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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

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第15話 遅すぎる選択

夜は、少しだけ長かった。


庭は静かで、

風も穏やかで、

何も変わっていないはずだった。


それでも、


眠りが浅い。


私は目を閉じたまま、

あの言葉を繰り返していた。


――遅い。


その一言は、

驚くほど残る。


朝、庭に出る。


椅子は円形。

中心は空席。


何も変わらない。


けれど、


そこに立つ意味が、

わずかに揺れている。


イリアはすでに来ていた。


彼女は円の縁ではなく、

少し内側に立っている。


昨日より、

半歩だけ近い。


「眠れませんでしたか」


彼女が言う。


私は頷く。


「少しだけ」


彼女も小さく頷く。


「私もです」


短い沈黙。


やがて彼女は言う。


「彼の言葉は、正しいです」


否定しない。


「ええ」


私も答える。


否定できない。


イリアは続ける。


「私は理論で整理しようとしました」


「ですが」


言葉が少しだけ揺れる。


「整理できませんでした」


私は彼女を見る。


彼女は強い。


理論を持ち、

整理し、

理解しようとする。


その彼女が、

整理できない。


それは、


重要な変化だ。


「では」


私は静かに問う。


「どう感じましたか」


彼女は少しだけ目を閉じる。


「怖いです」


短い言葉。


だが、重い。


「正しさが、一つに見えるとき」


彼女は言う。


「他の選択が、間違いに見えてしまう」


私は頷く。


それは、自然な感覚だ。


合理は、強い。


夕方、小さな会合が開かれる。


今回はレオンもいる。


円形に椅子が並ぶ。


中心は空席。


彼は迷わず、

内側に立つ。


昨日と同じ位置。


議題は簡単だ。


資源配分。


緊急ではない。

だが、重要だ。


議論が始まる。


いつもより速い。


迷いがない。


レオンが言う。


「この配分でいきましょう」


理由は明確。

根拠もある。


誰もすぐには反対しない。


効率的だ。


正しい。


だが、


そのとき、


一人が小さく言う。


「別の案も」


すぐにレオンが答える。


「時間がありません」


遮るわけではない。


ただ、


優先順位を示す。


空気が流れる。


別案は、

そのまま消えかける。


私はそれを見ている。


動かない。


止めない。


ただ、


見る。


イリアが、わずかに動く。


彼女は一歩、

内側に踏み出す。


「少しだけ」


彼女は言う。


「比較しませんか」


その声は小さい。


だが、


確かに場に残る。


レオンが彼女を見る。


数秒の沈黙。


「必要ですか」


彼は問う。


「必要です」


イリアは答える。


迷いがない。


昨日とは違う。


彼女は選んでいる。


レオンは一瞬だけ考え、


「三分だけです」


と答える。


条件をつける。


議論が再開する。


別案が出る。


時間は短い。


だが、


視点が増える。


やがて、結論が出る。


最初の案と、

少しだけ違う形。


わずかな修正。


大きな違いではない。


だが、


確かに違う。


会合が終わる。


誰も急いでいない。


レオンが静かに言う。


「遅れましたね」


イリアは答える。


「はい」


「それでも」


一瞬だけ間を置く。


「必要でした」


レオンは彼女を見る。


評価ではない。


確認でもない。


ただ、


見ている。


やがて、彼は言う。


「あなたは、選びましたね」


「はい」


イリアは答える。


「外側で」


その言葉に、


私は少しだけ目を細める。


外側。


彼女はまだ完全ではない。


だが、


確かに近づいている。


夜、庭に戻る。


足音が一つ。

そして、もう一つ。


「変わりましたね」


彼が言う。


「ええ」


私は答える。


「少しだけ」


イリアは選んだ。


止めた。


時間を使った。


それは、


外側の行為だ。


だが、


私は動かなかった。


止めなかった。


選ばなかった。


空席を見る。


そこには何もない。


だからこそ、


誰かが動かなければ、

何も起きない。


私は、


動かなかった。


それは、


選択だったのか。


それとも――


遅れだったのか。


夜風が通る。


庭は静かだ。


だが、


静けさの奥で、


何かが、わずかにずれている。


私はまだ、


そのずれを、


見ているだけだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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