64 吐くと楽になることもある-2
午前中、授業に出席していても如奈は内容が入ってこず、昨日のことばかりを考えていた。寧ろ一晩おいたことで頭が整理され、変に理論立てて自分を追い詰め始める始末だった。
その内容を少しずづ如奈は話す。多少支離滅裂になってしまっても担任は止めたりせず、最後まで聴いていた。
「篠崎さん」
担任の声が、やや強いものになる。
「……少し、昔話をします」
え ? と訝る如奈をよそに担任は話し始めた。
「僕も昔、とある事件に巻き込まれて……しばらく自分のせいだって責めてたんです」
気恥ずかしそうに頬を掻きながら、担任は続ける。
「それから暫くしてから分かったことなんですが……自分以外にも原因があったんですよ」
「自分以外にも、ですか ?」
「はい。……昨日のことを伝聞でしか知らない僕が言うので、聞き流してくれていいんですが」
前置きをされ、如奈も真剣に聴く体勢になる。
「自分を責めるのは、逃げ場が無くなって辛いですよ」
「……あ」
それは、いつか如奈がキリアに言われたセリフだった。
しかし、それで話は終わらない。
「それと……自分を責めれば、関わっている以上何かしらの原因があるものです」
「全て自分のせい、というのでは解決になりません」
「…………」
普段の生徒を諭すような口調ではなく、そこには担任の切実な思いが込められていた。
しかしそれを感じ取れても、突然のことで如奈は受け取り方に困惑してしまう。
「えっと……」
「突然お説教みたいになってしまいましたね……。あまり深く考えないでください。ただ、一人で抱え込まないでほしい、ということです」
「……えっと、すみません」
「いえ、僕こそ余計なことを言ったみたいで」
「そ、そんなことはありません ! えっと、ありがとうございます」
困惑はしたものの、それが如奈を気遣ったものだとは分かっている。それを疑ったりはせず、素直に感謝を述べたのだった。
「……」
「……」
話題が一区切りし、瞬間的に沈黙が降りる。
一息つくと、如奈の表情は先よりも柔和なものになっていた。吐き出したことで、少なからず気持ちが楽になったようである。
「篠崎さん、最後に一ついいでしょうか ?」
「はい、なんですか ?」
昼休みの終わりも近づき、言いにくそうに担任は切り出した。
「根掘り葉掘り訊かないと言ったのですが……先ほどの話の中に気になるものがありまして」
「……はい」
「その、不審な方に追いかけられた、と言っていたのですが……差し支えなければ、その方の特徴を教えてもらってもいいですか ? 危険な方は把握しておきたいのですが」
「そう、ですか。えっと……」
そう言われれば、如奈も納得する。多少気に障るが強く拒むことはしないし、役立てるならば、という思いの方が強い。
「若い、先生くらいの年齢だと思います。あと、肩くらいの白髪で」
ピクリ、と担任が反応した。
如奈は頭を捻らせて更に続ける。
「その……えっと、目が赤くて、多分男性の方、です。あ、でもハイヒールでしたし……」
「篠崎さん」
如奈の言葉を遮り、担任は如奈に呼び掛ける。
その声は低く強張っており、如奈は思わずビクリとした。
「先ほど、その方の心配をしていましたが、その必要はありません」
「……え ?」
「その方なら、確実に今頃ピンピンしていますよ。安心してください」
「え、えと…… ?」
笑顔であるが、その瞳は強いものを秘めており言葉端にも有無を言わせない迫力が窺える。
「ああ、もうお昼休みも終わってしまいますね。篠崎さん、長々と付き合っていただきありがとうございます」
「え ? えと、いえ、私の方こそ、ありがとうございました」
そう言いはするものの、担任の様子の変化に如奈は戸惑った。
すでに先の様相は隠れ、担任は柔和な笑みを浮かべている。
しかし時間が押しているのも確かなので、それについて互いに言及する事もなく如奈は教室に、担任は職員室にそれぞれ戻るのだった。




