第24話 選ばないという選択
その話は、
あまりに穏やかに持ち込まれた。
だからこそ、
重く感じられた。
午後、
父に呼ばれて応接室へ向かう。
表情は、いつも通り。
深刻さも、緊張もない。
「座りなさい」
促されて、椅子に腰を下ろす。
「最近、
周囲からいくつか声があってな」
声の調子は、報告に近い。
「エドワード殿との関係についてだ」
私は、
黙って頷いた。
驚きはない。
いつか来ると思っていた。
「正式な話ではない」
父は、先にそう断った。
「だが、
形を考えてもいいのではないか、
という声は、確かにある」
形。
その言葉が、
静かに胸に落ちる。
「お前に、
急がせるつもりはない」
それも、本心だと分かる。
「ただ、
どう考えているのかだけ、
聞かせてほしい」
選択を迫られているわけではない。
意見を求められているだけだ。
私は、
しばらく考えた。
答えは、
すぐに出た。
「……今は」
ゆっくりと、
言葉を選ぶ。
「どちらも、
選びません」
父は、
眉をひそめなかった。
「断る、ということか」
「いいえ」
私は、首を横に振る。
「断るわけでも、
受けるわけでもありません」
「今は、
決めない、という選択です」
その言葉を口にして、
自分でも驚いた。
曖昧ではない。
逃げでもない。
はっきりとした、選択だった。
父は、
しばらく黙って私を見ていた。
やがて、
小さく頷く。
「そうか」
それ以上、
何も言わない。
「お前が選んだなら、
それでいい」
それだけ。
私は、
胸の奥が静かにほどけるのを感じた。
夕方、
庭でエドワード様と会った。
「今日は、
少し改まった話をしていましたか」
「……ええ」
隠す理由はない。
「婚約の話が、
少しだけ出ました」
彼は、
表情を変えなかった。
驚きも、
期待も、
失望もない。
「そうですか」
それだけ。
「私は」
私は、
続けた。
「今は、
選ばないことを選びました」
彼は、
一拍置いてから頷いた。
「承知しました」
短く、
確かな声。
「……それで」
私は、
少しだけ言葉に迷った。
「ご不満では、
ありませんか」
問いというより、
確認だった。
彼は、
首を横に振る。
「不満ではありません」
即答だった。
「あなたが、
自分で決めたことです」
「それ以上の理由は、
必要ありません」
その言葉を聞いて、
胸の奥が、静かに落ち着く。
夜、
部屋に戻る。
私は、
今日の選択を思い返していた。
選ばなかった。
決めなかった。
それは、
宙ぶらりんではない。
「今は、ここにいる」
そう決めただけだ。
それだけで、
十分だと思えた。
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