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人の死の上に

作者: 小林 諒司

今回は全く会話がありません。そのため状況が把握しにくく、読みづらいかもしれません。

その点を注意してお読みください。

 薄暗い森。

 厚い雲に覆われた空。

 昨夜の雨にぬかるむ腐葉土。

 肌に張り付くような空気がこの森を徘徊する。

 一陣の風も吹かず、朝を告げる鳥も啼かない。

 この静かな森の中に複数の蹄の音が響く。

 先を走る二頭の馬に乗るは若い……というより幼い黒髪の少年と赤い髪の少女。少年は鉄で出来た膝当てと、刃渡り一尺ほどの刀を差して弓を馬に掛けている以外、武装はしていない。少女に限っては、質素な白のワンピースしか着ていない。

 二人の後ろには、弓を携え、剣を腰に差している鎧の男が四人。命を狙われる少年少女の顔に笑みが見られる事は無い。

 木々の乱立する中、赤い髪をなびかせる少女を先頭に、馬に乗った集団が全速で森を駆け抜けていく。




 鎧を金で装飾されているリーダー格の男が指で指示を出すと、鎧の男達は四人で固まっていた陣形から左右に一人ずつ、木々の中へ馬を走らせて行った。

 一時的に追っ手が二人になった。しばらくすると、さっきまで岩やら倒れた木やら障害物が多い道から、真っ直ぐで平坦に整えられた若干広い道へ出る。好機とばかりに追っ手の二人が、足で上手く馬の腹を挟みながら弓を構える。狙うは少女の小さい背中。

 上下に揺れる馬上からほぼ同時に二本の矢が放たれる。怒りの込められた矢は、幼い体を貫くために風を切り裂いていく。だが一本は少年の引き抜いた刀に切り払われ、もう一本は少女の右袖を掠っただけだった。

 矢によって裂けた袖から覗く少女の細く白い右腕には、奇妙な形の黒いタトゥーが。それは何かの鼓動に合わせるように、淡く緑に光っていた。

 その後も追っ手から飛来する矢は全て少年が捌き切っていた。これでは仕留められないと判断した追っ手達は、弓を馬に掛けた。

 いつの間にか、道は緩い左曲がりのカーブになっていた。




 左カーブを抜けると、今度は少し急な右カーブに入った。馬に鞭を入れようと横腹を蹴った瞬間、少年の左肩に矢が肉を裂いて突き刺さった。

 不意の熱い痛みに前屈みになる少年。この矢の射手は森に消えていった男の一人だった。刺さった矢の周りに赤い円がじわじわと大きくなっていく。

 少年が顔を歪めながら矢を引き抜いた。そして馬の横腹に掛けてあった弓を持ち、再び弓を引き絞っている追っ手に撃ち返す。矢は木々を潜り抜け、男の額を射抜き、男は矢を生やしたまま落馬した。引いていた矢は力無く空へと吸い込まれていった。

 前方から悲鳴が聞こえてきた。見ると、いつの間にか離れてしまった少女の馬に、鎧の男の馬が併走している。

 鎧の男は腰に差した剣を抜き、一突き。

 森に甲高く響く嘶き。

 馬は倒れ、首から血を噴き出している。少女は投げ出され木に頭を打ったのか、ピクリとも動かない。

 少女に近寄る鎧。右手には馬の血に濡れた剣を逆手に持ち、振り上げ、振り下ろした。しかし肉を裂く感触も、痛みに震える悲鳴も無かった。男の目の前には、ただ肘から先が無くなっている腕があるだけだった。

 鎧の男の絶叫に、森から数羽の鳥の羽ばたきが聞こえる。少年は馬から飛び降り刀を納めると、右腕を押さえる男を傍目に気を失っているだけだった少女を木に寄りかからせた。そして立ち上がり、後ろから来る残りの追っ手を待った。




 追っ手の二人はすぐに少年の元へやってきた。リーダーの男は馬を降りると、すぐそばで呻いている右腕の無い部下の首を跳ね飛ばす。

 風に擦れる木々の葉音しか聞こえない森。

 部下が前に出てきて剣を抜いた。少年も抜刀する。刀身にはまだ血が付着したままだ。部下の男が駆け出し、少年に迫る。少年もそれに合わせ駆け出した。男が切りつけるが、それを少年が刀の刃で受け止める。そしてそのまま刀を滑らせ、一気に男の懐に潜り込むと首に刃を当てた。組んだまま一瞬止まる二人。少年はそのまま腕を押し込む。男は前のめりに倒れ、少年は大量の血を顔から浴びた。

 追っ手のリーダーが剣の柄を握りなおす。剣には――Abdel――アブデルと名が彫られていた。左手首の頑強な、金属板を合わせたような手甲が盾代わりのようだ。

 少年は荒くなった息を整え、血だらけの顔を袖で拭う。しかし既に血を吸った服はそれ以上吸おうとせず、拭った血はそのまま地に落ちた。

 お互い動かずにただ見合う。数秒か数分か、耐え切れず少年が先ず切りかかった。アブデルは冷静に手甲で弾いて、右足を踏み込み剣を突き出す。少年は突きを避け、アブデルの背後に回るように体を回転させると、回し蹴りで右の横腹に踵を見舞う。が、鎧のせいで相手はよろけるだけだった。

 お互い間合いを取り、また見合う二人。

 再び少年がアブデルの懐目掛け、駆け出した。アブデルが横薙ぎに剣を振ると、それを刀で受け流し、少年は膝で蹴り上げる。アブデルは二、三歩後ろに退くと、さらに向かってくる少年を手甲で殴りつけた。咄嗟に左腕で防いだ少年は、後ろに下がりアブデルとの間合いを取る。左腕は痛みで満足に動かすことが出来なくなっていた。

 アブデルは唐突に剣を地面に刺すと重い鎧を外しだした。ほんの数瞬で身軽になり、剣を再び抜く。そして左腕が腫れ上がった少年を一瞥し、叫びながら走り出した。右手の剣で袈裟懸けを繰り出す。しかし動作が大きかったため、少年に簡単に避けられてしまう。少年から右足のハイキック。アブドルは頭に鞭の様に迫る足を左手で受け止め掴むと、そのまま振り上げ地面に叩き付ける。さらに、掴んだまま投げ飛ばした。

 少年は木の幹に打ち付けられ、左肩の傷がさらに熱を持って呻き声が漏れる。蹲っている少年の耳に、アブデルの近づく足音が聞こえてくる。その足音が足を速めた死神の足音に聞こえ、少年は願うように刀を持つ右手を強く握りしめた。

 アブデルは少年の前に立った。剣を両手で持ち振り翳して、少年の胸目掛けて振り下ろす。剣の切っ先は地面を捉えた。そして左膝が折れた。少年が男の左足を切りつけていた。

 少年は、左膝を突いた男の喉を切り裂いた。




 少年が肩を止血している。と、少女が目を覚ました。彼女の目に飛び込んできたのは、痛々しい少年の姿だった。

 全身を赤に染めた少年が座っている回りには、小さな血溜まりが出来ていた。少年の体に大きな傷が無いのを確認して、ほっと顔の緊張が解ける少女。

 血だらけの服を脱いだ少年は、左肩の矢創を止血し、全く動かないおそらく折れているだろう左腕を固定した。そして少女を振り返り、大丈夫とでも言うように微笑む。しかしまだ少女は心配そうに少年を見つめる。

「君を解き放たなくてはならない。だからそれまで、僕は生にしがみつく」

 少年がそう言うと、少女の顔にまだぎこちないが優しい笑顔が戻った。

 二人は再び馬に乗り森を駆ける。既に手にした自由を目指して。




 一方、森から南にある湖に浮かぶ城とその周りに広がる都。そこでは濃い血の匂いが蔓延っていた。どこからか湧いた異形の獣が人々を虐殺しているのだ。

 獣は肉を噛み千切る牙と肉を切り裂く爪、大人の人間より二回りも三回りも大きい巨躯を有していた。

 人間が武器などの道具やら、魔術などの知識やらを持ち出したところで何の役にも立たない。

 行き着くところは決まって死だった。違いといえば、大人しく頭から喰われて痛みを殆ど伴わないか、抵抗して意識の無くなるまで切り刻まれるか、だ。

 舞い上がる炎、血飛沫、肉片。飛び交う祈り、悲鳴、咆哮。

 血を得て笑っているようにも見える異形の獣達。その右腕には奇妙な形をしたタトゥーが彫られ、そして淡い緑色に光っていた。

 月と死が満ちていた


 


 翌朝、そこには血に濡れた廃墟が広がっていた。

 崩れた壁には、二羽の小鳥が寄り添いながら留まっていた。

会話が無いことによる影響や、この部分はこうした方がいいのでは?

などありましたらぜひ教えていただきたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。  会話がないことで、作品全体に緊張感が漂い、唯一の台詞である少年の言葉が強調される効果があったように思います。  会話がないことよりも、全体的に説明が足りないこ…
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