第18話 静かに隣にいる未来
それから、少し時間が経った。
季節がひとつ巡った、と言うほどではない。
けれど、庭の景色は、確かに変わっていた。
白百合は姿を消し、
代わりに、低い草花が静かに根を張っている。
私は、その庭を歩きながら、
変わったことと、変わらなかったことを思い浮かべていた。
暮らしは、穏やかなままだ。
急に何かが決まったわけでも、
大きな発表があったわけでもない。
ただ、
ここにいる時間が、
自然に続いている。
誰も、
私に「どうするのか」とは聞かない。
聞かれなくなった、というより――
聞く必要がない、と理解されたのだと思う。
「おはようございます」
背後から、
聞き慣れた声がした。
振り返ると、
エドワード様が立っている。
以前と変わらない距離。
近づきすぎず、
離れすぎず。
「おはようございます」
それだけで、
会話は成立する。
並んで歩く。
いつから、
そうするようになったのかは、
はっきり覚えていない。
気づいたら、
同じ方向を見て、
同じ速さで歩いていた。
「この庭も、
だいぶ雰囲気が変わりましたね」
彼が言う。
「ええ」
「以前も良かったですが、
今も、悪くありません」
比較ではなく、
肯定だった。
私は、
その言葉を、静かに受け取る。
「……ここにいることを」
私は、歩きながら言った。
「選び続けるつもりです」
未来の宣言ではない。
今日の話だ。
彼は、
足を止めずに答えた。
「それで、十分です」
「いつか、
選ばなくなるかもしれません」
私がそう言うと、
彼は、少しだけ微笑んだ。
「そのときは、
その選択を尊重します」
追わない。
縛らない。
それが、
この人の在り方なのだと、
もう分かっている。
庭の端まで来て、
自然に立ち止まる。
空は、
高く、静かだった。
「……不思議ですね」
私が言う。
「身を引いたはずなのに」
彼は、
少し考えてから答えた。
「今は、
引いてはいないように見えます」
否定でも、
肯定でもない。
ただの、観察。
私は、
その言葉を噛みしめてから、
小さく頷いた。
「そうですね」
私はもう、
逃げていない。
前に出ることも、
無理にしない。
ただ、
ここにいる。
別れ際、
彼は一言だけ言った。
「ここにいてくれて、
ありがとうございます」
理由は、聞かない。
私は、
少しだけ視線を伏せてから答えた。
「こちらこそ」
それで、十分だった。
夜、
部屋に戻り、
灯りを落とす。
私は、
静かに思う。
私は、
選ばれたわけではない。
救われたわけでも、
連れ戻されたわけでもない。
私は、
自分で立ち止まり、
自分で選び直し、
そして――
静かに隣に立っている。
それだけのこと。
それが、
今の私には、
何よりも安心できる未来だった。
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