第11話 終焉の魔女は酔わせたい
「はぁぁぁ……あのギルマス、やっぱり面倒臭いから俺に押し付けたいだけじゃん……」
俺はギルマスとの話を終えて、深いため息をついた。
出張の場所は――湾岸都市カイロス。
各地のギルドの代表が集まる会議があるらしく、そこに出席して欲しいとのことだ。
カイロスといえば、次のストーリーイベントが起こる場所だ。
面倒ごとに巻き込まれるのは御免だし、そもそもリアのこともあるし……。
「断れるなら……断りたかったな」
リア、出張のことを伝えたら怒るだろうなぁ。
全てが憂鬱で仕方がない。
「――副ギルマス、お疲れ様です。なんだか……大変そうですね」
背後から鈴の鳴るような声がした。
振り返ると、そこには銀髪の女性――シアさんが心配そうな表情をしていた。
「ああ……急な話だし、押し付けられたような形だからね……。まあ、シアさんが付いてきてくれるだけ助かるよ」
「いえいえ、私は興味があっただけですから……」
彼女は丁寧に謙遜する。
本当にいい子だなぁ。
そう思っていると――
「――あっ、そうだ。副ギルマス、これからご飯に行きませんか?」
シアさんから突然の誘いが飛んできた。
「え……これから?」
「はい。出張のためにも仲を深めたいですし、私、副ギルマスのこと、もっと知りたいですから……!」
「でもな……さっき言った通り、家ではリアが待っているから早く帰らないと可哀想なんだよ」
「っ……あ〜……」
シアさんは一瞬だけ、何故か少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「だ、大丈夫ですよ! リアちゃんもわかってくれます。絶対に怒ったりしませんから! 私が保証します」
「そ、そこまでか!?」
「はいっ! 絶対に怒らないって言いきれますよ!」
そこまで言い切るのか……?
その自信がどこから湧いてくるのかわからないが……そこまで言うなら――
「シアさんがそんなに言うなら……少しだけなら付き合うよ」
「やった……! 副ギルマスとご飯だ……っ!」
シアさんは嬉しそうに頬を緩ませた。
「とはいえ、少しだけな? 1時間もしたら俺は帰るけど……いいか?」
「ええ、大丈夫です。少し一緒にご飯を食べるだけですから……! じゃあ。すぐそこの酒場とかでいいですかね?」
「おう。勿論」
そうして、俺たちはギルドの近くにある酒場に足を運んだ。
酒場は冒険者や街の人々で賑わっており、皆、酒を片手に談笑していた。
「そういえば……副ギルマスってお酒は飲むんですか?」
「まあ普通に飲むぞ? 正直、酒でも飲まなきゃやってらんないし……でも、最近はリアがいるから全然飲んでないなぁ」
「ふぅん、そうなんですね」
シアさんは、一瞬だけ口角を上げると――
「――じゃあ、今日は久しぶりにお酒飲んでもいいんじゃないですか?」
「そ、それは……」
それは悪魔の誘惑だった。
正直、めっちゃ飲みたい。
けど……帰ったら酒臭かったらリアは嫌がるだろうし……。
「大丈夫ですよ、リアちゃんは絶対に嫌がりませんって」
「そうか? なら……」
俺は店員さんを呼び、適当な料理とエール酒を注文した。
「ふふっ、作戦成功。このまま酔わせてアスタさんを……」
「シアさん? 何か言ったか?」
「い、いえいえ! なんでもないですよ? それより私も注文しますね!」
「……?」
シアさんは慌てた様子で幾つかの料理を注文していく。
「そういえば、シアさんは飲まないのか?」
「え……あ〜……」
「もう成人してるんだよね? 折角なら一緒に飲もうよ」
「そ、そうですね! じゃあ、果実酒を一つ……!」
シアさんは歯切れ悪く注文する。
……もしかして、無理をさせてしまっただろうか。
アルコールハラスメント……なんて言葉が日本にはあったし、しまったな……!
店員が去った後、俺はシアさんに謝罪する。
「ごめん、無理強いするつもりはなかったんだ……お酒苦手なら俺が代わりに飲むから言って欲しいな」
「い、いえ! 大丈夫ですよ。果実酒くらいなら……大丈夫……なはずです」
「無理そうだったら全然、残してくれていいからな……?」
俺が不安に思っていると、店員さんが果実酒とエールを運んできた。
「じゃあ、乾杯をしましょうか……!」
「うん。今日もお疲れ様」
カツンと木のジョッキ同士を軽くぶつけると、エール酒を流し込む。
「――はぁぁぁ、久しぶりに飲むと良いなぁ……」
「うん、果実酒も結構美味しいですね……!」
シアさんはチビチビと果実酒を飲んでいた。
まるで小動物みたいだ。
「もしかして、シアさんってお酒は初めて?」
「……はい、実は初めてなんです。でも結構美味しいんですね、お酒って……!」
「果実酒は飲みやすいからねぇ。でも、飲みやすいからって飲みすぎちゃダメだよ?」
「はい……! わかりました!」
そう言っておきながら、シアさんのお酒を飲む手は全然止まる気配がなかった。
結果として、彼女はおかわりを何杯も頼み――
「し、シアさん本当に大丈夫!?」
「ひゃい……大丈夫れふ、アスタさんの心配には及びませんから……」
ぐでーっとシアさんは机に突っ伏す。
彼女の顔は真っ赤に染まっており、呂律も回っていない。
完全に泥酔状態だ。
「アスタしゃん……心に決めた人ってなんですかぁ……もう……何で私じゃないんですかぁ〜」
「シアさん?」
明らかに酔いすぎている。
ここでお開きにして、早く家に帰そう。
「……シアさん、家まで送るから場所を教えてくれないか?」
「家……? そんなのアスタさんと同じ場所に決まってるじゃないですかぁ〜」
「違うけど!? シアさん、水飲んで。ほら……!」
シアさんに水を差し出すと、彼女は言われるがままに飲んだ。
「あ、あれ……私は何を……」
すると、少し酔いが覚めたのか彼女は少し冷静になってくれた。
「良かった……それで家の場所は……?」
「あ〜、いや、それはぁ……。大丈夫、大丈夫です! 私、一人で帰れますから……!」
「そう? なら良いけど……」
「あの、私……急用を思い出しちゃったので先に帰りましゅね! じゃ、じゃあ、お先に失礼します……! 代金はここに置いておきます……!」
「え、シアさん!?」
シアさんはお金をテーブルに置くと、千鳥足で去っていった。
……本当に大丈夫だろうか。
俺は不安に思いながら帰路についた。
――◇――◇――◇――
「アスタさん、お帰りなさい〜」
家に帰ると、リアが駆け寄ってきて――
「えへへ、ぎゅっ〜!」
「へ!?」
リアは俺に思いっきり抱きついてきた。
「り、リア……?」
「アスタさん……もう離しません、一生離したくありません……すーはー、すーはー」
「ちょ、ちょっと!?」
もしかして、匂いを嗅がれている!?
絶対に酒臭いと言われるので、引き剥がそうとするが……何故か全然引き剥がせない。
「お酒くさい……けど、アスタさんの匂い……」
「リア……本当にどうしたんだ? まるで酔ってるみたいだぞ?」
「酔ってないですよ〜……それよりもベッドにいきましょ? 早く一緒に寝たいです」
「でも、俺まだ風呂入ってないから――」
「――大丈夫です。私は気にしない……どころか、むしろご褒美……!」
「り、リア?」
「というわけでベッドに行きましょう〜」
「ちょっ!?」
リアに引っ張られ、俺はあれよあれよという間に寝室に押し込まれる。
そして、ベッドに押し倒された。
「ん……ぎゅ〜っ」
リアはいつもと違って、正面から抱きついてきていた。
こうなれば、もうリアは止められない。
「アスタさん……ずっと、一緒にいてくださいね? 一緒にいてくれなきゃ……嫌ですからね」
「え、それってどういうこと――」
「――すー、すー……」
「寝ちゃったよ……」
リアは最後に謎の言葉を告げて、安らかな寝息と共に寝ついた。
全く……世話の焼ける子だなぁ。
結局、俺の抵抗虚しく、そのまま一夜を越すことになった。
そして――翌朝。




