以外に一緒に居た人達が誰かわかりますか?」
「サッカという名の番頭さんと、若い男性と若い女性、そして行商人になって2日目だったヘイさんです」
すらすらと答えていくケンに対して従業員は警戒心を解いていった。ギイ商会は大商会であり店で働きたいと考える者達はとても多い、初めはそのたぐいかとも考えたが手紙は本物のようだし、聞いていた話とも合致している。ならば情報の確定を行うだけである。
「分かりましたしばらくお待ちください。今奥にヘイが居ますので呼んで参ります」
「宜しくお願いします」
静かに奥へ引っ込んでいく従業員、しばらく経つと見覚えのある顔が店の奥からやって来た。5年の歳月が経ち、体がガッチリして顔つきも精悍になっている。しかし目の輝きは変わっていない、間違いなくあの時に行商人見習いである。
「はいはいどーも行商人のヘイでございます。おおっお前があん時の坊主か!デカくなったなぁ!誰だか分からんかったよ」
「はい!お久しぶりです!」
「やはりそうですか。失礼ですがあなたが5年前の少年である証を立てて頂きたい」
「証ですか?」
「はい。我が商会には就職希望者が多いため中にはおかしな真似をして潜り込もうとする輩も居るのです。手紙も話も間違いなさそうですがあなたが手紙に書かれているケン少年である証明がありません。ヘイも誰だか分からないと言っていますから、もうひと押し欲しいところですね」
「俺達が受けた依頼書はどうだ?ギルド発行の正式な書類だぞ」
「それも考えましたが、5年で宿の持ち主が変わっている可能性もありますから。ケン殿、弟子入りした日のヘイの様子はどうでしたか?」
「えっヘイさんですか?ゴブリンの群れが襲ってきた時に僕らと一緒に震えていたり、逆茂木を逆に出して番頭さんに怒られたり、ゴブリンを倒して雄叫びを揚げたりしていましたよ」
ブフォっと冒険者の2人が吹き出す。ヘイは顔を赤くして睨んでいる。そして従業員は酒の肴に毎度ネタにされているヘイの初陣話を聞いてようやく確信を得た。
「確認が取れました。当商会へようこそ。これから宜しくお願いします」




