第8話 選ばないという責任
数日後、再び大規模な会合が開かれた。
今回は前回よりも参加者が多い。
若手だけでなく、
中堅の実務者も加わっている。
庭方式は、すでに「標準」になりつつあった。
円形に並ぶ椅子。
空いた中心。
手順は守られている。
議論は整っている。
そして――
速い。
「この案でよろしいでしょうか」
一人が言う。
複数の頷き。
異論は出ない。
そのまま進みかけたとき、
別の声が上がる。
「少し、確認させてください」
前回と同じように、
小さな問い。
だが、今回は違う。
数人がすぐに応じる。
「問題ありません」
「前提は共有されています」
問いは、
広がらない。
そのまま収束する。
私はそれを見ている。
止めない。
答えない。
ただ、見ている。
夕方、会合は予定より早く終わる。
効率は高い。
成果も出ている。
外に出ると、イリアが言う。
「今回は、問いが広がりませんでした」
「ええ」
私は頷く。
「なぜだと思いますか」
彼女は少し考える。
「結論が見えていたからです」
「それもあります」
私は続ける。
「もう一つは」
言葉を選ぶ。
「誰も、止めなかったからです」
イリアの瞳がわずかに揺れる。
「止める責任、ですか」
私は頷く。
「問いを深めることも、選択です」
外側に立つということは、
何も決めないことではない。
何も言わないことでもない。
必要なときに、
流れを止める。
その責任を持つこと。
夜、庭に戻る。
椅子はそのまま。
中心は空席。
私は円の縁に立つ。
イリアも同じ位置に立つ。
「今日、私は止めませんでした」
彼女が言う。
「ええ」
「理論には、止める条件が書けません」
私は静かに答える。
「だから、選ぶのです」
条件ではなく、
判断でもなく、
選択。
その場で、
その瞬間に。
足音が近づく。
並ぶ音。
「難しい立ち方ですね」
彼が言う。
「ええ」
私は小さく頷く。
「だから、残るのかもしれません」
簡単なら、
すぐに形になる。
形になれば、
すぐに消える。
夜風が通る。
私は空席を見る。
そこには何もない。
だからこそ、
誰かが選ばなければ、
何も起きない。
外側は、
選ばない場所ではない。
選び続ける場所。
私はまだ、
そこに立っている。
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