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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
63/78

63 吐くと楽になることもある-1



 強くなる雨音、蛍光灯の無機質な明かり、冷えたコンクリートの床。事故の直後に向かった交番は、如奈にとって息苦しい場所だった。


「つまり……こういう言い方は良くないが、決定的な瞬間は見なかったんだね」

「はい、睦人……えっと、一緒にいた男の子が、こう、手で目を覆ってくれたので」


 警察に連れてこられた如奈は、しどろもどろではあったが自分が見たことを警官に話していた。

裏道を歩いていたら、青年に会ったこと。不審者だと思い、逃げたこと。ブレーキ音ののち、しばらくしたら周囲が騒がしく事故に気が付いたこと。


「そっか、それで彼は……」


 警官は言葉を濁すが、その先がわからないほど如奈は鈍くはない。


 事故を見た衝撃で睦人は倒れたのだと、そう言いたいのだ。詳細は異なるのだが、大体はその通りである。


「彼、以前に交番に来たときは、少し怖かったが……優しいんだな」

「……はい」


 頷く如奈の顔は、交番に来てから一番辛そうであった。





 昼休み、食欲がわかずに早めに昼ご飯を切り上げた如奈は、言われた通りに生徒指導室へと向かう。


「失礼します……」

「はい、どうぞ」


 中ではすでに担任が待っており、にこやかに如奈を迎え入れる。


「お昼にすみません。篠崎さん、昼ご飯はしっかり食べられましたか ?」

「えっと……あまり……」

「そうですか……。ああ、すみません、そこに座ってください」


 促されるままに如奈は担任の対面に腰掛ける。


 初めて訪れる生徒指導室にどこか落ち着かない気持ちになるが、担任が微笑みその緊張を和らげる。


「察しているかもしれませんが、今日は篠崎さんに指導をすることが目的ではありません。その点では安心してください」

「……えと、はい」

「単刀直入に言ってしまうと……篠崎さんが昨日(さくじつ)事故現場に居合わせたことについてです。警察の方から学校に連絡がありましたので」


 やっぱり、と思うとともに如奈は無意識に唇を噛む。


 その消沈した表情を見て、担任は慌てて補足を入れる。


「ああ、えと、何も根掘り葉掘り事を訊こう、というわけではありません。寧ろ、篠崎さんが何か言いたいことがないかと思いまして」

「言いたいこと、ですか ?」

「はい。朝から浮かない表情をしてましたので、何か抱えてしまったのではないかと思いまして。……逆に嫌なことを思い出させてしまったみたいですが。すみません」

「いえ、そんなことは ! ……えっと、ありがとう、ございます」


 申し訳ない、と思いつつも誰かが気にかけてくれたことで僅かに心が軽くなる。

かと言って、心中にあるものがすぐに言葉として出てくるわけでもない。


「えっと……」

「……急に言われても困りますか。言いたくないことを無理に言わせたりはしませんよ ?」


 担任が話を切り上げようとする。


 一方で、その言葉に逆に後押しされるように如奈は口を開いた。


「先生……」


 小さな声であったが、担任は聞き逃すことなく反応する。そして、身を入れて聴く体勢になった。


「あの、こんなこと言われても困るとは思うんですが……」

「構いませんよ、こちらのお節介なんですから」

「昨日の事故……というか、今日、睦人や桐生君が休んでいることなんですが……」

「はい」


 切り出すと、一拍置いてから本題を話し始めた。


「……私のせい、なんです」


 そう言う瞳は悲痛に揺れていた。


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