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第六話 重りを付けて

海で、息をする。六話です!今回はこの世界の設定についてを多めに入れてます!

【前回のあらすじ】

アイザーン・ヴァースト海賊団のボス、ブリギットと出会った潮斗は、取られた荷物を取り返そうと立ち向かうが、その差は圧倒的で負けてしまった。

朝、というよりは朝の水流がゆっくりと部屋の中を撫でていった。窓の外の水中の帯が淡く光り、細かな浮遊粒子がゆらりと流れる。だが身体はやけに重い。ベッドの端で体を起こすだけで、筋肉も頭も鉛のように鈍く抵抗した。


昨日のことしか思い出せない――ブリギットの一撃。刃が水を切る音じゃなく、体内を砕くような振動が今も残っている。あれ以外には特別に疲れることをした覚えはないのに、全身がぎこちなく鈍い。精神の疲労が、筋肉にまで染み出したのかもしれない。胸の奥に小さな塊があって、思考がそれに引っ張られるように重い。


ベッドの脇で缶コーヒーのプルトップを弾く。缶の冷たさが指先を引き締め、蓋を開けると湯気の代わりにコーヒーの香りが水の間隙を満たした。苦味を一口含むと、世界が少しだけ鮮明になる。匂いが頭の曇りをこそぎ落としてくれるようだ。


「――まだ、あいつの言葉が消えねぇな」


つぶやく声は、海の流れに溶けてゆっくり広がった。ブリギットの言葉がくっきりと頭の中で反芻される。


「今のお前には戦う理由がガキみてぇに単純だ。複雑な背景を知りな。」


複雑な背景、か。コーヒーを飲み干しながら、雑な答えが胸のなかで跳ねる。守るために剣を振るう──その単純さが自分の根っこにあって、それは間違ってはいない。だがその“単純さ”が、海の中で何を見落とさせるのか。ブリギットはそれを一刀両断にしたのだ。


テーブルの上に置かれたスマホに目を落とす。リンネット先輩からメッセージだ、そこに「10時:討伐隊集合」。体の重さとは別のところで、心の奥に小さな緊張が生まれた。動く時間だ、と身体が反応する。


基地へ向かう通路を進む間、水面から流れる光が壁を流れ、機材の低振動が遠巻きに喉をくすぐる。昨日の敗北が何度もフラッシュバックするが、その度に自分に言い聞かせる。失敗を反芻しても何も変わらない。だが、反芻は学習の出発点にもなる。頭の中で「複雑な背景」をどう拾うかが、今日の課題だ。


出動室のドアが開くと、短い報告と共に任務の輪郭が示された。指揮官の声は淡々としている。


「潮斗、今回の任務はBクラスの討伐。漁場で連続被害が出ている。編成は三等兵×3、二等兵×2、一等兵×2。リンネットも同行する。詳細は現場で。」


数字が浮かんだ。三等兵三名、二等兵二名、一等兵二名。内訳の意味がすっと腑に落ちる。Bクラスは漁や村に「少し大きな影響」を与えるレベルだ――それが今、目の前の現実なのだと実感が胸に落ちる。今回の編成は、リスクを想定したバランスだ。複数の下位が共闘し、中堅・上位が局面を締める。自分の立ち位置を正確に把握することが、生き残る第一歩だ。


リンネットが静かに横に立っていた。彼女の目はいつもの柔らかさと厳しさを両方湛えている。昨日の叱責は終わった。今、彼女が見せるものは“伴走”だ。


「潮斗くん、無理はしないで。だけど、考えて動いて。」


その声は穏やかだが、芯がある。彼女は俺の顔をまっすぐ見て言う。見透かされている――昨日の未熟さを、まだ引きずっていることを。


「はい、先輩」


ぎこちなく返事をする。だが、その返事の裏には固い決意が芽生えている。ブリギットの『複雑な背景』という言葉を、今日は観察の眼で確かめてやる。守るという単純さに、理由と背景を添えて刃を振るえるかどうか。それが今日の試金石だと、心のどこかで理解した。


出動の直前、機材チェックをしながら俺は小さく呟いた。


「今日こそ、ただ振るうだけじゃなくて、意味を持たせてやる」


小さな宣言だが、HmO₂の静かな圧の中で自分の胸に収まる。その声が水流に消えていくと、不思議と体の重さがわずかに軽くなった気がした。車の扉を閉め、仲間たちと共に出発の波に乗り出す。足元から伝わる車の振動が、自分の決意を後押しするように感じられた。


【レヴィアタンのクラス】

・Eクラス:被害はほとんど無く脅威にならないと判断される個体。ただし極度のストレスで凶暴化する場合あり。

・Dクラス:一応脅威と判断されるが、畑荒らし程度の害獣レベル。

・Cクラス:人を本格的に襲う個体。三等兵が単独で対処可能。

・Bクラス:漁や村に中等度の影響を与える危険な個体。三等兵数名ないし二等兵単独で対処可能。

・Aクラス:漁や調査に大きな影響を及ぼす強力な個体。二等兵数名ないし一等兵単独で対処可能。

・Sクラス:小規模な村を壊滅させうる非常に危険な個体。複数の一等兵ないし准特等兵が必要。

・SSクラス:普通の町を壊滅させる能力を持つ個体。准特等兵複数、特等兵一人または二人で対処可能。

・SSSクラス:世界規模の脅威をもたらしかねない個体。円卓の騎士12人ですら勝敗不確定。


【TWCの階級】

・三等兵:アロンダイト適正値80〜90%で維持できる者。基礎実務を担当。

・二等兵:適正値90〜100%で維持できる者。中堅として小隊運用が可能。

・一等兵:適正値100〜110%で維持できる者。指揮能力を持ち、重要任務を担う。

・准特等兵:適正値110〜160%で維持できる者。高い戦闘能力を持つ。

・特等兵(円卓の騎士):適正値160%以上で維持できる者。12名のみ。

※ただし適正値は絶対ではなく、実戦能力があれば階級は上がり得る。逆に適正値が高くても実力不足なら階級は低くなる。


車列が砂紋の溝を縫うように進むと、水の流れがやけに不穏に鳴った。微かな振動が、掌の皮膚を震わせる。いつもなら感じない違和感が、胸の奥にじわりと広がっていく。


(マズイな……このままだと、アロンダイトの適正値が落ちる――本領が出せなくなる)

頭の中で呟く声は、正確だった。集中力が僅かにぼやけ、呼吸のリズムもいつもの刻みを失いかけている。心のどこかに不安定さが滲む。戦う前にそれを見逃すわけにはいかない。


車の揺れを頼りに剣鞘を確認する。だが、剣を握る手に伝わる熱量はいつもより薄い。思考がさっと冷える感覚、これが「共鳴の狂い」――見えない歯車のズレだと分かる。


【アロンダイト】

アロンダイトとは、世界中の科学者および技術者によって開発された対レヴィアタン用武装の総称である。

最大の特徴は、使用者と武器との間に生じる「共鳴現象」にある。

アロンダイト適正値とは、使用者がノアの大洪水で生まれたこの世界の水(HmO₂)にどれだけ適応し、かつアロンダイトの共鳴に応えられているかを数値化したものである。

適正値は精神状態や環境適応度を強く反映するため、集中力の低下、強いストレス、負傷などにより低下する。これは使用者が共鳴に十分に応えられなくなるためである。

アロンダイト適正値は使用する武器や交戦するレヴィアタンの特性により変動するため、隊員は各自に最も適合した武器を装備することが求められる。

さらに、特殊な器官を持ち特殊能力を示したレヴィアタンの素材を用いたアロンダイトは、その能力を部分的に継承することがある。

適正値が高いほどアロンダイトの取り扱いは容易になり、武器本来の性能を引き出しやすくなる。加えて使用者の身体能力も向上するが、その維持は使用者の精神と覚悟に依存する。


到着地点は、広い砂地の窪み。周囲は開けていて、レヴィアタンの出没に適した地形だと分かる。隊列は慎重に散開し、視界を分担してスキャニングを始める。


やがて視線の端に、巨大な影がゆっくりと現れた。水の中を滑るような巨体。Bクラス――その胸に、周囲の水流を引き付けるだけの存在感があった。


「見つけたわ」リンネットの声が低くなる。彼女はすぐさま位置を取り、状況を整理する。二等兵が前方から銃型アロンダイトで支援射を始め、三等兵の一人が側面を固める。戦術が自然に回り始めた。


初手の射撃が水を裂き、鱗に火花のような閃光が走る。レヴィアタンは尾を振り、砂層を巻き上げながら反撃してくる。機械的だが生き物の反応だ。隊列は計算された動きで応じる。


その時、俺の体内で何かが引っかかる。表示こそ無いが、身体が「共鳴に乗れていない」と告げている。


(くそ……やっぱり、いつもと調子が違う)

刃先に向かう力が、わずかに鈍る。攻撃のリズムが合わない。瞬間、恐怖に近い緊張が襲い、腕に力が入らなくなった。


だが、リンネットは察していた。彼女は自ら一瞬だけ大きく斬り込み、レヴィアタンの注意を自分に引きつけながら、振り向きざまに言った。


「潮斗くん! 頑張って!」


いつもの冷静な声ではなく、短く熱を含んだその言葉が、俺の耳に突き刺さる。仲間の信頼、先輩の期待。それが、頭の中の不協和音を払いのけた。


(……よし)

共鳴の糸がふっと戻る。気づけば呼吸が整い、剣の重さが俺の手に馴染んでいた。適正値が安定するのを、体感で理解する。理屈ではなく、感覚だ。


名字も名乗らず、俺は前へ出る。刃先が水を切り、正確に鱗の継ぎ目を捉える。仲間の援護が的確に空間を作り、二度、三度と刃を入れていく。レヴィアタンは最後に一度だけ大きく唸り、砂を舞わせてから沈んだ。


静寂が戻る。大きな躯が砂地に横たわり、呼吸のように水が波紋を作る。隊はゆっくりと集合し、誰もが無事を確認し合う。胸の中の鉛は少しだけ軽くなった。


近くの大きな石の上に腰を下ろすと、砂が足下に沈む。リンネットが隣に来て、そっと水の流れを共有するようにして言った。


「潮斗くん、もしかして昨日のこと、まだ考えてるんじゃない?」

その口調は優しい。諭すでもなく、寄り添うような誘いだ。


「はい……」短く答えると、リンネットは軽く笑った。


「いい? 悔しいのは当たり前。でも、悔しさをそのままにしないで。今日みたいに、一歩ずつ理由を積み上げるの。あなたにはできるから」


彼女の言葉は、俺の中に小さな光を灯した。立ち上がる力を少しだけ得た気がする。戦いは終わっていないが、心は確かに前を向き始めていた。


だが、その平和は、ほんの束の間だった。


「今すぐここから逃げろ!!」

別の一等兵の声が、鋭く水を割った。叫びは反射的に全員の体を震わせる。


反応する間もなく、視界の片隅で巨大な影が落ちた。砂煙が一斉に巻き上がり、水の色が瞬間的に変わる。地鳴りにも似た振動が、足先から腹へと伝わった。


「くっ……!」リンネットが即座に立ち上がり、刃を構える。仲間たちも一斉に散開するが、その表情には前とは違う、戦慄が滲む。


影はただ大きいだけではない。迫り来る圧の種類が、これまでとは違った。七人の間に、急激な緊張の波が走る。視界の中に、ただ一つだけ確かな事実が残った――これは、さっきのBクラスとは違う何かだ。


そこで場面は切れる。砂煙が舞い、七人の呼吸だけが騒がしく波紋を作る。


海で、息をする。六話はどうでしたか!次回は突如として現れた謎の影……その影は主人公達を絶望させた!って感じです!もし面白いと感じたら感想と評価をいただけると励みになります!

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