数年後IF ―並んだまま、変わった景色
その日、
私は少し遅れて庭に出た。
朝の空気は、
以前よりも柔らかい。
季節のせいだけではない。
時間が積もった結果だ。
屋敷は、
少しだけ様子が変わっていた。
建て替えたわけではない。
増築したわけでもない。
人の動線が、
自然に整理されただけだ。
それは、
長く使われた場所にだけ
現れる変化だった。
「おはようございます」
声をかけられ、
振り返る。
彼は、
以前より少しだけ
落ち着いた表情をしている。
「おはようございます」
挨拶は、
今も変わらない。
呼び方も、
変わっていない。
並んで歩く。
歩調は、
もう意識するものではない。
どちらかが先に
歩き出しても、
自然に並ぶ。
それが、
何年も続いた結果だった。
私は、
以前より外にいる時間が増えていた。
拠点は一つではない。
滞在先も、一定しない。
それでも、
ここに戻ってくる。
「戻る」という言葉を、
疑わずに使える場所がある。
「次は、
いつ戻られますか」
彼が、
そう聞いた。
予定確認ではない。
生活の一部としての問いだ。
「三日ほどで」
「承知しました」
それだけ。
引き止めも、
寂しさの表明もない。
外では、
私の名前が
少し違う形で呼ばれている。
肩書きが増え、
説明が省略される。
けれど、
私はそれを
自分だとは思っていない。
役割が増えただけだ。
「……以前より、
遠くへ行かれますね」
庭の端で、
彼が言った。
「ええ」
私は、
そのまま答える。
「でも、
近いままでもあります」
彼は、
小さく頷いた。
周囲は、
もう聞かなくなった。
「お二人は、結局どういう関係なのか」
答えが、
生活の中に
すでにあるからだ。
夜、
部屋に戻る。
窓を開けると、
風が入ってくる。
私は、
ふと思う。
数年前、
もし別の道を選んでいたら。
その未来も、
きっと成立していた。
それでも、
私は今ここにいる。
理由は、
一つではない。
必要だからでも、
約束したからでもない。
選び直し続けた結果、
ここに立っている。
「……変わりましたね」
小さく呟く。
何が変わったのか、
すぐには言葉にできない。
けれど、
一つだけ確かだ。
私は、
誰かの人生に
組み込まれたわけではない。
それでも、
並んでいる。
それは、
依存ではなく、
完成でもない。
更新され続けた結果の、現在。
それが、
この数年後の私たちだった。
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