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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

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第20話 選び直す位置

夜は、静かすぎた。


風もない。

葉も揺れない。


音が消えている。


私は庭に立つ。


椅子は円形。

中心は空席。


だが、


そこはもう、

ただの空白ではない。


一度、触れた場所。


選んだ場所。


戻ったはずなのに、


戻っていない。


「まだ、残っていますね」


声がする。


振り返る。


彼がいる。


いつもの距離。

いつもの立ち位置。


変わらない。


それでも、


今日の私は、少し違う。


「ええ」


私は答える。


「少しだけ」


彼は何も言わない。


ただ、隣に立つ。


それだけで、


息が整う。


私は中心を見る。


そこには何もない。


だが、


そこに立った感覚が、


まだ消えない。


「後悔していますか」


彼が問う。


私は少し考える。


短くはない。


だが、


長すぎもしない。


「いいえ」


と答える。


それは本当だ。


間に合ったものがある。


動いたものがある。


それは、


確かにあった。


「では」


彼は続ける。


「どうしますか」


問いは変わる。


過去ではなく、


これから。


私は答えない。


まだ、


決めていない。


足音が近づく。


イリアだ。


彼女は円の縁に立つ。


だが、


いつもより内側に近い。


「報告が出ました」


彼女は言う。


「被害は最小限に抑えられました」


私は頷く。


「そうですか」


「はい」


彼女は続ける。


「あなたの判断で」


私は目を閉じる。


その言葉は、


軽くない。


「違います」


私は言う。


「現地が動いたからです」


責任を逃れるためではない。


事実として。


だが、


イリアは首を振る。


「きっかけは、あなたです」


否定できない。


それもまた、


事実だ。


沈黙が落ちる。


夜は静かだ。


だが、


その静けさは、


以前とは違う。


「私は」


イリアが言う。


「選ぶことは、必要だと思いました」


私は彼女を見る。


彼女は続ける。


「間に合わないことがあるなら」


「選ばなければならない」


強い言葉。


迷いもある。


だが、


逃げてはいない。


「はい」


私は答える。


それを否定しない。


できない。


「ですが」


私は続ける。


「選び続けることも、必要です」


一度ではない。


一度で終わらない。


その言葉に、


イリアは少しだけ目を細める。


「……難しいですね」


「ええ」


私は答える。


簡単ではない。


だからこそ、


意味がある。


夕方、庭に人が集まる。


小さな会合。


いつもの形式。


円形。

空席。


だが、


視線が違う。


中心を見る目が、


以前より強い。


議論が始まる。


速い。


迷いが少ない。


一人が言う。


「この案でいきましょう」


すぐに複数の頷き。


そして、


視線が動く。


中心へ。


空席へ。


そして、


私へ。


私はそれを受け止める。


求められている。


決定を。


指示を。


中心を埋める存在を。


私は一歩、


前に出る。


内側へ。


中心に近づく。


空席のすぐ手前。


沈黙が落ちる。


私は、


止まる。


入らない。


そのまま、


言う。


「一つだけ」


声は静かだ。


だが、


はっきりしている。


「この案で、何が残りますか」


問いを置く。


答えではない。


問い。


沈黙。


やがて、


一人が言う。


「別案の可能性です」


もう一人。


「対応の柔軟性が減ります」


さらに一人。


「短期的には有効ですが、長期は不明です」


問いが広がる。


深さが戻る。


私は、


それ以上言わない。


一歩、下がる。


外側へ戻る。


中心には立たない。


だが、


触れた。


流れは変わる。


議論は少し遅くなる。


だが、


崩れない。


結論が出る。


速すぎず、

遅すぎず。


深さを残したまま。


会合が終わる。


誰も急がない。


誰も迷っていない。


夜、庭に戻る。


足音が一つ。

そして、もう一つ。


「選びましたね」


彼が言う。


「ええ」


私は答える。


「少しだけ」


選んだ。


だが、


決めてはいない。


その間。


その位置。


私は気づく。


外側は、


動かない場所ではない。


中心は、


固定される場所でもない。


その間で、


選び直し続ける。


それが、


今の私の立ち方だ。


イリアが静かに言う。


「それが、外側ですか」


私は少しだけ考える。


そして、


答える。


「まだ、途中です」


夜風が通る。


庭は静かだ。


椅子は円形。

中心は空席。


だが、


その空席は、


もうただの空白ではない。


選び直す場所。


私はそこに、


まだ立たない。


だが、


いつでも触れられる位置にいる。


次に、


何を選ぶのか。


それは、


まだ決まっていない。


だが、


もう、


迷いは止まらない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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