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第十九話 二重戦線

海で息をする。十九話です!今回は一気に混沌と化します!そして潮斗と隼人の二人の思いが一つになります。

【前回のあらすじ】

親友である隼人と同じ長期任務に配属された潮斗は隼人と喜びを分かちあった。任務の内容は北にある山岳地帯で、アロンダイトの素材となる希少な鉱石を採取する、大企業の採掘班の護衛と希少鉱石を詰んだ護送車の護衛、最低でも数日はかかる任務だった。そして准特等兵であるアルティ・チュードをリーダーに一等兵四名、准一等兵(主人公)一名、二等兵(隼人)五名、そして採掘班、十五名の大人数での任務が始まった。

「前方に大型レヴィアタンです!」


先頭車両の一等兵の声が無線越しに弾けた。


直後、同じ車両に乗るアルティ・チュードが即座に叫ぶ。


「よぉし!テメェら!最初の障害物だ!ぶっ壊せ!」


怒号に隣の一等兵が耳を押さえるほどだ。装甲車両のドアが次々と開き、TWCの戦闘員たちが地面に降り立つ。砂利を踏む音が一斉に鳴り、谷間に冷たい風が吹き抜けた。


岩陰から姿を現したのは、全長十数メートルの個体。岩肌のような外殻をまとい、異様に長い四肢を震わせる。黒く濁った瞳がこちらを捉えた瞬間――咆哮が落ちた。空気が震え、地面が共鳴する。砂煙を巻き上げながら、巨大な影が突進してきた。


「前衛、展開!」


二人の一等兵が前に出る。一人は膝をついて長身のスナイパーライフルを構え、引き金が乾いた破裂音を放った。弾丸は外殻の隙間を貫き、怪物が痛みに身をよじる。


その隙を突いて、もう一人が距離を詰め腰の刀を抜く。


「千切一華!」


踏み込みと同時に刃が閃く。最初は何も起きないかに見えたが、次の瞬間、個体の身体に無数の斬撃痕が浮かび上がり、鮮血が噴き出した。巨体が砂煙と共に崩れ落ちる。


「……Aクラス、討伐確認!」


声が響くが、アルティの顔は緩まない。


「気ぃ抜くな。デカい音出したぞ」


山岳地帯の入口が目前――その時だった。休む暇もなく轟音が谷を震わせる。


「なんだ?」


長谷川 隼人が反射的に上を見上げる。崖の中腹から黒煙が立ち上ると、ドゴォオオオッ!! 岩壁が内側から弾け、粉塵と共に巨大な影が躍り出た。


「お前ら! おかわりが来たぞ! 歓迎してやれ!」


アルティの怒号が響いた。


「二番前進!」


一等兵二名と潮斗が前へ出る。


「俺が援護する。その隙にお前らが叩け」

「はい!」


潮斗は走りながら個体を観察する。鱗はゴツゴツと堅く、頭部には平べったい硬質のコブがある。完全な防御特化タイプだ。


(硬い……正面突破は無理だ)


援護の一等兵が背丈ほどもある大弓を構える。弦が軋み、矢が一直線に飛び、脳天を直撃する。鈍い破砕音――頭のコブが砕け散り、怪物は大きく仰け反った。


「ギャァアアアッ!」


潮斗は一気に踏み込む。とどめを狙ったその瞬間、


「伏せろ!」


隣の一等兵が潮斗を押し倒し、覆い被さった。次の瞬間、ダダダダダダッ!! 銃声が谷を引き裂く。岩肌が弾け、火花が舞い、潮斗は腕で頭を守りながら体を縮める。


崖の上に複数の黒い影。粗野な笑い声が降り注ぐ。


「海賊か……邪魔な奴だな! テメェらそいつらもぶっ壊せ!」


アルティの命と同時に、ロープを伝って海賊たちが崖を降りてくる。中には護送車へ直行する者もいる。前方にはAクラス、上方には武装した略奪者。谷は銃声と咆哮で満たされる。


怯んでいた個体が再び体勢を立て直す。血に濡れた瞳が、潮斗を捉えた。


銃声が止み、谷に一瞬だけ静寂が戻った。


「う、うぅ……」


潮斗はゆっくりと身を起こす。耳鳴りがうるさく、視界が揺れる。掌を地面につけた瞬間、ぬるりとした感触が手に伝わった。


違和感。


掌を見る。


赤。


「……血が?!」


慌てて自分の身体をまさぐる。胸、腹、腕──どこにも弾痕はない。ならばこれは──。


「……ッ! 大丈夫ですか!」


隣を見ると、自分を庇ってくれた一等兵が膝をついて倒れていた。腹部から鮮血が溢れ、装備の隙間から赤黒い液が滴り落ちる。


「うっ……この程度、大丈夫だ……」


声は震え、呼吸は浅い。それでも先輩は潮斗を睨みつけるように見上げ、言葉を絞り出す。


「先にレヴィアタンを倒せ」


「ですが……!」


潮斗の視界の端で、負傷した先輩の血が砂を赤く染めてゆく。前方では、頭部を砕かれたはずのレヴィアタンが怒りに任せて暴れ、切り裂いた鱗の隙間から粘りのある血しぶきが舞う。上方では海賊が再編し、銃火が再び激しくなる。


「先輩命令だ……行け」


苦しそうだが、その瞳は揺れない。命令は簡潔で、残酷だ。


潮斗は一瞬立ちすくむ。血の匂いが鼻腔を刺し、心臓が速くなる。守るべきもの、助けるべき仲間、全体のために払うべき代償——思考がぶつかる。


だが躊躇は許されない。守るべきは全体だ。先輩の命令が、今は指針になる。


潮斗は歯を食いしばる。


「……はい」


深く息を吸い、立ち上がる。大剣を強く握り直すと、冷たい金属が掌に馴染む。血と砂、焼けた粉塵の匂いが肺を満たす。咆哮が耳に突き刺さり、鼓動が耳鳴りと混ざり合う。


これはもう“訓練”ではない。教本に載らない現実だ。生き残るか、誰かを守るか。選択の重さが、骨まで響く。


潮斗は地面を蹴った。砂が飛び、足音が谷に響く。大剣を構え、仲間のため、先輩の言葉のため、そして自分の覚悟のために──彼は走り出した。


場面は切り替わる。


「クソ!ぞろぞろと来やがって!」と隼人は叫び、盾を前に構えて銃弾を弾き返しながら前へと進んだ。盾の金属が弾丸を受けるたびに、鈍い衝撃が腕に伝わる。砂と鉄の匂い、焦げた火薬の臭いが鼻をつく。隼人の足元では、海賊の一人が横倒しになり、もう一人が血煙を上げて呻いている。


「潮斗は大丈夫か…」と隼人は短く呟き、射線の合間を縫って潮斗のいる方向へ視線を投げた。その瞬間、岩の影から跳び出した海賊が大きく振りかぶり、鋭い刃を振り下ろしてきた。


「何よそ見してぇんだァ!」


刃が襲いかかる。隼人の反応は速かった。


「うお!」


と叫び、咄嗟に盾を振り上げて防御する。金属同士が叩き合う甲高い音が耳を突き、振動が手首まで伝わる。盾を軸に身体をひねり、刃を弾き飛ばす。隼人の顔には真剣な緊張が刻まれていた。


(クソ、潮斗の様子見てぇのに見れねぇ……大丈夫かアイツ…)──頭の中にそんな焦燥がよぎる。視界の端で味方の姿を追いたいのに、目の前の敵を無視できない。数秒の遅れが命取りになることを隼人は知っている。


だが、その迷いを振り払うように、隼人は短く呟いた。


「信じられねぇ親友は親友じゃねぇよな……」


言葉に力を込めると、隼人は敵の腕を弾き飛ばし、隙をついて斬りかかった。その刀の刃が一閃し、海賊の身体を深く切り裂く。


「俺は信じるぞ!潮斗を!」


斬撃のあと、隼人の声は乾いた砂と火薬の空気に溶けていった。胸の奥にあるもの――友情と覚悟が、刃の動きに重みを与えている。隼人は次の標的へと体を預け、まだ遠くにいる潮斗へ想いを向けながら戦い続けた。


場面は再び切り替わる。


潮斗は大剣を振り下ろした。金属を叩きつけたような硬い衝撃が腕に返るが、刃は分厚い鱗を浅く削っただけだった。


「やっぱり固い……!」


目の前の個体は、まるで岩の塊のような装甲を全身に纏っている。頭部のコブは砕けているが、体躯は依然として健在だ。咆哮――次の瞬間、巨大な尾が空気を裂いて振り下ろされる。潮斗は地面を蹴り、紙一重で回避するも、着地と同時に尾へ斬りつける。


――硬い。刃が弾かれ、腕に鈍い衝撃が走る。


「クソ……!」


視界の端では銃撃の閃光が走り、味方が戦っている方向がちらりと見える。援護に向かおうと振り向くが、巨体の前脚が再び振り下ろされ、地面が抉られる。砂煙が舞い、逃げ場を塞ぐような連撃が続く。


(…大丈夫か、あいつら)


胸の中に不安がよぎるが、その思考を自ら断ち切る。


「本気で信じられるのが、親友だよな……」


次の突進を見切った潮斗は、一歩踏み込む。振り下ろされる前脚の軌道を最小限の動きで躱し、懐へ潜り込んで装甲の割れ目へ全力の一撃を叩き込む。衝撃が骨まで響いた。


「俺は信じるぞ!隼人!」


刃が深く食い込み、巨体がよろめく。互いに視線を交わすことはない。だが、背中を預け合うように、二人は同じ信念だけを後ろに立たせて戦っている──それが、今の二重戦線だった。

海で、息をする。十九話はどうでしたか?突如現れたレヴィアタン二体と武装した海賊!そして潮斗と隼人の親友としての信頼!もし面白いと思ったら感想と評価をいただけると励みになります!

次回は潮斗のレヴィアタンとの一騎打ち、隼人達の防衛が続きます!

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