第48話 中心にいない人
その評価を、
私は自分から求めたことがなかった。
だからこそ、
耳に入ったとき、
少しだけ立ち止まった。
午後、
外の取り組みに関わる人たちと、
簡単な確認をしていた。
議題は少なく、
会話も穏やか。
終わり際、
一人が何気なく言った。
「……あなたは、
いつも中心にいませんね」
責める調子ではない。
不満でもない。
ただ、
気づいた、という声だった。
私は、
一瞬だけ考えた。
中心にいない。
それは、
以前の私なら
不安を覚える言葉だったかもしれない。
「そう見えますか」
私は、
そう返した。
「ええ」
その人は、
少しだけ言葉を探して続ける。
「決めるところは
決めてくださいますが」
「全部を
握っているわけではない」
「……だから、
こちらも動きやすいのです」
評価というより、
感想に近い。
私は、
その言葉を
そのまま受け取った。
別の人が、
小さく頷く。
「前に出ていないのに、
いなくなると困る」
「不思議な立ち位置ですね」
私は、
思わず小さく息を吐いた。
それは、
とても正確な表現だった。
「……それで」
私は、
静かに言った。
「今のやり方で、
問題はありませんか」
確認だった。
相手は、
すぐに首を横に振る。
「むしろ、
続きやすいと思います」
会合が終わり、
私は一人になる。
廊下を歩きながら、
考えていた。
中心にいない。
それは、
責任を持たないことではない。
“回る場所”を
奪わない、という選択だ。
庭に出る。
風は、
穏やかだった。
私は、
小径を歩きながら思う。
以前の私は、
中心に立つことを
避けていた。
今は、
中心に固執していない。
似ているようで、
まったく違う。
夕方、
庭でエドワード様と会った。
「今日は、
少し表情が違いますね」
彼が、
そう言った。
「……外で、
少し言われました」
私は、
簡単に話す。
「中心にいない、と」
彼は、
微笑まなかった。
「それは、
悪い意味では
なさそうですね」
「ええ」
私も、
頷く。
「あなたは」
彼が、
静かに言う。
「自分がいなくても
回る形を
選んでいます」
「それは、
信頼の置き方です」
その言葉に、
胸の奥が
静かに落ち着く。
夜、
部屋に戻る。
私は、
今日一日のことを
思い返していた。
中心にいない。
それでも、必要とされる。
それは、
立場ではなく、
姿勢の問題だ。
灯りを落とす前、
私は思う。
私は、
誰かの人生の
中心にはならない。
けれど、
流れの中に
静かに在り続けることは
できる。
それでいい。
それが、
今の私の選んだ位置だった。
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