第44話 それでも、ここに戻る理由
朝の空気は、
前日よりも柔らかかった。
私は窓を開け、
しばらく外を眺めていた。
昨夜、
選ばない未来を想像した。
それは、
思っていたほど痛みを伴わなかった。
だからこそ、
今朝の感覚が、
少しだけ新しい。
支度を整え、
庭に出る。
歩き慣れた小径。
変わらない景色。
それでも、
昨日とは違って見える。
「……戻ってきていますね」
独り言は、
確認だった。
外の仕事は、
今日も動いている。
連絡は来ている。
判断が必要な点も、
いくつかある。
私は、
それらを後回しにして、
今はここにいる。
それは、
義務ではない。
選択だ。
「おはようございます」
声がして、
振り返る。
エドワード様だった。
「おはようございます」
距離も、
声の調子も、
いつも通り。
彼は、
私が戻ってきていることを、
当然のように受け取っている。
並んで歩く。
沈黙が、
重くならない。
私は、
ふと考える。
もし、
戻らなかったら。
その未来を想像できるからこそ、
今、ここにいる理由が
はっきりする。
「……昨日」
私は、
ほんの少しだけ言葉を選んだ。
「別の道も、
考えていました」
彼は、
驚いた様子を見せなかった。
「そうですか」
それだけ。
評価も、
不安も、
含まれていない。
「それでも」
私は、
続ける。
「今は、
ここに戻っています」
彼は、
一拍置いてから言った。
「理由を、
聞いてもよろしいですか」
強制ではない。
確認だ。
私は、
少しだけ考えてから答えた。
「必要だから、
ではありません」
「守られているからでも、
安心だからでもない」
一つずつ、
否定する。
「……選びたいからです」
その言葉は、
とても静かだった。
彼は、
何も言わなかった。
けれど、
その沈黙は、
深く、温かい。
やがて、
短く頷く。
「それなら」
それだけ。
十分だった。
歩きながら、
私は思う。
私は、
縛られていない。
だから、
戻っている。
必要ではなく、
依存でもなく。
選択として、
ここにいる。
夕方、
部屋に戻る。
外の仕事の書類に、
目を通す。
けれど、
気持ちは焦っていない。
今の私には、
複数の場所がある。
どれか一つを
失う必要はない。
夜、
灯りを落とす前。
私は、
静かに思う。
選ばない未来を
受け入れたうえで、
戻る今を選ぶ。
それは、
矛盾ではない。
自由の中での選択だ。
だから、
この場所は、
今日も私を
受け入れている。
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