表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/125

第9話 中心に触れるとき

その知らせは、静かに届いた。


南方連合で、

大規模な調整会議が停滞しているという。


形式は守られている。

手順も整っている。


それでも――


結論に至らない。


報告書は簡潔だった。


「議論は循環し、

 決定が先送りされている」


私は書面を閉じる。


効率が上がれば、

停滞は減るはずだった。


だが今は逆だ。


止まるべきところで止まり、

進むべきところで進めない。


午後、イリアが訪れる。


「見ていただけますか」


彼女の声は落ち着いているが、

わずかに緊張が混じっている。


私は頷く。


現地の記録を確認する。


円形配置。

発言順。

中心空席。


すべて守られている。


だが、やり取りは繰り返される。


誰も決定を引き受けない。


「責任の回避が起きています」


イリアが言う。


「いえ」


私は静かに否定する。


「回避ではありません」


彼女は私を見る。


「では、何ですか」


「選べていないのです」


外側に立つことは、

選ばないことではない。


だが、


選ぶための覚悟がなければ、

ただの空白になる。


夕方、緊急の招集がかかる。


現地との接続会議。


円形の映像。

空いた中心。


参加者の表情は疲れている。


議論は続いている。


だが、進まない。


誰もが、

正しいことを言っている。


だからこそ、


決まらない。


沈黙が落ちる。


視線が揺れる。


そして、


ゆっくりと私に向く。


私はその視線を受け止める。


答えを求めている。


指示を求めている。


中心を埋める存在を。


私は一歩、前に出る。


円の内側へ。


中心に近づく。


空席のすぐそば。


十年前、

私はそこに立たなかった。


今は違う。


完全に中心には立たない。


だが、


触れる距離まで入る。


「一つだけ、確認させてください」


私は静かに言う。


声は広がる。


全員が聞く。


「この会議は、何のために開かれていますか」


単純な問い。


だが、


誰もすぐに答えない。


やがて、一人が言う。


「合意形成のためです」


「何についての合意ですか」


さらに問いを重ねる。


沈黙が深くなる。


やがて、


別の声。


「前提が曖昧だったかもしれません」


空気が変わる。


私はそれ以上言わない。


一歩、下がる。


再び、外側へ。


中心には立たない。


だが、


触れた。


議論が再開する。


今度は、少し違う。


問いが先に立つ。


結論は遅れる。


だが、


流れは進む。


会議が終わる。


明確な合意には至らない。


それでも、


停滞は解けている。


夜、庭に戻る。


足音が一つ。

そして、もう一つ。


「今日は、近づきましたね」


彼が言う。


「ええ」


私は頷く。


「少しだけ」


中心に触れた。


それでも、


立たなかった。


イリアが静かに言う。


「あなたは、入ることもできるのですね」


私は空席を見る。


「必要なときだけです」


常に立てば、

中心になる。


一度も立たなければ、

外側は機能しない。


その間。


選び続ける。


それが、


外側に立つということ。


十年後の庭は静かだ。


けれど、


私は少しだけ理解した。


外側とは、


距離ではない。


関わり方だ。


私はまた、

外側に戻る。


それでも、


必要なら、触れる。


整わないまま、

動き続けるために。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ