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第二十二話 計算された状況

海で、息をする。二十二話です!今回は掘削機の座標が外部から改ざんされていたことが判明し、拠点は何者かの罠にかかっていたと発覚して人狼のような状況になります!

【前回のあらすじ】

山岳地帯での激戦を終え、海賊部隊を退けた護衛班。

進路は再び開かれ、任務は続行となる。だが、勝利の実感はどこにもなかった。

守れた命と守れなかった未来。

隣に座る長谷川 隼人は、何も言わずに肩を軽く叩く。

それだけで、わずかに呼吸が整う。無線越しに聞こえるアルティ・チュードの声は静かだった。


「全部は守れねぇ。だが、今守れるもんは掴んどけ」


その言葉は命令ではなく、覚悟の共有だった。

任務はまだ終わらない。そして潮斗は知る。守るということは、強くなることではない。恐怖と共に進むことだと。

「お前ら、目的地に着いたぞ」


アルティの声と共に車両が止まった。視界の先には、すでに設営された簡易拠点──複数のテントと資材、簡易アンテナ。事前調査班が築いた前線だ。


「ここは事前調査の時に建てられたものだ。物資の補充をしておけ」


テントの一つから兵士が出てきて敬礼する。「ご苦労様です」と返すアルティは、短く礼を返した。少し離れた場所では「オーライ!オーライ!」と作業員が掘削機を搬入している。重機の振動が地面を伝い、低い音が拠点に響いた。


その横で、潮斗と長谷川 隼人は簡易テーブルに腰を下ろし、配給の缶詰を開けていた。


「この鯖缶、地味に美味くないか?」と隼人がスプーンで身をすくいながら言う。


「気を抜きすぎだ……いつ襲われるか――」と


言いかけた潮斗を、隼人が肩をすくめて遮る。


「逆だ。気を抜ける時は抜いて疲れを取らねぇと。張りっぱなしだと判断が鈍る」


缶詰を口に運びながら淡々と返す隼人に、潮斗は少しだけ疑いを挟みながらも鯖を口に運んだ。塩気と油の味が、妙に現実感を取り戻させる。


ガガガガガ――


巨大な掘削機が岩盤を砕く音が拠点に響き渡る。

振動が足元から伝わり、細かな砂がぱらぱらと落ちる。


作業は順調に見える。

誰もが“日常”を装っているように見えた。


その少し離れた場所で、長谷川 隼人は崖崩れで傷ついた車体に触れていた。


削れた装甲。

鋭く抉れた側面。


指でなぞりながら、隼人は眉をひそめる。


(あの落石の爆破地点、あまりにも正確すぎる……)


岩が崩れた位置はちょうど車列の中央。

先頭でも最後尾でもない。


(まるで通る道も時間も知られてるみてぇだ)


偶然にしては出来すぎている。


遠くで掘削機が火花を散らす。

ガガガガガ――

その規則的な音が、逆に不安を際立たせた。


「どうした、そんな顔して」


背後から声がした。振り返ると、潮斗が立っていた。


「いや……ちょっとな」


隼人は車体から手を離す。


「潮斗、お前さ。俺らの出発時間って、どこまで共有されてたと思う?」


風が一瞬止む。遠くで誰かが笑っているが、その笑いは薄かった。


拠点は動いている。作業も進んでいる。

それでも――隼人の胸に残る違和感は消えなかった。


「出発時間は本部と任務に参加する全員に知らせれてるはずだけど……どうかしたのか?」


潮斗がそう言うと、隼人は一瞬だけ視線を落とした。掘削機の振動が、また地面を揺らす。


「……いや、なんでもない。少し気にし過ぎたみてぇだ」


軽く笑ってみせる。


「そうか……」


潮斗はそれ以上踏み込まなかった。だが隼人はもう一度、車体の傷を見る。偶然で片付けるには出来すぎている。


(本当に気にし過ぎか……?)


そのとき、ガガガガガ――という掘削音が不自然に途切れた。


「ん?」


潮斗が顔を上げる。作業員の声が止まり、空気が一瞬だけ重くなる。


次の瞬間、地面の奥から低く唸るような振動が伝わった。


ドン――ッ。


地中から噴き上がる水流と瓦礫。


「総員、戦闘態勢!」


アルティの怒号が拠点を裂いた。


掘削地点の岩盤が裂け、そこから姿を現したのは、装甲のような外殻を持つ中型のレヴィアタンだった。


だが、隼人の目は一瞬だけ別の方向を見ていた。掘削地点――まるで、そこに“いる”と分かっていたかのような正確な位置。


偶然か。それとも――。


「隼人!」


潮斗の声で我に返る。隼人は盾を構え、口元を引き締めた。


「……後でだ」


違和感は胸に押し込めたまま、二人は駆け出す。戦闘が始まった。


「何処から!」


作業員の声が裏返る。


次の瞬間、地面を割って現れたレヴィアタンの顎が跳ね上がる。鋭い牙が、目の前の作業員へと振り下ろされた。


「っらぁ!」


隼人が地面を蹴る。盾を構え、作業員の前に滑り込む。


ガギィン!!


金属と牙がぶつかる衝撃。火花と衝撃波が弾ける。


「下がれ!」


隼人が押し返したその瞬間、背後から銃撃と斬撃が重なった。


「左のヒレを落とせ!」「了解!」


数秒の連携。装甲を砕かれたレヴィアタンは体勢を崩し、最後は至近距離の一撃で沈黙した。


拠点に静寂が戻る。荒い呼吸。粉塵の中で、誰かが「助かった…」と呟く。隼人は盾を下ろし、軽く息を吐いた。


「大丈夫か」


守った作業員は何度も頷く。


その横で、潮斗は地面を見つめていた。


「……穴があったのか?」


レヴィアタンが出てきた場所。そこには、掘削とは無関係の“縦穴”が開いている。自然に出来たにしては、綺麗すぎる断面。


しかも――掘削地点から、わずか数メートル。偶然、掘削機が真上を掘っていたのか。


潮斗はしゃがみ込み、縁を触れる。縁の岩肌は、内側から削られたように滑らかだった。隼人も近づく。二人の視線が交差する。言葉は交わさない。だが同じことを思っている。


(出来すぎてる)


そのとき、背後から低い声。


「掘削データ、誰が最終確認した?」


振り向くと、アルティが穴を見下ろしていた。その目は、戦闘後とは思えないほど冷えている。


拠点のざわめきが、どこか遠くに感じられた。戦闘は終わった。だが――“偶然”は、これで二度目だった。


「……掘削機で穴を開けて、その中にレヴィアタンを入れたって言いたいのか?」


作業員の一人が、半ば抗議のように言う。周囲がざわりと揺れる。


次の瞬間――


「掘削データは!! 誰が最後に確認した!!」


アルティ・チュードの怒号が拠点を震わせた。空気が凍り、誰も目を合わせられない。


「……誰も確認してないのか?」


低く、押し殺した声が続く。


「は、はい……この掘削機自体、昨日アトランティスから持ち出した物ですので……掘削データ自体、まだ……」


言葉は尻すぼみに消えた。潮斗は穴を見下ろす。自然発生ではない。少なくとも、ただの偶然ではない。


隣で長谷川 隼人が奥歯を噛む。


(やっぱりな……)


アルティがゆっくりと周囲を見渡す。


「つまり、この機体がどの地点を掘削する設定だったか、誰も把握していないということだな」


沈黙。掘削機のエンジン音だけが虚しく唸る。アルティは一歩、穴の縁へ歩み寄る。


「この座標は、事前調査のマップには存在しない」


その一言で空気が変わった。潮斗の背筋に冷たい違和感が走る。事前調査で建てられた拠点。そこへ運び込まれた“未確認データの掘削機”。そして、正確すぎる出現地点。


偶然が三つ重なれば、それはもはや偶然ではない。


「……内部か?」


誰かが小さく呟く。誰も否定しなかった。


アルティは振り返る。


「掘削機の制御ログを今すぐ洗い出せ。外部通信履歴も全て確認する」


短く、鋭い命令だ。


「お前ら」


視線が戦闘員全員へ向く。


「周辺警戒を強化しろ。これは“単発”とは限らん」


隼人が苦笑を漏らす。


「やっぱり休憩どころじゃねぇな」


潮斗は静かに頷いた。拠点はまだ動いている。だがその中心には、目に見えない亀裂が入っていた。


敵は地中から現れた。だが本当に怖いのは――地中だけなのか。


「ハッキング……?」


制御ログを見ていた作業員の声が震えた。端末に並ぶ座標データが、一つずつ照合されていく。


「事前調査で決められた座標と一致するものはありません……」


別の作業員が顔色を失くして告げると、拠点のざわめきが一瞬で静まった。偶然の範囲を越えた“何か”の存在が、みんなの胸に重くのしかかる。


「クソッタレが……」


アルティの低い吐息に混じった呟きが、ただの怒りではなく危機感を含んでいることを誰もが感じ取った。画面の向こうで、座標が書き換えられている。しかも、事前調査のマップに存在しない地点へ――。


「そんなこと……可能なんですか?」


「可能にした奴がいるということだ」


潮斗はゆっくりと周囲を見渡した。拠点、掘削機、仲間たち。どこかに、穴よりも深い“侵入”がある。隣で長谷川 隼人が奥歯を噛み、短く舌打ちする。


「落石の爆破地点も、今回の座標も……全部、通るルートと時間を知ってなきゃ無理だ」


全員がその意味を呑み込む。内通か、内部そのものの犯行か——選択肢はどれも暗く重い。


「通信経路を逆探知しろ。痕跡は必ず残る」


アルティ・チュードが端末を掴む。だが報告はさらに冷たかった。


「ですが、すでにログの一部が削除されています……」


削除。計画的。用意周到。空気がさらに冷える。


アルティはゆっくり息を吐いた。


「……これは宣戦布告だ」


その断言は、静かな覚悟を含んでいた。地中からの襲撃は囮に過ぎない。本命は“信頼の崩壊”だ。


潮斗は拳を固く握り、低く言った。「次も来る……」


「来る」


アルティの返事は即座かつ冷静だった。「しかも、こちらが混乱した隙を狙ってだ」


外も内も敵に回る恐れを胸に、拠点は戦闘態勢へと引き締まっていった。


「暗号通信の痕跡があります……ですが、今ここでこのような暗号を解析できる人も設備もありません……」


端末を握る作業員の声が乾いている。画面に表示されたログの一部は、明らかに通常の制御信号ではなかった。


「誰か詳しい奴はいねぇのか?!」


アルティの声が鋭く飛ぶ。だが周囲にいるのは武装班と作業員だけで、掘削機の内部を開けている整備士二人が、ゆっくりと顔を上げるだけだった。


「何とかしてできないのか?」


アルティの視線が突き刺さる。整備士の一人が端末を受け取り、画面を凝視する。


「……完全な復号は無理です。ただ、通信形式の特定と発信元の推定くらいなら……」


「やれ」


即答が返る。整備士は頷き、機体に直接ケーブルを接続した。掘削機の内部モニターが点灯し、静かな電子音が場を満たす。


潮斗はその様子を見つめながら、地面の微かな振動を感じ取っていた。まだ“下”は静かだ。だが、いつ崩れてもおかしくないという緊張感が拠点を包んでいる。


隣の隼人が小声で呟く。


「これ、時間稼ぎだったら最悪だぞ」


「分かってる」


短く返すアルティ。整備士の指が高速で動き、数分がやけに長く感じられた。


やがて、整備士が口を開く。


「……通信は中継を複数回挟んでいます」


「追えるのか?」


「最終到達点は偽装されています。ただ……」


整備士の額に汗がにじむ。


「発信開始時刻が、拠点設営の三時間前です」


空気が一瞬止まる。まだ誰もいないはずの時間に、信号は動き出していた。


「……内部じゃない」


潮斗が静かに言う。「最初から、ここを狙ってた」


アルティの目が細くなる。


「座標は後から上書きされた。だが“ここに掘削機が来る”こと自体は事前に把握されていた」


つまり――輸送経路、搬入スケジュール、作戦開始時刻。すべて読まれている。


その時、整備士が低く言った。


「通信が……まだ微弱に生きています」


全員が息を吞む。


「何だと?」


「定期的に短いパケットを送受信しています……位置ビーコンのような……」


アルティの顔から怒りが消え、代わりに冷たい判断が浮かぶ。


「掘削機は“穴を掘るため”だけじゃない」


潮斗が続ける。


「……拠点の位置を知らせるためか」


その瞬間、遠方で重い衝撃音が響いた。

一発。また一発。地面全体が震える。


整備士が叫ぶ。


「ビーコンの信号、強くなっています!」


アルティが即座に振り向き、命令を下す。


「戦闘配置!!」


これは事故ではない。これは罠だ。そして――本命が、来る。


ゴゴゴゴ……と重低音が海中を震わせる。


黒鉄の船体が濁流を裂いて現れた。


「本命が来やがったか!」


アルティはハンマーを握り直す。船体の側面には歪んだ紋章が刻まれている。


「あの海賊は……ラエナンジか?!」


弓を構えた一等兵の声が張り上げる。


【ラエナンジ】

略奪、密輸、違法兵器、そしてレヴィアタンの闇取引で名を馳せる海賊団だ。彼らの影は、現地で噂される最も危険なもののひとつ。


船のカーゴドアが開く。長方形の鉄箱が次々と投下される。


「爆弾か?!離れろ!!」


アルティの声が飛ぶ。箱が地面に激突した瞬間――バゴォン!!と大きな音。だが噴き上がったのは濃い煙で、衝撃波ではなかった。煙の中から、何かが蠢く。


次の瞬間、小型のレヴィアタンが飛び出した。


「何?!」


潮斗が即座に前へ出る。一体を斬り伏せるが、背後から別の個体が襲いかかる。

長谷川 隼人が盾で弾き飛ばし、作業員の群れをかばう。


「クソッ……養殖かよ!」


箱の中には拘束具の破片が残されている。生きたまま輸送された個体――明らかに人の手が加わった“道具”だ。


甲板に一人、巨体が立っている。外套が揺れ、顔には笑みが広がる。


「あいつ……」


弓兵が歯を食いしばる。


「ラエナンジの副頭目、ヴァルドだ!」


その名を聞いた瞬間、場の空気がさらに重くなる。



海で、息をする。二十二話はどうでしたか?もし面白いと思ったら感想と評価をいただけると励みになります!

次回はヴァルドとアルティの一騎打ちです!

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