第49話 まだ名前のない日々
その想像は、
意識して呼び出したものではなかった。
ただ、
気づいたら、
そこにあった。
朝、
私は少し早く目を覚ました。
特別な予定はない。
急ぐ理由もない。
それでも、
静かな時間が心地よくて、
そのまま身支度を整える。
庭に出ると、
空気は澄んでいた。
風は穏やかで、
葉の影が揺れている。
私は、
いつもの小径を歩いた。
そこへ、
足音が一つ加わる。
「おはようございます」
「おはようございます」
エドワード様だった。
並んで歩く。
会話は、
必要最低限。
天気のこと。
今日の予定のこと。
未来の話は、
しない。
けれど、
私はふと思った。
もし、
この日常が
このまま続いたら。
決めごとは、
特にない。
役割も、
明確ではない。
それでも、
朝に挨拶をして、
それぞれの場所へ向かう。
夜に、
また戻ってくる。
「……変わりませんね」
私が、
ぽつりと言った。
「ええ」
彼は、
それだけ答える。
否定も、
肯定もない。
私は、
その想像を
もう一歩だけ進めてみる。
住む場所が、
少し変わるかもしれない。
外の仕事で、
留守が増えるかもしれない。
それでも、
戻る場所があり、
話す相手がいる。
「……こういう日々は」
私は、
言葉を探した。
「名前がなくても、
続きますね」
彼は、
少しだけ考えてから言った。
「名前がないからこそ、
続くのかもしれません」
その言葉は、
とても静かだった。
庭の端まで来て、
自然に立ち止まる。
未来の話は、
ここまで。
それ以上、
先へ進める必要はなかった。
昼前、
私は外の仕事へ向かった。
準備をし、
屋敷を出る。
振り返らない。
それでも、
戻る場所があると
分かっている。
夕方、
部屋に戻る。
机に向かい、
今日の記録を取る。
私は、
今日という一日が、
特別ではないことに
少しだけ安心していた。
夜、
灯りを落とす前。
私は、
静かに思う。
未来を
決めなくてもいい。
約束を
言葉にしなくてもいい。
それでも、
続いていく日々は
確かにある。
それは、
まだ名前のない生活。
けれど、
私が大切にしたい形は、
もう、
そこに見えていた。
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