【読後感最悪シリーズ】勝負にもならない(AI作品)
午後三時。
平日の喫茶店は空いていた。
窓際の席に、Aは座っていた。
メニューの端を指でなぞりながら、値段だけを見ている。
ブレンドコーヒー 430円
アメリカン 450円
カフェラテ 520円
一番安いものに指が止まる。
「ブレンドで」
声は小さく、店員が一瞬聞き返した。
Aは軽く会釈をして、席に戻る。
店内には甘い匂いが漂っている。
焼き菓子の匂い。砂糖の匂い。
どれも、今の自分には遠い。
朝から何も食べていなかった。
食欲がないのではない。
食べることを考える余裕がないだけだ。
スマホを見る。
未読メール。
上司からの連絡。
昨日送った資料の修正指示。
「急ぎでお願いします」
頭が少し重くなる。
ドアベルが鳴る。
明るい声。
「久しぶり!」
Bだった。
柔らかそうなワンピース。
小さく光るネックレス。
流行のブランドのバッグ。
Bは迷わずカウンターへ行く。
「いちごパフェとロイヤルミルクティー。それとクロワッサンサンド」
迷いがない。
トレーに乗った皿は華やかだった。
赤い苺。白いクリーム。焼き色のついたパン。
Aの前のコーヒーは、小さく見える。
「元気だった?」
Bはパフェの写真を撮りながら言う。
角度を変えて何枚も撮る。
「……まあ」
Aは答えた。
「仕事続いてる?」
「続いてる」
本当は、続けているというより、しがみついている。
朝、布団から出るまでに時間がかかる。
体が重い。
心が動かない。
会社に着くころには、もう疲れている。
昼休みはトイレの個室で目を閉じる。
帰宅すると、何もできない。
それでも辞めていない。
「ねえ、聞いてよ」
Bは楽しそうだった。
「私さ、完全に勝ち組」
スプーンでクリームをすくう。
「生活保護入るでしょ。子供の支援金も入るでしょ。慰謝料もあるし」
「……」
「働かなくていいって、最高だよ」
笑う。
「仕事探してる“ふり”してればいいの。面接とか形だけ受けてさ」
苺を口に入れる。
「シングルマザーって言うと、みんな優しいし」
Aはカップを持ったまま止まっていた。
「子供は?」
小さく聞く。
「親戚に預けてる」
「よく預けられるね」
「だって面倒だもん」
Bは笑った。
「かわいいとか、思わない」
Aは何も言わない。
「泣くし、うるさいし、時間とられるし」
スプーンを皿に置く。
「でもさ」
Bは声を少し落として笑う。
「子供って、お金になるんだよね」
Aの視線が上がる。
「最近、子育て支援すごいじゃん」
クリームをすくう。
「子供がいるだけでお金入る」
笑う。
「もう一人くらい産んでもいいかなって思ってる」
Aは何も言わない。
「適当に誰かの子供産もうかなあって」
軽い声だった。
冗談のような声。
「Aもさ」
Bは身を乗り出す。
「そんなボロボロになるまで働く意味ある?」
Aは黙っている。
「うつ病なんでしょ?」
言葉が静かに落ちる。
「診断書あればいけるって」
ミルクティーを飲む。
「生活保護の方が楽だよ」
Aの指がカップに触れている。
少しぬるい。
「あー、でも、無理かぁ」
Bは笑う。
「病気とか抱えちゃったら、もうダメじゃん」
軽く肩をすくめる。
「男も寄ってこないし」
スプーンで皿の底をこする。
「金目当て出産もできないね」
笑う。
「ほんと、タイミングって大事」
Aはテーブルの一点を見ていた。
木目が細く続いている。
Bの皿はほとんど空になっている。
「私さ」
Bはスマホを見ながら言う。
「子供、全然会ってない」
笑う。
「助け合いっての? まわりがどうにかしてくれるしさ」
通知音が鳴る。
「でも存在してるだけでお金になるって、すごいよね」
Aは自分の袖を見る。
色が少し落ちている。
洗濯を繰り返して、布が薄くなっている。
「Aもさ」
Bは言う。
「そのまま働いてても、ずっとしんどいだけだよ?」
笑う。
「頑張る意味なくない?」
Aは、自分の手を見る。
乾いた指先。
何も持っていない手。
昨日、会社で言われた言葉を思い出す。
「体調大丈夫?」
そのあとに続いた言葉。
「この案件、お願いね」
胸の奥が重くなる。
Bは楽しそうだった。
少なくとも、そう見えた。
新しい服。
甘い匂い。
軽い声。
Aは思った。
自分は何をしているのだろう。
働いている。
疲れている。
病気になっている。
何も増えていない。
何も残っていない。
Bはスマホを見ている。
次の予定の連絡だろうか。
ネイル。
美容院。
旅行。
Aの頭に浮かぶ予定は
出勤。
それだけ。
テーブルの伝票を見る。
430円。
財布の中身を思い出す。
残りはいくらだったか。
計算する。
頭が重い。
Bが立ち上がる。
「またね」
軽く手を振る。
ドアベルが鳴る。
テーブルの上には、空になった器が残る。
Aはしばらく動かなかった。
店の音が遠く聞こえる。
笑い声。
食器の音。
コーヒーの匂い。
すべてが少し遠い。
Aは立ち上がる。
椅子の脚が床をこする。
レジで支払う。
430円。
小銭を出す。
財布が軽い。
店を出る。
風が少し冷たい。
ポケットに手を入れる。
何もない。
何も変わらない。
ただ、それだけだった。




