第31話 整いすぎる世界
統合憲章の施行から、しばらくが過ぎた。
王都は活気づいていると聞く。
決定は速くなり、
手続きは簡潔になり、
報告の形式は統一された。
合理は、確かに機能していた。
午前、港町からの報せを読む。
『新制度により処理時間が半減』
南の町も同様だ。
数字は美しい。
私は文書を閉じる。
午後、新興地域から届いた封は、
少し厚かった。
『小規模地区の離脱者が増加』
文面は冷静だが、
行間に疲れがある。
統一基準は、
広く強い。
だが、
小さな単位には重い。
夕方、庭に出る。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「順調ですか」
彼が問う。
「大きな場所では」
私は答える。
「小さな場所では、少しだけ」
言葉を探す。
「窮屈です」
彼は静かに頷く。
「予想通りですか」
「はい」
整いすぎると、
揺れの逃げ場がなくなる。
夜、書斎で新興地域の文書を読み返す。
中央へ正式な異議を出すかどうか、
内部で迷っていると書かれている。
私は筆を取る。
具体的な案は示さない。
『異議は対立ではありません。
調整の一部です』
それだけ。
翌朝、庭に立つ。
足音が重なる。
「あなたが中央にいれば、
もっと早く調整できたでしょう」
彼が言う。
私は首を横に振る。
「いれば、整えてしまいます」
それでは、
内部が考えなくなる。
午後、王都から追加の報せが届く。
セオドアが制度の微修正を提案したという。
私は小さく笑う。
合理は、硬直しない。
彼もまた、学ぶ。
夕暮れ、庭の小径に立つ。
整いすぎる世界は、
一見、美しい。
けれど、
呼吸が浅くなる。
私は外側にいる。
憲章の外。
制度の外。
それでも、
完全に無関係ではない。
重心が傾きすぎないよう、
最小限の言葉を置く。
夜、記録を書く。
「制度安定」
「局所軋み」
短い文。
整いすぎることは、
完成ではない。
揺れを含んでこそ、
続いていく。
私は中心に立たない。
けれど、
見ている。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。
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