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【第1部完結】婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第1部

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第34話 持ち帰ったもの

王都へ戻った日は、

空が高かった。


雲は薄く、

光はやわらかい。


馬車が門をくぐるとき、

私は小さく息を吐いた。


帰ってきた、

という感覚。


けれど、

出発前と同じではない。


屋敷に着くと、

出迎えは簡素だった。


「お帰りなさいませ」


「ただいま」


それだけ。


私は、

そのまま自室に向かい、

荷を解いた。


荷物は少ない。

けれど、

頭の中は、少しだけ賑やかだった。


夕方、

庭に出る。


歩き慣れた小径。

見慣れた木々。


それなのに、

景色が違って見える。


ここもまた、

誰かの生活の場だ。


外で見た町と、

同じように。


「お帰りなさい」


聞き慣れた声。


振り返ると、

エドワード様が立っていた。


距離は、

以前と同じ。


「ただいま戻りました」


「長旅でしたね」


「ええ。

 でも、思ったよりも」


言葉を探して、

私は続けた。


「……落ち着いていました」


彼は、

それを聞いて、わずかに頷いた。


「そう見えます」


評価ではない。

観察に近い。


並んで歩く。


自然と、

歩調が合う。


「何か、

 持ち帰られましたか」


彼が、そう聞いた。


土産の話ではないと、

すぐに分かる。


「……言葉にするのは、

 少し難しいですが」


私は、

正直に答えた。


「自分で考えて、

 自分で言葉にすることの

 手応え、でしょうか」


彼は、

すぐに返さなかった。


その沈黙は、

考えている証だった。


「それは」


彼は、

ゆっくりと言った。


「とても大切なものだと思います」


「……そうでしょうか」


「ええ」


短く、確かに。


「あなたが、

 外で得たものは」


「ここに戻っても、

 失われません」


その言葉に、

胸の奥が、静かに落ち着く。


歩きながら、

私は気づいていた。


私はもう、

“戻ってきた側”ではない。


“行って、帰ってきた側”だ。


外で得た視点を、

ここに持ち帰っている。


それは、

私の立ち位置を、

ほんの少しだけ変えていた。


「……以前より」


私が言うと、

彼は視線を向けた。


「ここが、

 狭く感じるかもしれません」


「ええ」


否定はしない。


「でも」


彼は、続けた。


「狭くなったのではなく、

 あなたの世界が

 広がったのだと思います」


その言葉は、

とても静かで、

とても正確だった。


庭の端まで来て、

自然に立ち止まる。


風が、

葉を揺らす。


私は、

少しだけ笑みを浮かべた。


「……そうかもしれません」


それ以上、

言葉はいらなかった。


夜、

部屋に戻る。


私は、

今日一日のことを思い返していた。


外に出て、

戻ってきた。


関係は壊れず、

距離も変わらない。


けれど、

私の中にあるものだけが、

確かに増えている。


「……これで、いい」


静かにそう思い、

灯りを落とした。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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