第21話 遠ざかる招待
夏の陽射しが、庭の緑を濃くしていた。
風は重くはないが、
少しだけ湿り気を含んでいる。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並んで歩く。
午前、アレクシスが一通の封書を持ってきた。
王都の紋章が押されている。
「正式な招待状です」
私は受け取らず、
視線だけを向ける。
「どなた宛てでしょう」
「――エドワード様宛てです」
ほんの一瞬だけ、
庭の音が遠くなる。
私は微笑む。
「そうですか」
封は彼の手に渡る。
彼はその場で開かない。
机の上に置く。
午後、応接室で封を開く。
王都主催の評議会。
各地の代表を招く正式会合。
彼の名が記されている。
私の名はない。
以前なら、
共同招待だった。
あるいは、
助言者として付記されていた。
今回は違う。
私は静かに文面を読み終える。
「ご出席なさいますか」
私は問う。
彼は少し考える。
「求められているのは、私の立場です」
「ええ」
私は頷く。
それは当然だ。
港町も、
南の町も、
新興地域も。
今や自走している。
私はどこにも属していない。
夕方、庭に出る。
足音が重なる。
「遠ざかりましたか」
彼が静かに問う。
私は空を見上げる。
「遠ざかったのは、役割です」
人ではない。
立場だけが、
移動した。
夜、書斎で記録を書く。
「王都招待、彼のみ」
短い一文。
胸の奥に、
小さな静けさが生まれる。
嫉妬ではない。
寂しさでもない。
ただ、
確かな変化。
私はもう、
中心に呼ばれない。
基準でも、
象徴でもない。
彼は呼ばれる。
並びは崩れていない。
それでも、
世界の視線は少しずれた。
窓を開ける。
夏の夜風が入る。
私は思う。
必要でなくなったとき、
私はここにいるだろうか。
役割がなくても、
隣に立てるだろうか。
足音が重なった時間を思い出す。
並ぶ。
それは、
招待状に記されるものではない。
選び続けるものだ。
彼は王都へ向かう。
私はここに残る。
それでも、
並びは続く。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の選び方だった。
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