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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
6/78

6 問題行動には罰があるもの(あと建前)

 薄桃色の地に深紅のハートがこれでもかと舞っているネクタイを身に着け、担任がホームルームを始める。出席をとり、今日の連絡事項、軽い雑談と滞りなく進み、そのままいつも通りに終わると思われた。


 しかし、その最後に思い出したかのように告げられた言葉だけはいつもと違うものだった。


「ああそれと、桐生君と篠崎さん、あと宮古君は話があるので昼休みに職員室に来てください。昼食後で結構ですからね。それでは、ホームルームは終わります」


 睦人の胸中には、昨日の放課後のことが浮かんでいた。




「―では話は以上です。戻って結構ですよ」

「はい、失礼します」


 昼休み、昼食後に職員室へ向かうと、担任と園芸部顧問の二人が待っていた。話の内容は昨日の放課後のことについてだったが、予想に反して口頭注意と一応の罰としての軽い雑務を言われただけに終わった。朝から反省文や停学、最悪それ以上も覚悟していた睦人はこっそり胸に安堵を抱いた。


 職員室を出ると、桐生がやっと終わったと言わんばかりに伸びをして、晴れ晴れとした表情になった。


「いやー、無事に終わって良かったね」

「……桐生って肝が据わっているんだな」


 調子の変わらない桐生とは対照的に、睦人は緊張が解けてぐったりとしていた。半ば呆れた視線を向ける睦人は、溜息をつくように言葉を続ける。


「それとも、俺が気にしすぎなのか……?」

「でも、確かに先生の目は怖かったわね」

「ああ、そうだな……。というか、如奈(ゆきな)まで注意されることはなかったんじゃないか?」

「でも、昨日私もいたことは事実なんだから」

「そうか……」


 睦人に同意する意もこめて如奈が応える。


 桐生と睦人は危険な行為をしたとして叱責を受け、如奈は危険行為を見かけたことを報告しなかったとして注意をされた。


 その時の担任が笑顔だったが、雰囲気には隠しきれない怒気が滲んでいて、供にいた園芸部の顧問すらなぜか委縮し遠慮がちに言葉を選んでいた。


 しかし、如奈の言葉が意外だったのか今度は桐生が疑問をあげた。


「あれ、篠崎さんってああいうのダメなんだ。意外だなー」

「そう?」

「うん、何かいつもケロッとしてるイメージあったから」


 今朝もさらっと怖いことしてたし、と桐生は付け加える。

 桐生の言うことに、うーんと少し考えると、如奈は自分なりの答えを述べた。


「えっと、今日の話は私に非があったし、それなら怒られるのも仕方ないけど、でも怒られるのってやっぱり怖いものだから」

「へー。偉いね、篠崎さん」

「桐生、お前はもう少し反省しろ」


 ことの発端である桐生が何も感じていない様子であることに、睦人もつい説教を漏らす。


「やだなあ、態度に表れてないだけで、ちゃんと反省してるよ」

「……本当か?」

「僕、嘘つかないよー」


 そう言われてしまっては、疑わしさは多分に残るが、睦人は態度についてそれ以上のことは言わないことにした。


 しかし、不満が残っているのか、睦人は桐生に昨日のことを追及してしまう。


「あと、『クラスメイトとかまくらしてきます』ってなんだ」


 園芸部の顧問が、そう言って桐生がスコップを借りに来た、と話しており睦人はそれを聴くと不可解と怪訝が混ざった複雑な表情をしていた。一方で桐生はケロッとしており、訊かれた今も悪びれることなく解説をする。


「え、だからー、クラスメイトに土をかぶせて、かまくら作ってきまーす。っていうことだよ?」

「あれは、かまくらだったの……」

「如奈、それは違う。あと、百歩譲ってもあれは土風呂だ」

「宮古君、気持ちよかった?」

「良いわけあるか!」


 あからさまにからかう桐生に、睦人はつい語気を荒げてしまう。

 あはは、と一通り笑うと桐生はそういえば、と話題を変えた。


「そういえば、頼まれたはいいけど、ゴミ運びって何?」


 罰というほどでもないが、反省のためという名目で三人はゴミ運びをするようにと言われた。

 そう言ってさりげなくこれ以上の追及を逃れた桐生に、如奈が思い出しながら答える。


「来週、町内のゴミ拾いがあるでしょう?その時にみんなが集めたゴミをさらにまとめて、言われた、規定の場所に運ぶのよ」


 睦人達の通う高校は地域との関わりを大切にしており、地域への奉仕活動として様々な活動をしている。その一環として、町内のゴミ拾いがある。三人はその際のゴミ運びを頼まれた。


 奉仕活動を罰とするのは本質的にはおかしな話であるが、反省を促し健全な精神の育成に、という目的であれば三人も納得するしかなかった。


「ふーん、そうなんだ。ありがとう、篠崎さん」

「どういたしまして」


 二人のやりとりに、桐生は職員室に何をしに行ったんだろうか、と睦人は疑問に思った。しかし、教室ももう近いので胸中に留めるに終わらせた。


「あら、来週の話ですか?」


 三人が話しているところへ、聞きなれた高い声が響く。足を止めて振り返ると、鳥のぬいぐるみを両腕に抱えた小野寺が微笑んでいた。


「小野寺さん、いつのまに……」

「すみません。盗み聞きをしていたわけではないのですが、気になりまして」

「まあ、ここ教室近いし仕方ないんじゃない?ねえ、宮古君」

「ああ、別に気にしてない」

「ありがとうございます」


 ぺこり、と小野寺が一礼するとその腕の中から小さい布のようなものが落ちた。如奈が気が付いて拾い上げると、それは白くて柔らかく、部活をしている如奈には見慣れたものだった。


「湿布……?」

「ええ、これを取りに保健室に行っていたんです」


 はい、と如奈が渡すと小野寺が苦笑しながら湿布を受け取る。


「小野寺さん、どこか痛いの?」

「いえ、これは中寺君に、です」

「中寺君?」


 意味がわからず如奈がきょとんとすると、小野寺が事情を話す。


「中寺君と山寺君が腕相撲をしているのですが、何回負けても中寺君が『もう一回だ‼!』と続けていまして」


 ぬいぐるみと腕の間に器用に湿布を挟むと、小野寺がどこか楽し気に話す。


 その様子を想像し、桐生も睦人も納得する。確かに、小柄な中寺と大柄な山寺が腕相撲を続ければ中寺が腕を痛めるだろう。


「でも、中寺君の今の本命は宮古君ですから」

「は……?」


 突然話を振られ、睦人はやや面食らう。


「気が向いたら、相手してあげてくださいね」


 にっこりと、丁寧ながら含みを持って、頼み事にしては圧を持って言うと、お先にすみません、と一人教室に向かった。


「小野寺さんって、けっこう強かなのかな?」

「さあ……」


 感想を漏らす桐生にそう答え、睦人は小野寺の言葉を反芻する。いつも断っているのは悪いだろうか、と胸中に罪悪感を抱いた。


 そうして、三人が教室に着くと教室の後ろで中寺が山寺に湿布を貼ってもらっていた。


「……」

「睦人?どうかした?」

「いや、なんでもない。大丈夫だ」


 その腕の細さに、自分は確実に腕を折る、と睦人は確信を持ち、申し訳なさを覚えながらも先の考えを打ち消した。


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