第十話 二等兵の初仕事
海で、息をする。十話です!今回は主人公が三等兵から二等兵に昇格し、新しいアロンダイトと初めての場所で仕事をします!一部のキャラも再登場しますので楽しみにしながら読んでください!
【前回のあらすじ】
潮斗は初めてSクラスと出会い、何も出来なかった無力感でもっと強くなろうと決意した。そして仕事を増やし、沢山のレヴィアタンを倒して行った。
潮の匂いがまだ肌に残るまま、潮斗はTWC本部の薄暗い一室に呼び出されていた。上官の前に立ち、胸の奥がほんの少し熱くなるのを必死で抑える。内心は弾んでいるが、軍人らしく表情には出さない。
「潮斗か……待っていたよ」
上官は書類の山から顔を上げ、その視線を潮斗に向ける。淡々と、しかし重みを込めてひと言を告げられた。
「君の戦果は記録上、Bクラス相当だ。規定により、本日付で正式に二等兵へ昇格とする」
胸の中で何かが弾ける。だが潮斗はそれを露わにせず、姿勢を正して礼をした。
「ありがとうございます!」
上官は短く頷き、さらに続ける。
「これからは新しい場所で仕事をする。相手のレヴィアタンのクラスも上がる。装備を新調することにした。技術開発部へ行き、新しいアロンダイトを受け取ってこい」
その言葉を聞くと、自然と足取りが速くなる。昇格の実感と、新しい装備への期待。胸の中は騒がしいが、表面は冷静に保つ。
技術開発部に到着したその時だった。
「お? 久しぶりだね」
声をかけてきたのは、技術開発部の代表者——匠美 作奈だった。
「あの子……リンネットと一緒に来た時以来か?」
「はい。お久しぶりです」
主人公がそう答えると、作奈はどこか楽しそうに笑う。
「ほら、アレだろう? 新しいアロンダイトを受け取りに来たんだろ。案内するよ」
そう言って手招きしながら歩き出す作奈の背を、主人公は追った。
「潮斗くん……だったよね。君、昇進のペースが異常に速いよ。普通は早くても半年はかかるのに」
「俺って……そんなに速いんですか?」
「気づいてなかったのかい?」
作奈は肩をすくめ、軽く笑う。
「いやぁ……才能だね」
作奈に案内されて辿り着いたのは、無数のアロンダイトが厳重に保管されている——アロンダイト保管庫だった。ここは限られた者しか立ち入ることのできない場所で、本来であれば装備は保管庫から出された状態で受け取る。だが今回は作奈が特別な許可を取り、潮斗を中へと招き入れたのだった。
「ストレージ、GSシリーズを出してくれ」
作奈の声に倉庫が反応し、自動制御された倉庫区画が開く。中から複数の大剣がゆっくりと姿を現す。どれも機能美に満ち、光を受けて銀色に淡く煌めいていた。
作奈は列の中から一本を選び、少し嬉しそうに取り出した。
「あー、これかな?」
取り出されたのは六十〜七十センチほどの大剣。刃は無駄のない精緻な造形で、見た目より僅かに軽く感じられた。
「これが……俺の……」
潮斗が思わず呟くと、作奈は得意げに続ける。
「GS-68《TIDE》――通称、タイドだ!」
「tide……潮、か」
潮斗が呼ぶと、作奈はニヤリと笑った。
「そう。潮斗くんの“潮”から取ったんだよ。なかなかいいセンスでしょ? 君向きに調整してある」
潮斗は差し出された剣を両手で受け取る。握ると、元々支給されていた大剣より僅かに軽く、刃の重心が手元寄りに収まっているのが分かる。無駄な抵抗が少なく、切り返しが驚くほど速い。持ち手には細かな加工が施され、激しく動かしても滑りにくく、長時間の運用を想定した作りだ。
「使い回しがいい……」
試し振りで感じたのは、剣が手に吸い付くように馴染む感触。次の動きを自然と待っているかのように刃が整っている。力を込めずとも、体の連動が刃を動かす。確かな違いが、刃先から手首へと伝わってくる。
作奈は刀身を軽く弾き、少し肩をすくめた。
「このタイドはね、君が初めて倒したレヴィアタンから造られたものなんだ。しかも、そいつは希少な特殊器官を持っていた」
潮斗の目が見開かれる。
「特殊器官って?」
「微弱な振動を起こす器官さ。水の中でごくわずかに"水"を揺らすだけの力だ。正直、普通の隊員が使っても効果は薄い。分かりやすい火力アップにはならないよ」
作奈は少し苦笑して説明を続ける。
「だが、君みたいに“水の振動を読む”タイプの使い手には相性がいい。集中しているとき、この剣は水の揺らぎを増幅して返してくる。敵の動きや砂煙の微かな変化、攻撃が来る直前の水の歪み――そういう“前触れ”を感じ取れるよう手助けしてくれるんだ」
潮斗の脳裏に、先日の砂煙の中で尻尾を斬った瞬間が鮮やかに蘇る。作奈の説明に、全てが繋がる感覚があった。
「使い手を選ぶ剣……か」
作奈は頷き、剣を差し出す。
「だから言ったでしょ、才能だって」
潮斗はタイドを握り直す。刀身の冷たさが手のひらに伝わり、わずかながら水のような振動が伝わるように感じた。直感がざわめき、作奈の言葉が現実味を帯びる。
「これで君は――正式に二等兵だ。期待しているよ」
作奈は潮斗の肩を軽く叩いた。その一撃は柔らかく、だが確かな重みを持って胸に届いた。潮斗は笑みを押し殺し、真っ直ぐに応える。
「はい!」
新しい肩書きと、新しい剣。二等兵としての責任がその肩にじんわりと乗る。潮斗は保管庫を後にし、南東に広がる海藻の森へ向かう準備を胸に固めた。静かな決意が、海の中でゆっくりと形を取っていく。
二等兵の初仕事
二等兵に昇格して、最初に与えられた任務。
だが、これは単独行動ではなかった。三人編成──潮斗、リンネット、そして美香だ。
南東海域、海藻の森の外縁部。
目的はフルツァの収穫地を荒らす、小型のBクラス・レヴィアタンの討伐だった。
【フルツァ】
突然変異で巨大化した海藻の実。
この世界における“原油”にも等しい存在で、燃料や素材、生活必需品の原料まで、都市の基盤を支える重要資源だ。その実を荒らす存在はたとえ“小型”でも見過ごせない。被害はすぐに致命的な影響へと繋がる。
集合地点に着くと、潮斗を迎えたのは二人の女性だった。まずはリンネット。退院したばかりとは思えぬ笑顔で、けれど声には慎重さが混じる。
「おーい、潮斗くん」
「退院おめでとうございます、リンネット先輩」
「ふふ、ありがとう。今日は無理しない役回りだから、安心してね」
とは言うものの、声の端は引き締まっていた。
「……でも油断はダメだよ。相手はBクラスだからね」
隣に立つのは二等兵・美香。潮斗が三等兵だった頃、一度だけ一緒に任務をした先輩だ。あの時、潮斗が命令を待たず飛び出してしまい、美香の出番を奪ってしまった――その記憶が潮斗の胸にわずかな気まずさを残す。
「あの時は、その……」
潮斗が言いかけると、美香は軽く手を振った。
「いいよ。結果的に被害は出なかったし、あんたもちゃんと昇格した」
ただし、と付け加える。
「今日は二等兵・潮斗。勝手な行動は禁止。分かった?」
「はい。ちゃんと指示、聞きます」
美香は潮斗の顔をじっと見る。ふっと息を吐くと、表情は凛として作戦確認に移る。
今回の標的は機動力特化型の小型個体。群れず単独で動き回り、フルツァの根を裂いては逃げる厄介者だ。正面から追えば確実に翻弄される──そこで彼女たちは役割を分けた。
「誘導して、止める」リンネットが冷静に言う。
「美香さんが前に出て注意を引く。私が動きを制限。潮斗くんは“決め役”」リンネットが端的に指示する。
潮斗は自分のタイドに視線を落とす。専用のアロンダイトを持つ二等兵、そして速い相手を斬ることに向いていると見なされた彼の役割は、以前とは違う意味を持つ。仲間がいて、役割がある──その上で前に出るのだ。
海藻の森の奥、海藻が不自然にざわめく。リンネットの声が低くなる。三人はそれぞれの位置へ散開した。
「こっちだよ! 雑魚!」
美香の挑発が深い緑の中に響く。瞬間、周囲の海藻が一斉に揺れ、死角から小型のレヴィアタンが飛び出してきた。だが美香は振り返らず、半歩だけ身体をずらした。突進は空を切る。
「今!」
潮斗が踏み込み、タイドを横一文字に振る。だがレヴィアタンは軌道を変え、紙一重で剣先をかわす。
「何やってんのよ!」美香が怒鳴る。
「す、すいません!」潮斗はすぐに謝る。
リンネットが間を切り裂くように言った。
「次の攻撃、もう来るよ!」
レヴィアタンは海藻を蹴るように方向転換し、三人の周囲を高速で回り始める。視線が追いつかないほどの速さだ。
「落ち着いて。この子、一直線じゃない。必ず同じ半径で回ってる」リンネットが淡々と分析する。美香は薄く笑い、「癖があるってこと」と続ける。
美香は、内心ムズムズしていた。
(本来ならさ……潮斗が囮でしょ?後輩なんだからさ)
リンネット先輩と二人で鮮やかに決めて、
「ほら見なさい」ってドヤる――
そんな展開を、勝手に思い描いていた。
だが、現実は違う。囮役は、自分だった。
「……別にいいけどさぁ」
小さく息を吐いた次の瞬間、
美香は意識を切り替える。
「少しくらい、良いよね?」
海藻を蹴り、水を裂くように前へ出た。
即座に、レヴィアタンが反応する。
一直線の突撃――速く、鋭い。
だが。
美香は慌てない。
身体をひねり、
紙一重で軌道を外すと同時に、刃を振るう。
ギィンッ、と硬質な手応え。
刃は浅い。
だが、確実に当たっていた。
「――ッ!」
レヴィアタンの動きが、ほんの一瞬だけ乱れる。
(今でしょ)
その“一瞬”を、仲間が逃すはずがなかった。
「そこ」リンネットの合図と同時に連続斬撃が入る。体勢を崩したレヴィアタンに、潮斗は踏み込む。今度は剣を振るのではなく、進路に“置く”ように構えた。
――ガンッ!
硬質な感触が手先に伝わる。弾かれ、体勢を崩したレヴィアタン。美香が即座に続き、リンネットが動きを封じる。そして潮斗が全身を使って振り下ろした一撃が、最後の決め手となった。巨体は力を失い、海砂地へと沈む。
静寂が戻る。三人で掴んだ勝利だ。
美香は胸のうちでちくりとしたものを感じつつも、満足そうに小さく笑った。リンネットは剣を収め、潮斗に近づくとにこっと笑って親指を立てる。
「潮斗くん……やっぱり強くなってるね。本当に驚いたよ〜。流石、二等兵!」
潮斗は少し照れたが、礼儀正しく頭を下げる。「ありがとうございます……」
リンネットは美香にも同じく笑顔を向ける。「美香さんも凄かったよ!」とグッドサインを送り、美香は照れ隠しのようにそっぽを向きながらも認める。
「べ、別に私は……リンネット先輩の方が凄いし……」
「そんなことないよ。ちゃんと連携できてたし、頼もしかった」リンネットが優しく応えると、美香は小さく息を吐いた。
潮斗は胸の奥にじんわりとした温かさを感じた。単なる“強さの証明”ではない。仲間と噛み合うことで生まれる手応え。二等兵としての初任務は、確かな重みと共に静かに幕を閉じた。
(……ちゃんと、前に進めてる)
海で、息をする。十話はどうでしたか?入院中で出番がなかったリンネットとツンデレな美香の再登場、何より新しい環境、新しい武器、全てが新しくなります!




