第59話 並ぶということ
その位置は、
いつから決まっていたのだろう。
考えてみても、
はっきりした答えは出ない。
ただ、
気づいたら、
そこにあった。
朝、
庭に出る。
小径を歩く。
一人分の足音のあとに、
もう一つが重なる。
振り返らなくても、
誰かは分かる。
「おはようございます」
「おはようございます」
声を合わせたわけではない。
自然に、同じ調子になった。
歩調は、
もう調整しない。
速くも、
遅くもない。
合わせている意識が
消えたころ、
並びは固定される。
今日は、
それぞれ別の用事がある。
私は、
昼前には外へ出る。
彼は、
別の打ち合わせがあるらしい。
「では」
「ええ」
別れ際も、
簡単だ。
外での用件を終え、
夕方に戻る。
庭に出ると、
彼は先に戻っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
それだけで、
何も確認しない。
並んで歩く。
今日あったことを
詳しく話すことはない。
要点だけ、
必要な分だけ。
それで、
不足はない。
「……並ぶ、というのは」
私は、
ふと思ったことを
口にした。
「同じ方向を見ることでは
ないのですね」
彼は、
少し考えてから答える。
「同じ速さで
進むことでも
ないでしょう」
「……ただ」
「互いの位置を
把握していること、
ではないかと」
その言葉に、
私は小さく頷いた。
夜、
部屋に戻る。
今日一日を
思い返す。
行き先は違っていた。
戻る時間も違っていた。
それでも、
並びは崩れていない。
灯りを落とす前、
私は静かに思う。
並ぶということは、
合わせ続けることではない。
離れても、
戻っても。
位置を、
見失わないことだ。
それが、
今の私たちの形だった。
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