第26話 何者でもない日
中央へ向かった人たちの報せは、
まだ届いていない。
屋敷は、静かだった。
庭の緑は濃く、
風はゆるやかだ。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並んで歩く。
午前、書斎に向かう。
机の上には、
何も置かれていない。
港町も、
南の町も、
新興地域も。
中央へ向かった彼らからも、
まだ報告はない。
私は椅子に座る。
役割はない。
判断もない。
急ぎもない。
何者でもない一日。
午後、庭に出る。
足音は一つ。
小径は変わらない。
けれど、
今日は特に静かだ。
私は立ち止まる。
私は、今、
何者だろう。
基準ではない。
象徴でもない。
顧問でもない。
中央にも属していない。
夕方、彼が隣に立つ。
足音が重なる。
「退屈ですか」
彼が問う。
私は少し考える。
「いいえ」
本当に退屈ではない。
ただ、
広い。
「何も求められない日です」
私は言う。
彼は穏やかに答える。
「それは、悪いことですか」
私は首を横に振る。
「いいえ」
求められない。
それは、
自由だ。
夜、書斎に戻る。
紙を一枚取り、
一行だけ書く。
「役割なし」
それで終わり。
私は思う。
私は何者でもない。
けれど、
隣に立っている。
並ぶことは、
肩書きではない。
必要とされるかどうかでもない。
選ぶこと。
翌朝、庭に立つ。
光がやわらかい。
足音が重なる。
何者でもない日があっても、
並びは消えない。
私は気づく。
私は役割で立っていない。
選んで立っている。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。
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