第29話 並びの理由
統合顧問の打診を断ってから、
屋敷は再び静かになった。
中央は動いている。
合理も、余白も、
それぞれの形で続いている。
私はそこに属していない。
午前、庭に出る。
夏の光はやわらかく、
影は短い。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並ぶ。
沈黙は重くない。
「後悔はありませんか」
彼が静かに問う。
私は少し考える。
「ありません」
それは確信だった。
象徴に戻ることはできた。
名を掲げることもできた。
けれど、
私は選ばなかった。
「理由を、改めて聞いてもよろしいですか」
彼の声は穏やかだ。
私は立ち止まる。
庭の中央。
何度も歩いた場所。
「私は、役割で立っていないからです」
私は言う。
「基準でも、顧問でも、象徴でもなく」
ただ、
ここにいる。
「必要とされなくても?」
「はい」
「呼ばれなくても?」
「はい」
風が通り抜ける。
葉が揺れる。
私は続ける。
「並ぶということは、
肩書きではありません」
「選び続けることです」
彼は少しだけ目を細める。
「私も同じです」
短い言葉。
だが、揺れない。
「あなたが何者でもなくても、
私は隣を選びます」
それは以前にも聞いた言葉。
けれど、
今日は少しだけ違う。
中央から正式に名を外し、
象徴を断り、
役割を手放したあと。
それでも変わらない。
私は気づく。
並びは、
世界に証明されるものではない。
私たちの中で、
確認されるものだ。
夕方、書斎で記録を書く。
「統合進行」
「立場維持」
「並び確定」
最後の一行に、
少しだけ迷いが消える。
夜、庭に立つ。
足音が重なる。
中央がどう動こうと、
合理が採択されようと、
世代が移ろうと。
私は中心に立たない。
彼は前に出ることもある。
私は後ろに立つこともある。
けれど、
並びは崩れない。
必要でなくても。
選ばれなくても。
選び続ける。
それが理由。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私たちの形だった。
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