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【第1部完結】婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第1部 静かに身を引いた日

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第39話 決めないままでは進めない

その話題が出たとき、

部屋の空気は変わらなかった。


声が荒くなることも、

意見がぶつかることもない。


ただ、

選択肢が並んだだけだ。


机の上には、

数枚の書類。


予算の配分。

実施時期。

人の手配。


どれも、

決定的な差ではない。


けれど、

どれか一つを選ばなければ、

先に進めない。


「……どちらでも、

 成り立ちはします」


官吏がそう言った。


逃げ道を用意するような言い方。


私は、

それを責めない。


むしろ、

正直だと思った。


「急ぐ必要は、

 ありませんよね」


別の一人が続ける。


「様子を見てからでも」


私は、

小さく頷いた。


様子を見る。

それも、立派な選択だ。


以前の私なら、

そこに落ち着いていたかもしれない。


私は、

一度だけ書類から目を上げた。


「確かに、

 急ぐ必要はありません」


声は、

落ち着いている。


「ですが」


言葉を切り、

少しだけ間を置く。


「今、

 決めておかないと

 進めない部分もあります」


誰かを急かすためではない。

事実として、そうだった。


「……どこを、

 決めるおつもりですか」


視線が集まる。


私は、

一瞬だけ考えた。


全てを決める必要はない。

責任を独り占めする気もない。


「時期だけ、

 こちらで引き取ります」


それだけ。


予算でも、

人選でもない。


一番、

失敗しても取り返しのつく部分。


部屋が、

少しだけ静かになる。


反対はない。

けれど、

驚きはあった。


私は、

それを受け止める。


「進めながら、

 修正できます」


「止めることも、

 できます」


言い切る。


「ですが、

 動かさなければ

 見えないこともあります」


誰かが、

小さく息を吐いた。


「……そうですね」


その一言で、

場は動いた。


決まったのは、

ほんの一部。


けれど、

確かに前へ進んだ。


打ち合わせが終わり、

私は一人で廊下を歩いた。


足取りは、

軽くも、重くもない。


「……決めましたね」


独り言は、

自分への確認だった。


決断に、

高揚はない。


達成感も、

誇りもない。


ただ、

引き取った、という感覚だけ。


庭に出る。


いつもの小径。


私は、

歩きながら思った。


決めない自由は、

確かに心地よい。


けれど、

決めなければ

守れないものもある。


それを、

今日は一つだけ、

引き受けた。


夕方、

部屋で簡単な記録を取る。


なぜ、この時期にしたのか。

何を見て判断するのか。


言葉にしておくことで、

選択は、

少しだけ落ち着く。


夜、

灯りを落とす前。


私は、

静かに思う。


決めないでいられるのは、

安全な場所にいるからだ。


でも、

外に出た以上、

時には決める必要がある。


それは、

怖さではなく、

責任だった。


「……大丈夫です」


小さく呟いて、

目を閉じる。


決めないままでは進めない。

けれど、

決めたからといって、

戻れなくなるわけではない。


その感覚が、

今の私を支えていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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