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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール


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第5話 それは、もう前提のように

数日後、

公爵家に小さな茶会の招待状が届いた。


規模は控えめで、

顔ぶれも穏やかなもの。

断る理由はなく、

私は静かに了承した。


――ただ、

参加すること自体が、

久しぶりだった。


婚約していた頃は

「出席して当然」という場ばかりだった。


今は

「出たいかどうか」で選べる。


それだけで、

心の負担は驚くほど違っていた。


茶会当日。


庭に面した明るいサロンには、

すでに数人の令嬢たちが集まっていた。


私の姿に気づくと、

一瞬、空気が静まる。


――来てはいけなかったかしら。


そう思うより早く、

ひとりが柔らかく声をかけてきた。


「今日は、いらしてくださって嬉しいです」


それは、

探るような声音ではなかった。


「ありがとうございます」


そう答えると、

周囲も、ほっとしたように笑う。


席は、

自然と、

窓際の落ち着いた場所が空けられていた。


誰も「こちらへどうぞ」とは言わない。

けれど、

そこが私の席だと、

暗黙のうちに決まっている。


少し、不思議だった。


会話は、穏やかだった。


季節の花の話。

最近評判の菓子店。

読みやすい新刊の話題。


誰も、

婚約破棄に触れない。


触れないことが、

配慮だと分かるから、

私は、それに甘えた。


「……そういえば」


ふと、

一人の令嬢が、何気ない調子で言った。


「庭の小径、歩きやすくなりましたよね」


「ええ」


私が頷くと、

別の人が続ける。


「安心しますよね。

 ああいう整え方」


安心。


その言葉に、

胸の奥が、わずかに動いた。


「……よく、ご存じですね」


そう言うと、

彼女たちは視線を交わし、

くすりと小さく笑った。


「ええ、まあ」


それ以上は、言わない。


言わなくても、

皆、分かっているようだった。


茶会の終盤、

主催者が私の隣に来て、

低い声で言った。


「無理は、なさらないでくださいね」


「していません」


即答すると、

彼女は安心したように頷いた。


「それなら、よかった」


その言葉は、

確認ではなく、

前提のように聞こえた。


私は、

守られる側にいる。


それを、

周囲はもう、疑っていない。


屋敷に戻る馬車の中で、

私は窓の外を眺めながら考えていた。


私は、

何も宣言していない。


誰かと親しくなったわけでも、

特別な立場を得たわけでもない。


それなのに、

「大切に扱われる存在」

として、

自然に認識されている。


――不思議ですね。


けれど、

嫌ではなかった。


むしろ、

心の奥が、

静かに落ち着いていく。


屋敷に着くと、

エドワード様が、

用件を済ませた帰りだということで、

玄関先にいた。


偶然とは思えないけれど、

詮索はしない。


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました」


それだけのやり取り。


「茶会は、いかがでしたか」


「穏やかでした」


「それは、よかった」


彼は、それ以上、聞かなかった。


代わりに、

一言だけ付け加える。


「疲れたようでしたら、

 明日は、何もなさらなくて構いません」


「……ありがとうございます」


それが、

指示ではなく、

選択肢として提示されていることに、

私は気づいていた。


夜、自室で灯りを落とす前、

今日一日を振り返る。


私は、

何も選んでいない。


けれど、

選ばないという選択を、

尊重されている。


それは、

とても静かで、

とても強い溺愛だった。


「……まだ、距離は取りますけれど」


小さく呟いて、

私は眠りについた。


誰も、

その距離を責めないと、

もう分かっていたから。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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