第20話 守られない選択
その出来事は、
騒ぎになるほどのものではなかった。
けれど、
私にとっては、
はっきりと「選択」を迫られる出来事だった。
午前中、
屋敷に一通の書状が届いた。
差出人は、
遠縁にあたる伯爵家。
内容は簡潔だった。
かつての婚約に関わる費用の一部について、
「確認したいことがある」というもの。
請求ではない。
責任追及でもない。
ただ――
私が対応することを前提とした文面だった。
私は、
すぐに父に相談することもできた。
エドワード様に任せることも、
きっとできただろう。
これまでなら、
そうしていたかもしれない。
けれど、
私は書状を机に置いたまま、
しばらく考えた。
「……これは」
逃げたい話題ではない。
けれど、
誰かに引き受けてもらいたい話題でもない。
私自身の過去に、
私自身で線を引く必要がある。
そう思った。
昼過ぎ、
私は自分で返書を書いた。
言葉は、
必要最低限。
事実関係の整理。
こちらの立場。
これ以上のやり取りは不要であること。
感情は、入れなかった。
それは、
冷たいからではない。
もう、
感情を持ち出す必要がなかったからだ。
書状を封じ、
使用人に託す。
その背中を見送ったとき、
胸の奥に、
小さな緊張と、
それ以上の静けさがあった。
「……できましたね」
独り言は、
自分への確認だった。
夕方、
庭でエドワード様と会った。
「今日は、
少し忙しそうでしたね」
「ええ。
少しだけ」
私は、
書状の件を話した。
隠す理由はなかった。
彼は、
黙って聞いていた。
途中で遮らない。
助言もしない。
ただ、
聞く。
「……ご自身で、
対応されたのですね」
「はい」
それだけのやり取り。
しばらく沈黙が続いたあと、
彼は静かに言った。
「今回は、
あなたが前に出ると思っていました」
その言葉に、
私は少しだけ驚いた。
「そうですか」
「ええ」
理由は、語られなかった。
けれど、
それで十分だった。
「守られない選択をすることも」
彼は、続ける。
「あなたが、
ここに立っている証だと思います」
評価ではない。
承認でもない。
ただ、
事実を受け取った言葉。
私は、
小さく息を吐いた。
「……少し、緊張しました」
正直な言葉だった。
彼は、
わずかに微笑んだ。
「それも、
自然です」
夜、
部屋に戻る。
私は、
今日の自分を思い返していた。
誰かに任せなかった。
誰かに守られなかった。
それでも――
一人で立ったわけではない。
選んだのは、
「自分でやる」ということ。
そして、
その選択を、
尊重されていた。
「……悪くないですね」
私は、
静かにそう呟いた。
守られることと、
自分で立つこと。
どちらか一方ではなく、
行き来できること。
それが、
今の私の立ち位置なのだと、
ようやく分かった気がした。
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