第10話 境界の上で
南方連合の会議は、その後、ゆっくりと進み始めた。
結論は急がれず、
前提が一つずつ確かめられ、
選択が、少しずつ積み重なる。
報告は短い。
「進行再開」
それで十分だった。
私は書簡を閉じる。
完全な解決ではない。
だが、
止まっていたものは動いた。
午後、イリアが庭に立っている。
彼女は中心には近づかず、
円の縁に静かに立っていた。
「昨日のことを、考えていました」
彼女は言う。
「あなたは、中心に入りませんでした」
「ええ」
「ですが、完全に外側でもなかった」
私は頷く。
「境界に立っていました」
境界。
彼女はその言葉を確かめるように繰り返す。
「境界は、不安定です」
「はい」
私は答える。
「だからこそ、選択が必要になります」
安定した位置ではない。
常に揺れる。
だから、
その場で決めるしかない。
夕方、小さな会合が開かれる。
前回と同じ参加者。
同じ形式。
円形。
空席。
議論は進む。
だが、今回は違う。
一人が立ち止まる。
「少しだけ、確認したいのですが」
その声に、
すぐに別の声が重なる。
「時間を取ってもよいと思います」
問いが止まらない。
広がる。
以前よりも、少しだけ深い。
カミルは黙って見ている。
彼も気づいている。
手順ではない部分が、
動き始めていることに。
会合が終わる。
時間は予定より長い。
だが、
誰も急いでいない。
外に出ると、カミルが言う。
「非効率です」
その言葉は、否定ではない。
確認のようだった。
「そうですね」
私は答える。
「ですが、必要な非効率です」
彼は少しだけ考え、
「標準化では扱えません」
と静かに言う。
「はい」
私は頷く。
「扱えないものがあります」
夜、庭に立つ。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「少し変わりましたね」
彼が言う。
「ええ」
私は答える。
「戻った、のかもしれません」
完全ではない。
だが、
問いが消えていない。
それだけで十分だ。
イリアがゆっくりと歩いてくる。
彼女は中心には向かわない。
外側にも出ない。
円の縁で止まる。
「ここに立つ意味が、少しだけ分かりました」
彼女は言う。
私は何も言わない。
それでいい。
言葉にすれば、
固定される。
境界は、
固定されない場所だ。
整わないまま、
動き続ける。
そのために、
私は今日も、
そこに立っている。
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