束の間の休日、嵐の前
毎日投稿するつもりが遅れてしまいました!でもいい出来だと思います!海で、息をする。四話目です!
朝が来るより早く、目が覚めた気がした。団員専用寮の薄い壁は、眠っている隣室の足音も遠くに聞こえるくらいだ。ベッドの端でごろりと体を反転させ、俺は天井をぼんやり見ながら思った——「まだ動けるのか?」と。
入隊2日目、朝の自分は正直に言ってクタクタだった。今日は一日に二回の仕事を入れられていた。午前中に小さな討伐、午後に護衛。どっちも初めての経験ってほどではないが、やっぱり肉体も神経も削られる。討伐のときは刀を振る筋肉が悲鳴を上げ、護衛ではずっと緊張していたから肩が固まってる。寝起きの体にそれらの疲れがずっしりと残っているのがわかる。
だけど、寮の机の上に置かれた小さなメモが目に入った瞬間、ちょっとだけ顔が緩んだ。リンネットの字だ。丸くて読みやすく、どこか人懐こい字。大きく「今日はあなたのための日」と一行書かれてあって、その下に四つの項目が短く並んでいる。温泉。魚の煮込み屋。夕方にサンゴの森で缶コーヒーを飲みながらまったり。どれも無駄がない。無駄がないから良い。
「新人は休め」——メモの片隅に小さくそう書かれているのを見て、俺は小さくつぶやいた。「それ、ありがたいっす先輩」とベッドの上でささやき、ふらふらと起き上がる。布団を蹴飛ばして、着替えは手早く済ませる。剣はロッカーに預ける。今日は戦う日じゃない。肌で分かる休養日だ。
朝の寮の空気は乾いていて、洗面所の鏡に映る自分の顔は知らぬ間に大人びていた。とはいえ、鏡の前で変な笑い方をしてしまう自分がいる。こういうとき、やっぱり人間って単純に嬉しいと顔に出るんだな、と思う。武器ケースの鍵をロッカーに押し込み、ポケットに必要最低限の金を突っ込み、バイクの鍵を握る。今日は自由だ——たったそれだけで心の荷が軽くなる。
港までは、寮からバイクで滑る。朝の空気が顔を切ると、いつもより世界の色が少し鮮やかに見える。バイクの振動が体の疲れを小刻みに揺さぶって、いい感じに血が巡る気がした。俺はアクセルを軽く踏んで、潮の匂いを肺一杯に入れた。昨日の緊張も、今朝の疲れも、全部いったん流してしまえという気分だった。
温泉は入り口からいい雰囲気だ。木の看板が波風に蝕まれた感じで、それが逆に居心地の良さを出している。受付でタオルを受け取り、慣れない手つきで脱衣所のロッカーに服を突っ込む。寮のシャワーとは違う。温泉は勝手が違う。共同の湯船に浸かること自体が礼儀であり、言葉はいらない。その沈黙が、妙に落ち着く。
湯に浸かると、筋肉がだらりと解けた。剣を振っていたときの肩の詰まり、護衛中に張り詰めていた首筋の緊張、すべてがふわっと溶けていく。隣で目を閉じている人の呼吸音、子供のはしゃぎ声、老人ののんびりしたため息——湯は声を和らげ、表情を緩める。温泉って本当に「そのままの人」を取り戻す場所だと思う。ここでは上下も肩書きも薄れて、ただ疲れた体を休める人間が並ぶだけだ。
俺は湯の縁に肘をついて空を見上げる。海の青が透けて見え、朝陽が水面をきらきらと跳ね返す。気持ちがすーっと軽くなる。今日一日でやり終えたことを反芻して、つい笑ってしまう。「俺、よくやったな」って、たまには自分で自分を褒めてもいいと思う。リンネットのメモを思い出し、ふと感謝を口に出す。「先輩、これ作戦成功です」誰とも合図していないのに、俺の小さな声は湯気に消えた。
湯上がりに浴室の縁に腰掛け、タオルで水滴を拭きながら、ふと脱衣所の隅に置いてある冊子が目に入った。だが、そっとそれを無視して自分のことだけに集中する。設定の説明とか難しい話は今は要らない。今日は飯と景色と缶コーヒーが必要だ。俺はバイクのキーを握り、港へと戻る足取りを軽くした。
靴を履き、外に出る。朝の光はもうやんわりと強くなっている。港へ向かう道すがら、商店街の準備をしている人たちや子供たちの賑わいが目に入る。さて、次は煮込み屋だ。腹の奥が小さく唸った。戦闘で削れた腹には、今は栄養と旨いものが必要だ。俺は胸のポケットの小銭を確かめると、自然と足取りが速くなる。
【水に関する基礎設定】
・HmO₂(特殊水)とH₂O(通常の水)は性質上、完全に分離する。
・両者は混ざらず、接触しても混合現象は起きない。
・生活用水(飲用・風呂・温泉・水道)はH₂Oが供給される。200年前と同様の使用が可能。
・HmO₂は海中の大部分を占め、海上航行や生態に特異な影響を与える。
湯気に包まれてふわふわになった身体を引きずるようにして、俺は温泉施設の外へ出た。朝の光が塩の匂いを黄金に染める。肌に残る湯のぬくもりが心地よくて、思わず深呼吸。ああ、今日ここに来てよかった──そう素直に思う。
メモに書かれていた店の場所は港の近くだ。看板に小さく「鰤の海藻たっぷり煮」と書いてあるのがリンネットの字で目に浮かぶ。あの字で勧められたなら間違いない。俺は鼻の下を伸ばして、のんびりと足を向ける。
ところが着いてみると、行列が出来ていた。思わず「えっ」と小さく声が出る。平日の昼間だし、そんなに混むかな、と眉をしかめると、並んでいる人たちの顔ぶれは地元の人も観光風の人も混ざっている。看板の奥からは、旨そうな匂いがじわじわ漏れてくる。列の先頭で、店の女将さんが「初めての人?」と聞くので「はい」と答えると、「じゃあちょっと待ってね」とにっこりされる。なんだか背筋が伸びる。
「まぁ、休日だし時間あるしな……」と自分に言い訳しながら列に並ぶ。腹は鳴るし、まだ湯上がりの余韻でぽやんとしてるし、でも並んでいる間に交わされる小声の会話や、厨房から聞こえる鍋の音が妙に心地よい。隣に並んだおっさん(漁師っぽい)と雑談して、「ここの煮込みは昔から評判だ」と聞くと期待値がぐんと上がる。列は進む。俺は手をポケットに突っ込み、つまらない冗談を頭の中で作っては消す。これが休日というやつか。
順番が回ってきて、カウンター越しにメモを見せて「鯖の海藻たっぷり煮で」と言うと、女将さんがにこやかに「鰤の海藻たっぷり煮だね。お任せ」と返してくれる。注文が通り、番号札を受け取って店の外のベンチへ。そこからが待ち時間の醍醐味だ。温泉でふにゃっとした頭が、空腹という単純な欲求でキリッとするのを感じる。
30分ほど待っただろうか。厨房の手際の音がリズムになって、湯気と煮込みの匂いが港の風に混ざる。見慣れた匂いではないが、どこか懐かしく暖かい。ようやく番号が呼ばれ、俺は小走りでカウンターへ戻る。出てきた器を覗き込んだ瞬間、目が細くなる。艶やかな鰤の切り身がたっぷり、周囲には海藻がたっぷりと絡まり、深い琥珀色の出汁が表面を光らせている。湯気の向こうからは磯の香りと甘い出汁の匂いが同時に鼻を突く。
「うわっ」と小さく声が出る。スプーンを手に取って、一口目をゆっくりと含むと、出汁の旨味が体にすーっと染み渡る。鰤は柔らかく、身がほろほろと崩れる。海藻の旨味と磯の香りが追いかけてきて、思わず目を閉じる。並んでよかった。本気でそう思った。湯上がりの体にこれ以上の贅沢はない。俺は無口になって夢中で食べる。周りの雑音はいつの間にかフェードアウトして、口の中だけが世界になった。
完食したとき、俺の腹は満たされ、顔には自然な笑みが戻っていた。店を出ると、港の通りはいつもより穏やかに見える。リンネットのメモは小さな地図のように、今日の行程を静かに導いてくれた。俺はポケットから煙草でも取り出したい気分になったが、煙は苦手なので缶コーヒーにしようと決める。
コンビニに寄って、缶コーヒーを二缶買う。一本は今、この瞬間用。もう一本は帰りのための保険だ。バイクにまたがり、エンジンの振動を心地よく感じながら、南西へと舵を切る。アトランティスの喧騒を離れて、サンゴの森へ向かう道は潮の匂いが強くなる。海面の色が少しずつ深くなり、サンゴの群生が遠目に見え始めると、自然と肩の力が抜けていく。
サンゴの森につくと、そこはまさに「海の公園」だった。光がサンゴの間を差し込み、色とりどりの小魚が舞っている。潮流に揺れる花のようなサンゴが、季節の花見のように色を見せている。俺はバイクを浅瀬の脇に停め、少し歩いて視界の開けた高根の上に腰を下ろす。手にした缶コーヒーのプルトップを開けると、炭酸ではないのになぜか軽く弾けるような音がして、温かい缶の表面が掌に馴染む。
一口飲むと、苦味の中に疲れが溶けていくような感覚がする。目を閉じて海の色を眺める。サンゴが風に揺れるように揺れ、魚たちが縦横無尽に舞う。心臓の鼓動が、さっきまでの緊張よりもずっとゆったりしていることに気づく。さっきまでの「クタクタ」は、知らぬ間に消え去っていた。体が軽く、頭が澄んでいる。
俺は静かに缶を掲げるような気持ちで、空にではなく、サンゴの森に向かって小さく「ありがとう」と呟いた。言葉は空気に溶け、海藻の葉先が光に反射する。リンネットのメモを思い出すと、彼女が笑っている顔がふっと浮かんだ。目の端が熱くなるのを感じて、すぐに目を逸らす。こんなところで感傷に浸るのが少し恥ずかしかったけど、でも本当に救われたのは事実だ。
缶コーヒーを飲み干し、もう一度深呼吸をする。サンゴの森は何も言わない。ただ、そこにあるだけで十分だ。俺は短く息をついて、ポケットに入れたメモをそっと撫でる。リンネットには直接「ありがとう」とは言ってない。だけど、この静かな一瞬は、彼女への感謝で満ちている。
休日はここで終わる。心の中はじんわりと温かくて、帰り道の波音もどこか優しく聞こえる。入隊2日目の俺は、少しだけ強くなった気がした。刃を握るとき、今よりもう少し落ち着けそうな自分を見つけた気がする。明日はまた仕事だ。だけど今日は、ちゃんと休めた。
朝の基地はいつもより慌ただしかった。指令書の画面が瞬き、任務が次々と降ってくる。俺は簡単に朝食をかき込み、報告端末へ直行した。護衛要請だ。近隣の村へ運ぶ重要医療品の車列護衛——行き先も、内容も、重要度も明確だ。係員の顔は真剣で、台詞に重みがある。
「潮斗、これに入ってくれ。急遽編成組んだ。リーダーは坂本一等兵、そっちで合流して」
「了解です」俺は敬礼気味に答えた。入隊三日目の俺にとって、こうした現場はまだぎこちないが、やる気だけは人一倍だ。
基地の正門で指定の四人と合流する。彼らは既に車両の点検を終えていて、顔つきは仕事モードだ。坂本一等兵は肩幅が広く、視線が鋭い。ダニエル三等兵は少し細面で、動きが素早い。後部の車には松田とクロエが詰めている。松田は物静かな二等兵、クロエは表情が固くて強そうな女兵士だ。全員、俺に向かって敬礼をしてくれる。俺はまだ公式に「仲間」になったばかりだ。名前を名乗り、敬語で挨拶する。
「潮斗です。よろしくお願いします」
「よろしく頼む、潮斗。無理すんなよ」坂本が一言。言い方は優しいが、その眼差しには責任の重さがある。俺はその重みを胸に押し込んだ。
車二台に分かれて、医療品満載のトラックを先導する。前の車(先導車)は坂本とダニエル、後ろの車(追従車)は松田、クロエ、そして俺だ。トラックの運転手は緊張した面持ちで運転席に座り、助手席には積荷の証明書が置かれている。箱の中には、村の命を守る薬や注射器、処方箋に書かれた必須品が詰められていると聞いた。もしこれが奪われれば、村に大きな被害が出る。だからこそ、俺は軽口を叩く余裕などない。
道は一本道だ。車列は慎重に進む。俺はシートに深く座り、外の景色を流し見する。アトランティスの外縁を抜けると、次第に地形は入り組み、崖や浅瀬、細い入り江が多くなる。海と陸が入り混じるこの道は、護衛には向かない場所だと頭の片隅で理解する。だからこそ、護衛任務はいつだって気が重い。
二時間ほど車を走らせると、風景はいつの間にか岩礁と小さな岬が林立する海域に変わる。右手の崖の上で、岩が切り立っているのが見える。景色は静かだ——だが静けさはいつも疑わしい。坂本が無線を小さく叩き、「前方、注意」と低く言う。瞬きする間に、空気が変わった。
崖の上から、エンジン音が降ってきた。最初は遠く、次第にその音は砂利を踏むように近づく。俺は反射的に顔を上げると、黒い影が空を切るように現れた。小型の二人乗りの浮航艇だ。次にもう一艇、次々と。崖の縁から数だか、斜面を滑るように降りてくる艦影が、複数見える。機動性に特化した小型艇。海賊だ——その瞬間、俺の指先に冷たい何かが走る。
【船舶の定義】
・本世界における「船」は主に浮航艇を指し、水面やHmO₂層の流れを利用して浮遊・航行する。
・魚類のHmO₂反応性を読み取る感応器を用い、特定の水層を「滑走」することで高度な機動を得る。
・大型の交易船は積載量が大きいが機動性に欠け、小型艇は機動力を武器に狭い水路や崖地帯で奇襲を行う。
・TWC・民間・海賊のいずれも浮航艇を運用するが、用途と改造は各勢力で異なる。
海賊の船は崖を勢いよく滑り降り、小さな湾へと一斉に飛び込んでいく。形は鋭く、機首に小さな感応アンテナが複数並んでいる。これらは魚の反応を読み取り、最適な航路を瞬時に取るための装置だろう。彼らの動きはまるで群れを成す魚のようで、目にも止まらぬ速さでトラックに接近してくる。
「懸かれェエ!」甲高い声がひとつ、崖の上から叫ばれた。それが合図になり、海賊達は小舟へ飛び移って一斉に崖を滑り降り、飛沫を蹴立てながらトラック目がけて突入してきた。トラックの運転手以外、全員が車から降りて戦闘態勢に入る。俺も瞬時にシートベルトを外して車外に飛び降り、刃を取り出す。手が震える。けれど、震えは悪いものじゃない。やるしかないという実感が、筋肉を固める。
小舟は数で勝る。狭い水路を縫うように飛び回り、トラックの周囲で投げ縄のように触手を投げる者、甲板から飛び移って積荷に手をかける者、甲高い笑い声を上げる者——海賊たちは手際よく、そして残酷に動く。俺は戦い慣れている。と、ふと自分の中の妙な自負が顔を出す。先日の討伐で覚えた体の動きが混じって、無意識に呼吸を合わせていた。
ダニエルが右に回り込み、松田とクロエが後方の索敵を固める。坂本は中距離で指示を出しつつ、機関銃を構える。俺はトラックの側面で刃を腰に当て、状況を見極める。海賊の一人が甲板に飛び移り、箱の一つを引き抜く。箱の中身が医療品であることを知っている。重さが、俺の胸を締める。
戦闘は瞬く間に展開し、相手は翻弄しながら何度もこちらの防護をかいくぐった。狭さを逆手に取られ、俺たちは徐々に押し返される。小型艇の速さは予想以上だ。屋根を伝うような機動で、こちらの正面を外し、荷台の背後へと回り込む。そこにいた海賊が勢いよく箱を奪って跳び移ると、浮航艇は再び走り出した。
「止めろ!荷物を――」坂本が叫ぶが、砂煙と水飛沫の中で声がかき消される。クロエが一人を撃ち倒すが、既に別の者が箱を抱えて船に乗り込む。数が合わない。相手は撤退のルートを確保している。戦況が一瞬にして不利に傾くのがわかった。
「あー、もうダメだ。諦めよう」誰かが言う。言葉は重い。判断としては合理的だ。ここで無理をして全滅すれば、本当に何も残らない。村に残る命を守るという元の目的から逸れてしまう。松田の声は静かで現実的だ。「残った物資を守って撤退だ。無理に追えば全員が死ぬ」
だが、箱の中身を思うと、俺はその言葉に賛同できない。医療品――子どもや老人の命に直結する物資だ。誰かの一瞬のために諦められるなら、それは……。俺の中の何かがぐっと熱くなる。三日目の新人だから、指示を無視する権利なんてない。だが、血の中の何かがそれを押し流していた。
「俺、行きます」声が出たのは自分でも驚きだった。周囲の視線が一瞬こちらを向く。坂本が振り返り「潮斗、馬鹿言うな! 待て!」と叫ぶが、その手は強く俺を止められない。ダニエルが必死に腕を掴もうとしたが、振りほどいて俺は近くに停めてあった小型艇に駆け寄る。幸運にも、ちょうど海賊の一隻が転覆しており、そのデッキに飛び乗ることができる。俺は咄嗟に船を奪ってエンジンをかける。免許――小型船の免許を取っておいてよかった、というのは今は余計な自慢だ。
「潮斗、戻れ!」松田が叫ぶ。俺は振り返らずに舵をきる。波を蹴立て、狭い水路を縫って飛び出す。風が顔を叩く。後ろの声はだんだんと遠ざかる。俺の胸には恐怖と決意が同居している。追跡の速度は高まり、黒い影が前方に点々と見える。奴らは速度を活かして逃げるつもりだ。だが、逃がすわけにはいかない。
小舟は幾つか海峡を抜け、ほどなく遠くの入り江で船影が固まるのが見えた。追いつくと、想像を超えた光景が目に入る。海賊の一隻が大きく揺れ、甲板で悲鳴が上がっている。何かが船体を叩きつけている――黒く大きな影。レヴィアタンだ。Bクラス程度だと後で聞いたが、その時はただ巨大で恐ろしい生き物が船を抱えて揺らしているだけに見えた。
海賊たちは一部が船から海へ飛び、ある者は必死に引き上げられようとするが、何人かは海中に絡め取られている。俺は舵を切って全速で近づき、振り落とされた海賊が必死に手を伸ばすのを見た。野郎どもは悪党だ。奪った物資が彼らの懐に入れば、村の誰かが死ぬ。だけど、目の前で人が食われるのを見て何もしないわけにはいかない。
俺はバイクで鍛えた全身の動きを引き出し、甲板に飛び移って海賊に手を伸ばす。刃を振りかざしてレヴィアタンの鱗の隙間を狙う。だが、大型の生き物は予想以上に強く、尾が一閃すれば体ごと吹き飛ばされかねない。その瞬間、視界の端で一条の影が横切った。巨大な一撃が水面を割り、白い衝撃が全身を叩く。次の瞬間、レヴィアタンは動きを止めた。
その場に立っていたのは――圧倒的な存在感の女だった。筋骨たくましく、それでいて動きは職人のように無駄がない。肩に担いだ武器は巨大で、見た瞬間にそれがただの剣ではないと分かる。刃の内部に太い円筒が埋め込まれた構造。武器を見れば、その一撃がただの力任せでないことが理解できる。女は立ったまま海賊の方を見回し、その一人に向けて短く言った。
「姉貴!」海賊の一人が駆け寄り、女に抱きつく。女は一瞬だけ顔をほころばせ、それからこちらを見た。その視線が、俺の胸を貫く。瞳の奥に冷たい光がある。女はじっと俺を見て、短く言った。
「なんだ? お前は……」
そこで場面は止まった。息が詰まるほどに近い。俺は海の風を受けながら、刃の冷たさを手のひらに感じ、自分が何をしたのかを改めて知る。助けるつもりで追ってきたはずが、思いもよらぬ人物の前に立っていた。女の横顔に、一瞬だけ淡い驚きが走ったように見えた。
海で、息をする。四話どうでしたか!もし面白いと思ったら感想と評価をいただけると励みになります!
次回は!
突如として現れた謎の“女性”。
その一撃はレヴィアタンを沈め、海賊たちは彼女を「姉貴」と呼んだ——。
敵か、味方か。
そして彼女の正体は、まさかの海賊団のボス!?




