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第十一話 嵐の前の祝杯

海で、息をする。十一話です!今回は久しぶりの休日で潮斗、美香、リンネットの三人で飲みに行きます!平和です!最後に美香のエピローグもあるので楽しみにしててください!

【前回のあらすじ】

二等兵に昇格した潮斗は、リンネット、美香二人と初任務へ向かった。初めての場所での仕事だったが、三人はレヴィアタンを倒し、無事に二等兵としての初任務を終わらせた。

今日は久しぶりの休日だった。潮の匂いがほんのり残る街の一角で、潮斗、美香、リンネットの三人は、潮斗の二等兵としての初任務が無事に終わったことを祝って居酒屋に集まった。


店の前で暖簾を見上げ、潮斗は少しだけ緊張した声を漏らす。

「……居酒屋なんて、初めてです」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ今日はいっぱい楽しまないとね!」

リンネットはいつものように明るく笑い、その場の空気をふっと和らげた。


「そうですね、リンネット先輩」

潮斗は少し肩の力を抜いて答える。


「居酒屋かぁ……私も久しぶりだな」


「先輩、あんまり飲まなそうな顔してますもんね」

美香がそう言って笑うと、リンネットは少しだけむっとした表情を見せた。


居酒屋の中は仕事帰りの客で賑わい、ところどころにTWC関係者の姿もある。リンネットが「三人で!」と声を上げると、店の人に案内されて席へ。三人が腰を下ろすと、まずはビールとつまみを頼んでしばらく待つ。やがて人数分のジョッキが運ばれてくると、リンネットはジョッキを掲げて潮斗の方を見た。


「じゃあ——潮斗くんの二等兵としての初任務が、無事に終わったことを祝って。それと……これからも一緒に戦う仲間に、乾杯!」


「乾杯!」


三つのジョッキが軽くぶつかり合い、暖かい音が弾ける。居酒屋のざわめきの中で、その音だけが少しだけ特別に響いた。


つまみを箸でつつきながら、潮斗はふと問いかける。

「リンネット先輩って、二等兵の時ってどんな感じだったんですか?」


リンネットは笑って目を細める。

「私も潮斗くんと同じ感じだったかなぁ。とにかく頑張って、頑張って、って感じよ」


美香が口を挟む。

「リンネット先輩って、二等兵の中でも中々の人だったらしいよ」


「それだったら美香だって二等兵の中でも上位でしょう」

リンネットはからかうように笑い、美香は照れくさそうに「…ッ、ぁありがとうございます…」と返す。さりげないやり取りから、三人の信頼がにじみ出る。


話題は自然と過去の任務へ向かう。潮斗が訊ねると、リンネットは素直に強さの裏側を語った。

「初めてCクラスと当たった時は、本当に怖かった。震えながら武器を握って、“これ本当に倒せるのかな”って思ったよ」

今の彼女からは想像できない弱さの記憶が、かえって説得力を持つ。


美香がしみじみ言う。

「でも、あの時リンネット先輩が前に出なかったら、私怪我してたと思う」


「それは美香がちゃんとついてきてくれたからだよ」

リンネットは優しく笑い返す。やがてリンネットは潮斗の顔を見据え、ぽつりと言う。

「だから今は、潮斗くんが前に出る番、かな?」


潮斗は目を瞬かせ、ジョッキをぎゅっと握り直す。

「……はい。頑張ります」


その後も杯は進んだ。意外にも潮斗は酒に強く、顔色は変わらなかったが、美香の頬は赤く色づき、言葉は次第に緩んでいく。


「んぅぅ……あの任務ぅ……」とつぶやき、酔った勢いで美香が指を潮斗に向ける。

「本当ならぁ……私とリンネット先輩が、カッコよく決めて……あのガキは囮役だったのにぃ……」


潮斗はぽかんと固まり、リンネットは少し笑いながらも潮斗を見る。リンネットが静かに言う。

「結果的に一番前で踏ん張ってたのは、潮斗くんだったでしょ?」


美香はぷいっと顔を背けるが、小さく呟く。

「……だから、ムカつくんだっての」


そのまま美香は力尽き、机に突っ伏して眠ってしまった。リンネットは優しく背中を撫でながら、「あらら……完全に酔っちゃったね」と目を細める。寝言のように「むぅ……せんぱい……」と漏れる声に、リンネットはさらに微笑んだ。


会計はリンネットが済ませ、三人は店を出る。美香はリンネットの肩に寄りかかり、潮斗は少し離れてその背を見守りながら歩く。居酒屋の喧騒が徐々に遠ざかり、夜の海風が静かに三人を包んだ。


——穏やかで、久しぶりの休日だった。


夜風は冷たく、酔いの熱をゆっくりと奪っていった。


リンネットは美香の体を支えながら歩き、潮斗はその少し後ろを、歩調を合わせるように進む。靴音だけが規則正しく路地に響いた。


「……ごめんね、潮斗くん」


不意に、リンネットが小さな声で言った。


「え?」


「美香、普段ああいうこと言わないでしょ」


振り返らずに、でも柔らかい声だった。


「……はい」


潮斗は少し考えてから頷く。


「でも、嫌ってるわけじゃないから。むしろ逆」


リンネットは苦笑した。


「自分より前に出られるの、あの子ちょっと苦手なんだよ」


潮斗の胸に、最初に美香と会った日のことがふっと蘇る。自分でも無我夢中だった、あの瞬間――あれがあったから今がある。


「……俺、出過ぎでしたか?」


「ううん」


リンネットは即答した。


「必要だった。だから結果として、誰も大きな怪我をしなかった」


そこで一度、足を止める。声のトーンが少し落ちた。


「でもね」


息を吸って、言葉を続ける。


「前に出るってことは、守られる側から、守る側になるってことでもある。

それ、ちゃんと分かってる?」


潮斗は立ち止まり、拳をぎゅっと握る。


「……はい。怖いですけど……逃げたくはないです」


その返事を聞くと、リンネットは静かに笑った。


「うん。なら大丈夫。ちゃんと、兵士になってる顔だよ」


その時、リンネットの肩に寄りかかっていた美香が、もぞりと動いた。寝ぼけた声が漏れる。


「……潮斗……」


二人は思わず息を止める。


「前に……出るなって……言いたいわけじゃ……」


美香の声は掠れていて、言葉は続かなかった。


「ただ……死にそうな顔で立たれると……ムカつく……」


それだけ呟くと、また静かに寝息を立て始める。


沈黙が落ちる。数秒後、リンネットが小さく吹き出した。


「……ね? 分かりにくいけど、あの子なりのエール」


潮斗は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「……はい。ちゃんと、受け取ります」


三人の影が、街灯の下でゆっくりと伸びていく。明日からまた、海の中の戦場が待っている。けれど今夜だけは——


確かに、仲間だった。


【美香、エピローグ】

翌日の朝。


カーテン越しの光に目を刺されるような感覚で、美香はゆっくりとベッドから起き上がった。


「うぅ……昨日は飲み過ぎた……」

「完全に二日酔いだわ、コレ……」


頭を押さえながらふらつく足取りでキッチンへ向かい、コップに水を注ぐ。一気に飲み干すと、胃の奥がきゅっと縮む。


「……うっ」

「てか今日……仕事……」


嫌そうな顔のままコップを流し台に置き、大きくため息をついた。


「……めんどくさ……」


髪をかき上げた、その時。


「起きたの? おはよう〜」


背後から、やけに聞き慣れた明るい声。


「……え?」


振り向いた瞬間、美香の思考が一瞬止まる。


「えぇ?! リンネット先輩?!」

「なんでここに……!?」


驚きすぎて、二日酔いが一時的に吹き飛んだ。


「あはは」

リンネットは悪びれもせず笑う。


「いやぁ……昨日、美香さんが完全に酔い潰れちゃってねぇ」

「家まで送ったんだけど、私も疲れちゃって……そのまま一緒に寝ちゃったって感じ」


「……っ」


美香の顔が、じわじわと赤くなる。


「じゃ、じゃあ……」

視線を逸らしながら、ぼそっと呟く。


「夢の中で……何か柔らかい物を触った気がしたのは……」


「ん?」

リンネットが首を傾げる。


「何か言った?」


「――っ!?」

美香は慌てて首を振った。


「あっ、いえ! なんでもないです!!」


勢いよく否定する姿に、リンネットは一瞬きょとんとしてから、意味ありげに微笑んだ。


「ふーん?」

「まぁ……気のせいじゃない?」


「……ッ」


美香は何も言い返せず、再び水を飲む。


沈黙が落ちる。


しばらくして、リンネットがふと窓の外を見ながら言った。


「でもさ」

「昨日のこと、後悔してないでしょ?」


「……」


美香は答えず、少しだけ間を置いたあと、小さく息を吐く。


「……別に」

「言い過ぎたとは、思ってますけど」


「それでいいんだよ」

リンネットは優しく言った。


「本音、ちゃんと届いてたから」


その言葉に、美香は一瞬だけ目を伏せる。


――死にそうな顔で立たれるとムカつく。


自分が何を言ったのか、はっきり思い出してしまって、胸の奥がむず痒くなる。


「……あいつ」

「調子に乗らなきゃいいですけど」


「ふふ」

「大丈夫。むしろ、ちゃんと背負うと思うよ」


リンネットはそう言って、コーヒーを淹れ始めた。


美香はその背中を見ながら、もう一度ため息をつく。


「……次は、ちゃんとシラフで言うかな」


誰にともなく、そう呟いて。


二日酔いの朝は、思ったより悪くなかった。


海で、息をする。十一話はどうでしたか?居酒屋での平和な雰囲気や、帰り道での何気ない会話、そして美香のエピローグ。もし面白いと感じたら感想と評価をいただけると励みになります!次回はまた再登場するキャラが居ますので楽しみにしていてください!

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