第35話 並ぶということ
朝の庭は、
前日よりも少しだけ明るかった。
光の入り方が違う。
それだけのことなのに、
空気が軽い。
私は、小径を歩きながら、
ここ数日のことを思い返していた。
外へ出たこと。
戻ってきたこと。
そして、
何も壊れていないこと。
並ぶ、という言葉は、
ずっと曖昧だった。
一緒にいること。
同じ方向を見ること。
同じ場所に立つこと。
けれど、
どれも少しずつ違う。
私は、
外で一人で立った。
考え、
判断し、
言葉にした。
それでも――
戻ってきたとき、
ここに場所はあった。
「おはようございます」
声がして、
振り返る。
エドワード様だった。
「おはようございます」
いつも通りの距離。
けれど、
私の中の感覚は少し違う。
「今日は、
早いですね」
「ええ」
それだけの会話。
自然に、
並んで歩き始める。
以前なら、
“並ぶ”ことを
意識していた。
今は、
そうではない。
並ぶとは、
同じ歩幅で歩くことではない。
同じ場所に、
縛られることでもない。
「……少し前まで」
私は、
歩きながら言った。
「並ぶということは、
立ち止まることだと
思っていました」
彼は、
黙って聞いている。
「誰かの隣にいるために、
自分の動きを止めることだと」
私は、
小さく首を振った。
「でも、
違いました」
「並ぶというのは」
言葉を探しながら、
続ける。
「それぞれが、
自分の足で立っていて」
「必要なときに、
同じ場所へ戻れること」
「……そういう関係なのだと、
今は思います」
彼は、
少しだけ目を細めた。
「とても、
あなたらしい定義ですね」
評価ではない。
受け取りだ。
「以前は」
私は、
正直に言った。
「隣に立つことが、
少し怖かった」
「また、
役割に戻る気がして」
彼は、
否定しなかった。
「今は?」
静かな問い。
「……今は」
私は、
少しだけ考えてから答えた。
「隣に立つことが、
選択だと分かっています」
「選ばされているのではなく、
自分で選んでいると」
その言葉を口にして、
胸の奥が、
すっと落ち着く。
庭の端で、
立ち止まる。
風が、
葉を揺らす。
「並ぶ、というのは」
彼が、
静かに言った。
「戻る場所を、
共有することかもしれません」
私は、
その言葉を噛みしめた。
「……ええ」
それ以上、
言葉はいらなかった。
夜、
部屋に戻る。
私は、
今日の会話を思い返していた。
並ぶとは、
縛ることでも、
止めることでもない。
離れても、
戻れる。
それを信じ合えること。
「……それなら」
私は、
静かに思う。
「私は、
並んでいたい」
それは、
未来への宣言ではない。
今日の選択を、
確認しただけ。
ここで静かに一区切りを迎える。
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