チャイム
その次の日は土曜日で、授業がない。今日は彩都の家でギターを練習だ。
「そこ違う。指は常に次の弦を狙っていろ。すぐ下の現移動は、その指の腹の部分で抑えろ」・・・とか。
やはり上手い人に教わるとやる気が出てくる。彩都と付き合い出すようになってから、友達は確かに減った。旭詠高校軽音楽部の再興をともに目指そう!と誓った軽音部メンバーも裏切っちまった。
昨日だって、おかげで女の子をいじめから救うことができた。全く、見ず知らずの女子高生に向かって、しかも手を上げるとか・・・。やっぱすごいやつだよ。俺の時と同じだったから・・・。
と、麩を開ける音がした。白い髪に、顔半分の火傷のあと。もう半分も、傷が目立った顔。しかし、それでも可愛いと言わせる何かの魅力をこの娘は持っていた。
「修希さん。ギター、はかどってますか?お茶、ここに置いときますね」
彩都の実妹、綾音ちゃんだ。
テーブルにそれぞれ湯呑を2つ置いてくれた。家庭的な女の子でもあるのだ。料理、洗濯といった家事は彩都に昔習ったとは言ってたけどな。
俺は自然に「ありがとう」と言っていた。熱めのお茶が好きなので、このまますぐにお茶を啜る。さっぱりとした苦味がまた上手い!落ち着かせてくれるものが、やはり日本伝統のお茶という飲み物にはあると思う。
「では、失礼しますね。洗い物が残ってあるので」
「ああ、俺も手伝うよ!」
俺がこう言った訳は、家でも気の向いた時しかしない皿洗いだが、家の中で俺らだけ楽しんで綾音ちゃんだけ働かしてるなんて、おかしい・・・かな、なんてお客さんの俺が思ってる。
「二人でやれば早く終わるさ。彩都もさ、手伝おうぜ」
「構わないな。というかお前は休め」
「ダメです!兄さんは昨日お風呂洗いから夕食の処理や掃除まで、ほとんど私が眠ってる間にやっていただいたではないですか!?確かに昨日は色々ありましたが・・・」
へえ、紗理衣ちゃんにも色々あるんだな。
てか、やっぱりこいつは一人だけに何かをやらせる男ではない。
「お前がそう騒ぐ必要はない。そもそもお前の住む世界はこんな閉じこもった世界ではない。もっと、明るい・・・」
「??何言ってんだ彩都・・・」
ピンポーン!ピンポピンポーン!!
チャイム最後2度押しかよ!
「誰でしょう?私が出ますね」
「いや、俺が行く」
「彩都?」
彩都はエレキギターをベットの上へと放り投げた。ふかふかなベッドだったはずなので大した傷はつかないはずだが・・・。でも彼は決して乱暴に器具を扱ったりはしない。
彩都の目は、何を見ているのか、わからなかった。