第46話 名付けないまま
その動きは、
いつの間にか「定着」と呼べるものになっていた。
誰かが音頭を取るわけでもなく、
大きな式典があるわけでもない。
ただ、
続いている。
それだけだ。
午前中、
簡単な報告を受ける。
現地での会合は、
滞りなく進んでいるらしい。
決定事項は少なく、
確認事項が多い。
私は、
それを聞いて頷いた。
「今のままで、
問題ありません」
それ以上、
何も付け加えない。
官吏が、
少し戸惑ったように言った。
「名称を、
決めなくてよろしいのですか」
制度には、
名前が必要だと
思われがちだ。
私は、
少しだけ考えてから答えた。
「今は、
まだ必要ありません」
「続くなら、
いずれ自然に
呼び名がつくでしょう」
無理に形を作らない。
流れを止めない。
打ち合わせが終わり、
私は一人になる。
机の上には、
整った書類。
それを見ながら、
不思議な感覚を覚える。
これは、
私の成果ではない。
私が、
中心にいなくても
回っている。
昼過ぎ、
庭に出る。
風は穏やかで、
空は高い。
私は、
歩きながら思う。
以前の私なら、
「形になったこと」に
安心していた。
今は、
形に縛られたくない。
「こんにちは」
声がして、
振り返る。
エドワード様だった。
「こんにちは」
「何か、
一区切りついたようですね」
彼は、
状況を察している。
「はい。
一区切り、というほどでは
ありませんが」
「続いています」
それだけで、
十分だった。
「周囲は、
評価をしたがるものです」
彼が、
静かに言った。
「ですが」
一拍置いて。
「あなたは、
評価のために
動いていません」
断定ではない。
確認に近い。
私は、
小さく頷いた。
「……名付けないのは」
私が言う。
「誇るためではなく、
守るためかもしれません」
彼は、
少しだけ目を細めた。
「とても、
あなたらしい選択です」
夕方、
部屋に戻る。
私は、
今日の出来事を思い返していた。
名付けない。
固定しない。
それは、
責任を放棄することではない。
続く余地を、
残すということだ。
夜、
灯りを落とす前。
私は、
静かに思う。
私は、
何かを成し遂げたいわけではない。
ただ、
続いてほしいだけだ。
そして、
続くものは
必ずしも
名前を必要としない。
そう思えたことが、
今日一番の収穫だった。
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