第28話 続けることの不安
夜、
灯りを落としたあとも、
私はすぐには眠れなかった。
眠れない、というほどではない。
ただ、
目を閉じても、思考が静まりきらない。
昼間の会話が、
何度も浮かんでは消える。
彼の事情。
私の選択。
そして――
続いている、という事実。
私は、
これまで何度も「終わり」を経験してきた。
役割が終わること。
立場が変わること。
関係が解かれること。
終わりは、
いつも分かりやすかった。
だからこそ――
今のように、
「終わらないまま続いている状態」が、
少しだけ、不安だった。
「……もし」
独り言は、
闇に溶ける。
もし、この関係が壊れたら。
もし、どちらかが先に決めてしまったら。
争いになるわけではない。
責められることもない。
それでも、
静かに失うのだろう。
今の、この距離を。
翌朝、
庭に出る。
空気は澄んでいて、
不安を抱えていることが、
少しだけ場違いに思えた。
私は、
歩きながら考える。
終わる不安があるのは、
続いているからだ。
続いていなければ、
失うものもない。
「……それは」
悪いことではない。
午後、
エドワード様と顔を合わせた。
「今日は、
少し早く来ました」
「そうですか」
いつもと変わらない声。
それが、
少しだけ胸に刺さる。
私は、
迷った末に言った。
「……少しだけ、
聞いてもいいですか」
「はい」
間を置かない返事。
「この関係が」
言葉を選びながら、
続ける。
「いつか、
終わる可能性について」
彼は、
すぐには答えなかった。
否定もしない。
軽くも扱わない。
「可能性は、あります」
落ち着いた声だった。
「続くものにしか、
終わりはありません」
その言葉に、
私は静かに頷いた。
「……怖くは、
ありませんか」
正直な問いだった。
彼は、
少しだけ目を細める。
「怖くないとは、
言いません」
「ですが」
一拍置いて。
「怖さだけで、
選択を止めたくはありません」
その言葉に、
胸の奥が、静かに温かくなる。
「あなたが」
彼は続けた。
「不安を口にできたことを、
私は、信頼だと受け取っています」
その受け取り方が、
私には、救いだった。
不安を見せることが、
弱さにならない。
私は、
その先を、言いかけた。
不安の、
もう一つ奥にあるもの。
まだ、
形になっていない言葉。
「……続きは」
私は、
言い直した。
「明日、
お話ししてもいいですか」
「はい」
彼は、
それだけ答えた。
急がせない。
聞き出さない。
「明日も、
この時間に」
「ええ」
彼が帰ったあと、
私は、
一人で小径を歩いた。
続けることには、
不安がある。
けれど、
不安があるからといって、
今を否定する理由にはならない。
「……続いているから、
考えてしまうだけ」
そう、
言い聞かせてみる。
続けることの不安は、
続いている証。
それなら――
今は、それを抱えたままでいい。
そこまでは、
分かっている。
分かっていないのは、
明日、私が、
何を言うつもりなのか、だった。
続きは、明日。
そう言ったとき、
その続きの言葉は、
まだ、私の中で、
決まっていなかった。




