第19話 並び続けるということ
最近、
周囲の視線が、少しだけ変わった。
探るようなものではない。
噂めいたざわめきでもない。
もっと穏やかで、
もっと当然のような――
「次はどうするのか」という空気。
私は、その変化を、
否定も肯定もせずに受け止めていた。
庭を歩いていると、
顔見知りの貴族夫人に声をかけられた。
「この頃は、
お二人でいらっしゃることが多いのね」
微笑みは、
探るものではない。
事実を確認しているだけだ。
「ええ」
私は、そう答えた。
それ以上、
付け加える言葉はない。
けれど、
夫人は満足そうに頷いた。
「そうでしょうね」
まるで、
それが前提であるかのように。
屋敷に戻り、
自室で一人になる。
私は、
その「前提」という言葉を、
心の中で転がしてみた。
並んでいること。
一緒にいること。
それが、
いつの間にか「続くもの」として
見られ始めている。
不快ではない。
けれど――
少しだけ、重さを感じた。
「……並び続ける、ですか」
独り言は、
自分に向けた確認だった。
夕方、
エドワード様と庭で会った。
挨拶を交わし、
自然に歩き始める。
最近は、
こうすることが多い。
「最近、
少し疲れているように見えます」
唐突な言葉。
けれど、
心配の押しつけではなかった。
「……少しだけ」
私は、正直に答えた。
理由は、
説明しなかった。
彼も、
聞かなかった。
「周囲の期待でしょうか」
彼が、静かに言う。
「……ええ」
否定はしなかった。
「期待されること自体は、
悪いことではありません」
彼は、そう前置きしてから続ける。
「ですが、
応えなければならないものでもありません」
それは、
彼自身の姿勢でもあった。
「並び続けることは」
彼は、少しだけ言葉を選ぶ。
「立ち止まるより、
ずっと難しい」
その言葉に、
私は小さく息を吐いた。
「……そうですね」
歩きながら、
私は考えていた。
距離を取ることより、
距離を縮めることより――
「続けること」のほうが、
実は重たい。
選び続けるということ。
それは、
静かで、
終わりのない行為だ。
「決めなくていい」
彼は、歩調を変えずに言った。
「並び続けることも、
続けないことも」
「……はい」
「決めるなら」
一拍、置いて。
「一緒に考えましょう」
約束ではない。
誘導でもない。
ただの、
提案。
私は、
その言葉を胸の奥で受け止めた。
夜、
部屋で灯りを落とす。
今日一日を、
ゆっくり振り返る。
私は、
何かを失ったわけではない。
ただ、
次の段階に来ただけだ。
「並び続ける」という選択。
それは、
まだ、答えを出さなくていい問い。
けれど――
逃げずに向き合える問いでもある。
そう思えた夜だった。
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