第12話 揺れの引き受け方
外側調整者という呼び名は、数週間で定着した。
報告書。
議事録。
通達文。
どこにも同じ言葉が並ぶ。
「外側調整者を配置」
「外側調整者が介入」
私はそれを読む。
便利だと思う。
同時に、
少しだけ距離を感じる。
午後、別の国から報告が届く。
「外側調整者同士の意見対立により、会議が停滞」
私は視線を止める。
外側が、複数いる。
そして、
調整が重なる。
記録を読む。
二人の調整者が、
それぞれ異なる方向へ議論を導いている。
どちらも正しい。
どちらも合理的。
だからこそ、
まとまらない。
イリアが言う。
「役割が衝突しています」
私はゆっくりと首を振る。
「役割ではありません」
彼女は私を見る。
「では、何ですか」
「選択が重なっています」
外側に立つということは、
一つの正解を持つことではない。
その場で、
その瞬間で、
選び続けること。
それが複数あれば、
揺れる。
夕方、小さな調整会議が開かれる。
今回は意図的に、
外側調整者を二人置く。
同じ円形。
同じ空席。
議論は始まる。
最初は順調だ。
だが、すぐに分岐する。
一人は慎重に進める。
もう一人は、
早期の合意を促す。
どちらも必要だ。
どちらも間違っていない。
空気が揺れる。
誰かが視線をさまよわせる。
私は動かない。
外側に立つ。
選ばないのではなく、
選ぶのを急がない。
沈黙が少しだけ伸びる。
やがて、一人が言う。
「どちらも残しませんか」
第三の提案。
分岐を消さない。
保留する。
その場に置く。
流れが変わる。
二人の調整者も、
一歩引く。
議論は再び動く。
結論は出ない。
だが、
崩れない。
夜、庭に戻る。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「揺れましたね」
彼が言う。
「ええ」
私は答える。
「それでよいのですか」
私は少し考える。
「揺れは、なくすものではありません」
私は静かに言う。
「引き受けるものです」
整えれば、
揺れは消える。
だが、
消えた揺れは、
どこかで歪む。
イリアが言う。
「理論では、揺れは誤差です」
私は首を振る。
「揺れは、本体です」
彼女はその言葉を、
すぐには理解しない。
だが、
否定もしない。
夜風が通る。
庭は静かだ。
椅子は円形。
中心は空席。
揺れは、そこにある。
見えないだけで、
常に動いている。
私はその揺れを、
消さずに、
持ち続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。
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