第26話 守られない夜
その夜、
私は一人で屋敷を出た。
正確には、
護衛はついている。
けれど、隣に立つ人はいない。
「本当に、
お一人でよろしいのですか」
出がけに、マリアがそう聞いた。
「ええ。
今日は」
理由は、
言わなかった。
言葉にしなくても、
分かってもらえる気がしたから。
会合は、
さほど大きなものではない。
顔ぶれも穏やかで、
初対面の人は少ない。
それでも、
夜の社交は、昼とは違う。
視線が集まりやすく、
言葉も少しだけ多くなる。
私は、
深呼吸を一つして、
会場に入った。
「お久しぶりです」
声をかけられ、
微笑んで応じる。
「最近は、
落ち着いていらっしゃいますね」
「ありがとうございます」
それだけで、
会話は次へ流れる。
誰も、
隣に誰がいるのかを探さない。
それが、
少し意外だった。
音楽が流れ、
人が動く。
私は、
立ち位置を変えながら、
必要な会話だけをこなした。
疲れないわけではない。
けれど、
過剰に消耗もしない。
「……一人でも、
大丈夫ですね」
独り言は、
自分への確認だった。
ふと、
視線を感じる。
会場の端。
エドワード様が、
壁際に立っていた。
こちらを見ているが、
近づいてはこない。
挨拶もしない。
視線を送るだけ。
それだけで、
十分だった。
会話の輪が一段落したとき、
ある夫人が言った。
「今日は、
お一人なのですね」
「はい」
「でも、
とても自然です」
自然。
その言葉が、
静かに胸に落ちる。
「ありがとうございます」
それ以上、
付け加える必要はなかった。
夜も更け、
会合が終わりに近づく。
私は、
自分の足で出口へ向かった。
背後から、
足音が一つ。
「……お疲れさまでした」
エドワード様だった。
声は低く、
周囲に溶け込むような調子。
「ありがとうございます」
「今日は、
出番がないと思っていました」
その言葉に、
私は少しだけ笑みを浮かべた。
「そうでしたか」
「ええ」
それだけ。
馬車に乗る前、
夜風に当たる。
私は、
今日の自分を振り返っていた。
誰かに守られなかった。
前に立ってもらわなかった。
それでも、
孤独ではなかった。
「……できましたね」
私がそう言うと、
彼は小さく頷いた。
「ええ」
評価もしない。
誇張もしない。
ただ、
事実として受け取る。
屋敷に戻り、
部屋で一人になる。
私は、
今日の夜を思い返していた。
守られない夜。
けれど、
不安は残っていない。
必要なときに守られ、
必要なときに一人で立つ。
その行き来ができることが、
今の私の強さなのだと、
初めて思えた。
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