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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

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第18話 それでも隣に

朝は、静かすぎた。


風もなく、

葉も揺れない。


音がない。


私は庭に立つ。


椅子は円形。

中心は空席。


だが、


昨日と同じではない。


中心に立った感覚が、

まだ残っている。


重さは消えていない。


外側に戻っても、

完全には戻らない。


私は、しばらく動かなかった。


「まだ、そこにいますね」


声がする。


振り返る。


彼がいる。


いつもの距離。

いつもの立ち位置。


変わらない。


それだけで、


少しだけ、

息がしやすくなる。


「少しだけ」


私は答える。


彼は私の隣に立つ。


何も聞かない。


何も急がない。


それでも、


隣にいる。


その事実だけが、

確かにある。


しばらくして、


彼が静かに言う。


「昨日、見ました」


私は目を閉じる。


「ええ」


隠す必要はない。


「どうでしたか」


短い問い。


だが、


軽くはない。


「重かったです」


私は答える。


彼は頷く。


「そうでしょうね」


それだけ。


評価も、助言もない。


ただ、受け止める。


私は続ける。


「逃げられませんでした」


「ええ」


「外側も、同じだと分かりました」


彼は少しだけ目を細める。


「それで?」


問いは続く。


私は少し考える。


答えは、まだない。


だが、


一つだけ、


はっきりしていることがある。


「私は」


言葉を選ぶ。


「まだ、決めていません」


彼は頷く。


否定しない。


急がせない。


「それでいいのですか」


彼は問う。


私は少しだけ笑う。


「分かりません」


正直に答える。


分からない。


それが、今の状態だ。


沈黙が落ちる。


だが、


その沈黙は重くない。


彼がいる。


それだけで、


少しだけ、軽くなる。


「一つだけ」


彼が言う。


私は顔を上げる。


「あなたがどこに立っても」


その声は変わらない。


「何を選んでも」


一拍。


「私は隣を選びます」


静かに。


確かに。


その言葉は、


何度も聞いたはずなのに、


今日は少し違う。


重さがある。


中心に立ったあとで聞くと、


意味が変わる。


私は目を閉じる。


その言葉を、


ゆっくりと受け取る。


「……ありがとうございます」


それだけ言う。


余計な言葉は要らない。


十分だから。


昼、イリアが来る。


彼女は、いつもより静かだ。


「昨夜のことを、考えていました」


彼女は言う。


私は頷く。


「私もです」


彼女は円の縁に立つ。


だが、


少しだけ、内側寄り。


昨日よりも、


確実に変わっている。


「私は」


彼女は言う。


「選びたいと思いました」


私は彼女を見る。


「どちらかを」


「はい」


迷いはある。


だが、


逃げてはいない。


「間に合わないことがあるなら」


彼女は続ける。


「間に合わせる選択をしたい」


強い言葉だ。


だが、


揺れている。


私はゆっくりと聞く。


「すべてを?」


彼女は少しだけ止まる。


「……いいえ」


答えは出ている。


彼女も分かっている。


すべては救えない。


だから、


選ぶしかない。


「難しいですね」


彼女が言う。


「ええ」


私は答える。


「どちらも、正しいので」


夕方、小さな会合が開かれる。


レオンはいない。


いつもの参加者。


いつもの形式。


だが、


空気は違う。


議論は始まる。


少しだけ遅い。


だが、


止まらない。


一人が言う。


「この案で」


すぐに別の声。


「少し待ってください」


イリアだ。


彼女は止める。


時間を使う。


問いを残す。


だが、


昨日とは違う。


止めたあと、


彼女は言う。


「ただし、時間は限ります」


三分。


彼女はそう決める。


止める。


だが、


止めすぎない。


議論が動く。


結論が出る。


遅すぎない。


浅すぎない。


その中間。


私はそれを見ている。


何も言わない。


だが、


分かる。


彼女は、


選び始めている。


夜、庭に戻る。


足音が一つ。

そして、もう一つ。


「変わりましたね」


彼が言う。


「ええ」


私は答える。


「少しだけ」


イリアは、


外側に立ちながら、


選び始めた。


それは、


私とは少し違う立ち方だ。


だが、


間違いではない。


私は空席を見る。


そこには、何もない。


だが、


そこに向かう形は、


一つではない。


私はまだ、


決めていない。


だが、


一つだけ、


分かったことがある。


どこに立っても、


隣は変わらない。


それだけで、


少しだけ、


前に進める。


夜風が通る。


庭は静かだ。


だが、


静けさの中に、


新しい動きがある。


次に、


私は何を選ぶのか。


まだ、


決まっていない。


だが、


もう、


止まってはいない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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