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恋はかげろうの中に  作者: ルイ シノダ
15/26

第四章 戸惑い (4)

偶然、渋谷で会った吉岡と食事をすることにした奈緒は、吉岡の素直な気持ちに心が和むが。

(4)


「一ツ橋さん、何を食べます。好きなところでいいですよ」

「はい、でも吉岡さん、選んで下さい」

「分かりました。嫌いなものは」

「有りません」

思いがけない出会いで、一ツ橋奈緒子と、昼食をする機会を得た吉岡は、この前、送った時は、つれなかったけど、良かった。まんざらでもなさそう。

自分の前にいる可愛い女性に、思い切り少しの思いを期待に寄せながらそう言うと

「じゃあ、セルリアンタワーに行きません。ちょっと歩くけど素敵なお店あるし」

ここは、無理してでもちょっとかっこいいところを見せなければ。という思いと少しでも長くいたいという気持ちで、声を掛けると

「えっ、いいのですか」

奈緒も、セルリアンタワーの店は知っている。でもお昼に食べるには、ちょっと高いだろうと思った。

「いいです。せっかく一ツ橋さんと食事が出来るのに、その辺では、惜しくて」

吉岡の言葉に目元を緩ませると

「じゃあ、行きましょう」

と言って、西武デパートの目の前の信号を渡る為、体を後ろに向けた。


結構、大きい人だな吉岡が前にいると前が全く見えない奈緒は、そう思いながら青になった交差点をクロスするように歩いて行った。

時折、奈緒を見ながら歩調を合わせてくれる。それが、分かりやすくでる吉岡に、優しいんだ、また微笑むと

「一ツ橋さん、どうしたんですか。何か可笑しいことでも」

「いえ、何でもないです」

下手に優しいですね。なんて言ったら誤解を招くと思った奈緒は、あえて言わずにいた。

西武デパートからセルリアンタワーに行くには、ハチ公前交差点をクロスして、もうなくなってしまった渋谷プラザを通り過ぎ、横断歩道橋を渡って、二四六を三軒茶屋方面に少し歩かなければならない。吉岡は、折角偶然会った可愛い無言のまま付いてくる女性に何か話さなくては、と思い

「一ツ橋さん、今日は、どの様な用事で渋谷へ」

さっき答えたのにと思いながら

「ちょっと、洋服を見に。買うか買わないか分からないですけど」

「そうなんですか。僕もスマホ、更新するか分からないけど見に来ました」

西部デパート前で会った時と同じ会話する吉岡に、クエスチョンマークを頭に浮かべながらいると

「そう言えば、これ、さっきのデパートの前で話しましたね」

照れ笑いながら言う吉岡に奈緒も付き合って微笑むと

可愛いな。微笑むと一段と素敵に見える。彼いるんだろうな。仕方ないか。左隣りを歩く女性を横目で見ながら思うと

「一ツ橋さん、聞いていいですか。ちょっとプライベートな事」

えっという顔をしながら吉岡の顔を見ると、なんでしょうという視線を送った。


「一ツ橋さん、スティディな人いるんですよね」

いることを前提に聞く吉岡に

「スティディな人」

言葉の意味に疑問を感じると

「あっ、スティディと言っているのは、その、例えば、もう心に決めた人がいるとか」

少しの無言の後、

「ちょっと、答えられません」

少しきつい口調で真面目な顔をして返答する女性に

「あっ、すみません。やっぱりいきなりでしたよね。あつ、もうそこです。美味しいもの食べましょう」

話の持って行き方をミスったと悟った吉岡は、すぐに会話を変えようと目の間に迫ったセルリアンタワーのレストランの会話にしようとした。

結構、ストレートな言い方で聞いてくるな。そう言う事、普通聞かないでしょう。吉岡の質問にジュンの話題を出したくなかった奈緒は、あえてきつく答えた。

吉岡は、何も言わずに左手にあるエスカレータに乗ると

「ここの二階にあるイタリアンレストランにしましょう」

エスカレータを降りて右に大きく回るように歩くとガラス越しのレストランが見えた。カウンターとテーブルがあるお店だ。

ここかあ。奈緒は、ガラス越しに見えるレストランを見ながら歩くと左に回ったところで入り口が有った。左手にコースメニューと値段書いてある。

三千円からだ。結構高いな。いいのかな。何も言わず入り口を入った吉岡の背を見ながら思うと、中から真っ白なシャツを着て、少し背の高い紺のエプロンが脛まである店員が近寄って来た。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか」

「いえ」

「何名様ですか」

「二人です」

そう言って人差指と中指を立てると

「少々お待ちください」

と言って、カウンターの横に歩いて行った。カウンターの置いてあるリストを見ると、その後、更に二人を値踏みするように見てから、もう一度近寄って来て

「席をご用意出来ます。どうぞこちらへ」

と言って、二人の前を歩きだした。

窓に近い中ほどのテーブルだ。場所としては可もなく不可もないというところだ。既に三組のお客がテーブルを囲んでいる。

テーブルに案内した店員が、一度離れると

「吉岡さん、いいの」

色々な意味を含めて言うと

「全然いいです。一ツ橋さんが気に入ってくれると嬉しいです」

「とても素敵なところです」

「良かった」

二人の会話のスキを見るように、先程の店員がメニューを持ってきた。始め吉岡に、そして次に奈緒に渡すと

「お決まりになりましたらお呼びください」

と言って、また席を離れた。奈緒はメニューを開くと最初のページと次のページにコース料理が並んでいた。

結構高いなと思いながら、更にページをめくると単品が載っている。決まらずにいると

「一ツ橋さん、どれにします。僕は、ペペロンチーナのスパゲティのセットにグラスの白ワイン。休みだから」

いたずらっぽく笑いながら言うと、まあ、取りあえず無難にと思い、

「じゃあ、私は、ボンゴレのスパゲティのセット」

「飲み物は」

「水でいいです」

本当は、目の前に座る姫君が少しでもワインを口にすれば、色々話せるかなと思った吉岡は、ちょっとだけ残念そうな顔が吉岡の顔に浮かんだが、

「分かりました」

と言うと先程の店員の方を向いて手を上げた。


白ワインの入った吉岡は、自分の事を話した。仕事の事や、プライベートな事、聞いてもいないが、良く口元が動いた。

奈緒は、その話を聞きながら相槌を打つだけだったが、楽しそうに話す吉岡に微笑みも隠さなかった。

一ツ橋さんの笑顔ってホント可愛いな。こんなに素敵な人に誰もいないなんて考える方がおかしいか。そんな考えを頭に浮かべながら奈緒の笑顔を見ながら話しているといつの間にか二時を過ぎていた。

 何気なく腕時計を見た吉岡は、

「あっ、もう二時だ」

そう言った後、目の前に座る女性に向かって

「一ツ橋さん、この後、何か予定入っていますか」

意味は分からなかったが、素直に

「いえ、何も」

と言うと

「せっかく、お会い出来たので、お腹消化するように散歩しませんか」

「散歩」

ここは、渋谷の真ん中。散歩と言ってもどこに行くのかな不思議そうな顔をしていると

「あっ、どこに行くわけでもないんですけど、ここから宮益坂通って表参道の方に歩くとか、公園通りを通ってNHKの方に行ってファイヤ通り辺りに降りて来るとか。そんな感じ。どうですか」

吉岡の言葉を聞いて特に変なとこに行くわけでもなく、自分も時間あることを考えると奈緒の返事を待っている吉岡の顔をじっと見た後、にこっと笑って

「いいですよ」

と答えた。

 吉岡は天に舞い上がる気持ちだった。同僚とかではなくて、こんなに可愛くて綺麗な人と食事をした後、散歩できるなんてと純粋に喜んだ。

「じゃあ、そろそろ出かけますか」

「あっ、あのちょっと、トイレに」

「そうですね。僕も後で」

奈緒は、小さなグッチのバッグを持つと席を立った。綺麗に髪の毛が背中に流れている。綺麗にくびれた腰とほんの薄く見えるとブラの線が、たまらなかった。トイレに行く後姿を見ながら、羨ましいな。あんなに素敵な人と付き合っている人って、どんな人だろう。そう思いながらほんの少し前に見えた後姿に、一瞬だけ頭に浮かんだ事を振り切ると席に戻るのを待った。

やがて、奥から彼女が現れると、口紅を直したのか、素敵に口元が輝いていた。吉岡は、麗しいまでの唇をたたえ、笑顔で戻る一ツ橋に、またまた要らぬ事を浮かべたが、

「じゃあ、ちょっと行って来ます」

そう言って、自分もトイレに入った。どうしても元気になってしまった状況に、仕方なくコンパートメントに入った後、参ったな。元気になっている。仕方ないか。要らぬことを考えながら用を済ませて、テーブルに戻ろうとすると外の景色を見る彼女の横顔が目に入った。これから、まだ、会っていられるんだと思うとちょっと心が嬉しくなって

「行きましょうか」

自分は席に座らずに声を掛けると

「はい」

と言って奈緒も席を立った。


「嬉しそうな顔をしていますね」

「当たり前です。食事だけでなく、こうやって散歩も出来るんだから。心がちょっと舞っている気分です」

「大げさ」

笑いながら言う女性に

「そんな事ないですよ。一ツ橋さん、あこがれの人ですから」

その言葉に奈緒が、頬を緩ませて笑顔にしながら

「うまいな、吉岡さん」

吉岡の顔を見ながら笑顔で言うと

「本当です。できればお付き合いしたいです」

吉岡は、さっき二杯程飲んだワインの勢いも有ったのか、口から出た言葉にしまったと思った。

一瞬、奈緒は驚いたが、自分自身の心の中にある人(男性)を考えれば

「ふふっ、そう言ってもらえるのは嬉しいです」

それだけ言って、笑顔を戻した。

後を続けない、隣で歩く女性の真意をくみ取れないままに、これ以上言うのは、ばかだな。と理解して、話題を景色に変えた。


「ジュン、食事したら映画見よう」

「映画。何か今やっていたっけ」

「ううん、この時間から始まる映画、二人で決めればいい」

瞳の言葉に

「そうか。そうだね」

そう言って、左手に持つコーヒーをテーブルに置くと、すぐにスマホをポケットの中から取り出した。

渋谷、映画で検索すれば簡単だ。すぐに見つけると上にスクロールしながら、

「瞳、選んで」

目の前のスマホに映る映画の一覧に

「これがいい」

と指さすとジュンは、すぐに映画館の予約席を、画像を映して

「どこにする」

「思ったより空いているね。ここにしよ」

瞳の席と自分の席をタップして決めると予約のマークが映し出されるのを待って、

「じゃあ、行こうか」

ジュンの言葉に

「ちょっとだけ時間あるから、洋服みたい」

「いいよ」

瞳のリクエストに公園通りにあるお店から出ると、パルコ通りからスペイン坂を降りて宇田川町の通りに出た。瞳の行きたい西武デパートは、目の前だ。二人で歩きながら

「洋服って何見るの」

あまりその辺には疎いジュンが聞くと

「何を見るとか決めているわけじゃなくて、何となく色々見るだけ。女の子ってそんなものよ」

つい奈緒と比較したジュンはそんなものかと思うと

「分かった。後ろ付いて行く」

その言葉に瞳は笑顔で答えると西部デパートの横の入口を入った。


「一ツ橋さん、ありがとうございました。とても楽しかったです。本当はもっと一緒に居たいのですけど、無理ですよね」

奈緒も吉岡のスティディな態度に少しだけ心が緩みそうになったが、ジュンは仕事していると思うと自分だけこれ以上はと思い、何も言わずに頷くと

「済みません。つまらない事聞いて。じゃあ」

一瞬言葉が切れたが、

「あの、もし今日みたいな時間が有ったら、また一緒に時間を過ごしてもらえますか」

あまりにも素直な言葉に奈緒は難しくは考えずに

「はい」

答えると、もうダメかなという思いから、やったー。と思うと満面の笑みを浮かべながら

「じゃあ、今日はここで」

と言って井の頭線ホームに向かった。

奈緒は、吉岡と駅で別れた後、腕時計を見るとまだ四時前だった。せっかく渋谷来たんだから、やっぱりちょっと寄って行こう。そう思って、最初来た時に立った入り口からデパートに向かった。

一階は、どこのデパートも化粧品売り場だ。日本や外国の有名な化粧品メーカーがずらりと並び、化粧をはっきりさせた女性たちが立っていた。奈緒の姿を見ると、いかにも私たちの化粧品はお似合いです。と言うような顔をして近づいてくる。

 奈緒は、今日は化粧品を買う気には、なっていない為、すぐに二階のエスカレータに向かった。

 その時だった。一瞬目を疑った。そして足を掛けたエスカレータが上昇しても、奈緒は一点しか見ていなかった。

そんなはずない。今日は来週からの出張の仲間と仕事の事で会うと言っていた。

楽しそうに笑顔で話す男女は、どう見ても恋人同士にしか見えない。

その二人がエスカレータの陰に隠れると奈緒は、すぐに下りのエスカレータに向かった。下りエスカレータに乗ろうとした瞬間、その二人が楽しそうに会話しながら、昇りのエスカレータに乗って上がって来た。こちらに気が付いている様子はない。

 信じられない光景を見ながら、奈緒は二人の姿を遠目に見ながら後ろを追った。一五分位して、女性が腕時計を見ながら、何か嬉しそうにジュンに話しかけると、二人は下りのエスカレータに向かった。

 二人がエスカレータに乗ったのを見た後、自分もエスカレータに行くと、既に二人は、エスカレータを降りて姿が消えていく所だった。

 急いでエスカレータに乗ると右側を降りようとしたが、女性二人が並んで話している。仕方なく一階まで着くのを待ってから、急いで二人が消えた方向に行くと、既に二人の姿はなかった。

 周りを確認しながら、出口に向かったが、人だかりで完全に見失っていた。

ジュン、そんなことない。あり得ない。他の女性とあんなに楽しそうにしているなんて。急いでスマホを取り出すとタップしてメールを送った。

蓄積センターに入れますか。と言うメッセージに、電波が届かないと思うと、どこに。と言う思いが頭の中を駆け巡った。

 立ち止まっていたが、周りの人間がどうしたんだ。と言う顔をしながら通り過ぎるのを見て、奈緒は仕方なく駅に向かった。家に着くまでの間、頭の中は、それだけでいっぱいだった。



吉岡と別れた奈緒は、朝行く予定だったデパートに行きます。そこでジュンと瞳の姿を見てしまった。

次回、ますます混迷を深める三角関係。お楽しみに。

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