第17話 行かないという選択
新興地域からの返事は、短いまま続いた。
「再検討中」
「内部調整中」
具体的な内容は記されていない。
私はそれを読み、
机の端に置く。
以前の私なら、
現地へ向かっただろう。
状況を見て、
直接話し、
軌道を整えたはずだ。
今は違う。
午後、アレクシスが静かに言う。
「視察の準備はなさいますか」
私は首を横に振る。
「行きません」
彼は驚かない。
「承知しました」
理由を求めない。
庭に出る。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「決めましたか」
彼が問う。
「ええ」
「行かない、と」
私は頷く。
「今は、彼らが揺れる時間です」
揺れを止めれば、
内部は育たない。
夕方、さらに便りが届く。
「範囲を縮小します」
私は小さく息を吐く。
自分たちで調整を始めた。
夜、書斎で短い記録を書く。
「視察せず」
「内部調整継続」
たったそれだけ。
窓の外は静かだ。
私は思う。
行かないという選択は、
放置ではない。
信頼だ。
急げば整う。
けれど、
整えてしまえば学べない。
翌朝、庭に出る。
足音が重なる。
「後悔はありませんか」
彼が静かに問う。
私は少し考える。
「今のところは」
完全な確信ではない。
だが、
揺れは恐れていない。
午後、新興地域から再び文書が届く。
「暫定代表を内部で選出」
私は封を閉じる。
行かなかったから、
決まった。
私がいれば、
委ねられなかっただろう。
夕暮れ、庭の小径に立つ。
風がやわらかい。
私は気づく。
私が動かなくても、
世界は崩れない。
行かないという選択が、
自立を促す。
並びは変わらない。
私は隣に立っている。
中心でも、
影でもない。
ただ、
選び続ける。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。




